277 梅花日記から その1
全く、いつ迄もヒミコ様に振られた悔しい気持ちを引きずっているんなんて、何て女々しいのかしら?
あれで、エリア統括だって言うんだから、笑っちゃうわ。
「選手の入場です!!」
この準備の良さからすると、元々開催する気だったと思えるのよね。
周辺を見渡すと、他のエリアからも来ている方々が居るのよね。あれは中華エリアのエイセイ様でしょ?それに、あっちは、東欧エリアのキーイ様。こっちは南欧エリアのペンテウス様。西欧エリアのカムロス様。中欧エリアのカラカラ様とゲタ様の御兄弟。何これ、よく考えるとヨーロッパエリアは全集合じゃない?!
いくら、暇で祭り好きとは言え、これは酷いでしょう?
「かの有名な和エリアの統括ヒミコ様の寵愛を受け、人の身でありながら精神体で精霊界の旅をしている者、その名も神崎煉。あのヒミコ様からの寵愛を受けているその男の実力とはどのようなモノなのでしょうか?まぁ、人の身ですからタカが知れているでしょう!」
何これ?茶番なの?馬鹿にした言い方ね。そう思っているのは私だけじゃないみたい。
桜花や桃花、それに火花に水花、風花、土花も同じように思っていると分かる顔になっているわ。
「馬鹿にしてるのかしらね?」
「ムカつきますね。」
「暴れちゃいますか?」
「・・・殺る?」
「良い大人が情けない。」
「馬鹿じゃないのぉ~?」
私の呟きに反応を示す桃花達。桜花だけはじっと見守っているという感じね。
何か考え事をしている素振りがあるのよね。何かしら?
「それでは、その神崎煉と対戦するのは・・・。」
何故か、会場中から音と掛け声が鳴り出した。
ウホッホ!ウホッホ!ドシン!ドシン!
ウホッホ!ウホッホ!ドシン!ドシン!
これは、海賊たちの伝統的な闘いを鼓舞する行為ね。
その音に合わせて、人が煉君が入ってきた方とは真逆の入口から来てる感じがするわ。
でも、これって?嘘でしょ?!
私は席から身を乗り出した。
「・・・ロロ様です!」
出てきた男は確かにロロ様だった。
ロロ様は観衆に手を上げ答えている。
「まさか、本人が対戦するって、もう御前試合じゃないわね。」
私の顔が引きつっているのが自分でもわかる。
でも、もう止められない。敵前逃亡はこのエリアでは死を意味するのだから。
「何なんですか?これは認められるの?」
桃花が叫んでいる。そりゃそうだ。御前試合なのに、統括する精霊神が相手をする何て前代未聞だ。しかもロロ様の準備は完璧で武器・防具も装備している。伝説のロロの装備である事は見ればわかる。あの大きな斧は戦斧の元になった武器だ。そんな物まで持ち出したのだから、ロロ様の本気度が伺える。
「さぁ、久しぶりにロロ様の本気が伺える仕様となっています。これは楽しみになってきました。」
「「「「「おぉおぉ!!」」」」」
観衆が大きく反応するのを見て、私は胸糞が悪くなったわ。
【精霊の悪巧み】【精霊の悪戯】が行われようとしている。正直、私は焦ったわ。
どうすれば良いのか分からなくなったのよ。
「梅花よ。落ち着け。大丈夫じゃ。見よ煉を。」
「えっ?ヒミコ様?」
「今度は阿保面か?我を見んでいいから、煉を見よ。」
急に登場したヒミコ様に言われて、私は煉君を見たわ。
すると、見ている私が驚くほど、静かに冷静な様子だった。
「凄い。落ち着いている。」
「薄々気づいておったのじゃろう。同じ男じゃからな。」
男同士、分かっていたとでも言うの?
そんな所を分かち合わなくても良いんじゃない?って思うわよ。
でも、ここまで来てしまった上に本人がやる気を持っているのに私達がとやかく言うべき事じゃないわよね。
「それでは、両者揃いましたので、始めたいと思います!」
アナウンスが響き渡ると、それまで騒いでいた者達が瞬時に音を無くす。
その時を見て私達は声を出した。
「煉君頑張って!」
「ガンバレ~!!」
「殺っておしまいなさい!」
「良い所みせてね~!」
静まり返った会場に良く響いた私達の声は注目を浴びたのよ。
もちろん、煉君も気づいたみたいで、こちらに向くとお辞儀をしたわ。
こんな時でも律義に礼が出来るぐらいに落ち着いているのだと思ったのね。
「どうじゃ?落ち着いておろう?」
「はい。ヒミコ様。」
「煉の、男の闘う姿を確りとみてやろうでは無いか?」
「はい。」
私達は見守るという行為を覚悟したわ。
この世界は精神世界。だけども、精神世界でダメージを受けると、それを自覚した者は肉体へとダメージを与えてしまう世界。それを煉君はどのように感じ対応するのかも、ある意味で注目する必要があるのよね。
「では、御前試合スタートです!!」
試合がスタートしたわ。
すると直ぐに煉君は動いたの。真っすぐに向かって行ったわ。
でもそれを予見していたのか、ロロ様は軽く避けると反撃を見舞うのよ。
何とか、煉君は躱していたけど。一気に後方に飛びのいた煉君を見て、私は不味いと思ったわ。何故なら、ロロ様はただの条件反射の様だったのに対して煉君は考えて動いての結果だと思ったから。つまり、既にロロ様の圧倒的有利は確信に変わったハズ。
「不味いの。」
「はい。ヤバいです。」
想像していた通りだったけど、実力差がハッキリとわかってしまった一連の行動だったのよ。
その時、ロロ様は嫌な笑顔を浮かべていたのよ。
そう、最悪の事態になる予感がしたのよ。




