264 いえ、流れる温泉です。
一度、流れる温泉の流れが止まる。
そこでようやく僕の頭に思考力が戻ってきた。
「ビー!ビー!ビー!」
「間もなく、水龍が通ります。ご注意ください。」
?水流が通る?水流が?通る?
僕の頭はクエッションマークに占領される。
「おい!小僧!聞こえてないのか?」
「えぇ?何がですか?」
「水龍様のお通りだと聞えてないのか?」
水流様?って何?スイリュウサマって?あっ!
「ドコン!!」
少し遠くの方で音がした。あれ?水面が下がっている様な・・・。
そう思った瞬間だった。
「どけどけどけどけぃ~!!」
声のする方を見ると、そこには水流様ではなくて水龍様がこちらに向かって進んできていた。
「うぁ!」
と言った時には水龍様に飲み込まれていた。
水龍様はあっちこっちで「ドコン!」という音を立てて流れる温泉内を走り?回っている。
当然、飲み込まれた僕は水龍様と一緒に流れる温泉内を流されまくっている。
息?精神体なのでしなくても大丈夫・・・ってことは無く。あっちこっちで水面から顔を出して息してます。まぁ、この行為も欲求に従っている行動でしかないから、本当は必要ないらしいんだけどね。あははは。人間の性ってやつですよ。たぶん。
ちなみに、飲み込まれているのは僕だけじゃない。あばばばって言っているのは僕だけなんだけどね。
「きゃはははは。早い早い♪」
とはしゃいでいらっしゃる小さきお方が、二人。
「凄い凄い♪」
と言ってらっしゃる。お二人様はそれぞれが水龍様の角を持って頭の上に乗っている感じで、きゃはきゃは言ってる。
「楽しいね♪風神。」
「面白いね♪雷神。」
うん。神様だった。っておい!こんなに小さいのかよ?そう思っていると。お二方がこっちを見る。
「「今、失礼な事を考えましたね?」」
「えっ?ボガっ!」
僕は温泉に溺れそうになりながら答える。
もしかして言葉になってたのかな?
『言葉にしなくても心ぐらい読めますよ?人間。』
『心が読めないなんてかわいそうですね?人間。』
直接頭の中に話してくる感じのお二方の声は怒っていらっしゃるかのような声音だ。
やべぇ気がする。
「申し訳ございません!ごボア!!」
心の方でも、謝罪の言葉を強く思った。
『意外と素直なのね。人間。』
『謝罪を受け入れるわ。人間。』
そう言うと、お二方はまた、水龍様の上ではしゃぎだした。
それはもう本当に楽しそうにしておられた。僕はホット胸を撫でおろしたのは言うまでもない事だろう。
◇◇◇◆◇◇◇
風神様&雷神様と水龍様のお遊びが終わり、解放された時。
『お前の名前は何という?人間。』
『名前を名乗ると良い。人間。』
「神崎煉と言います。」
『そうか。お前が煉か。』
『また、一緒に遊ぼう。煉。』
そう言って水龍様と一緒にどこかへ飛び立った。
これは喜ぶべきか?恐れるべきか?少なくとも、噂になっているのだと、僕は認識した。
風神様&雷神様もそうだが、お月様であるカグヤさんも名前を知っていた。
ヒミコさんが、情報を提供してくれているのだろう。だから、≪大丈夫じゃ。≫と言われたのだろう。
それにしても、普通に神と名乗る存在がそこら辺に居る辺りが精霊界という精神世界なのだろうと思う。そう思うと、気が抜けないなと思うのだが、心が読めるのは反則だろうと思うのも事実だ。心ぐらいは自由にさせて欲しいと思うよね?
そうこう考えていると部屋についた。
「煉、御帰り。どうだった?大浴場は?」
「ただいま。凄かったよ。でも温泉って感じじゃなかったな?」
「そう?」
「うん。でも楽しかったよ。」
僕の顔を見た桜花は少し微笑んでいた。
「お?帰ってきたな?では、食事にしようではないか!」
「「「「おう!!」」」」
昨日と同じように、ヒミコさん達は僕を元気づける様にはしゃいでくれていた。
僕はその優しさを感じて≪心の中でありがとう。≫と感謝した。
その時、若干ヒミコさんがニヤリとしたのが気になるが・・・今回は気づかなかった事にした。
「で、朝食は何ですか?」
「旅館での朝食と言えば。」
「「「「言えば?」」」」
「塩が効いた焼き魚・新鮮な卵・からし&醤油の納豆・パリッとした海苔・アツアツの味噌汁に炊き立ての白いお米じゃ!」
「「「「おう!」」」」
えっと、先ほどからノリの良すぎる護衛役の皆様方。
ちなみに、まだ眠たそうな目で手を上げる桃花さんと、合わせている梅花さん。そしてただ見守っている桜花さん。という体制だ。
「元気ですね。」
「当り前じゃ!元気に過ごさんと罰があたるわい。」
「何でそう思うんですか?」
「そりゃそうじゃろう?今の自分があるのは自分自身の行動によるかもしれんが、その一方で、周りの人達が色々な事をしてくれているからじゃろう?違うかの?」
確かにその通りだ。
僕が判断し、行動に移してはいるが、それだからと言って僕はこの世に急に存在したわけじゃない。僕の親から生まれてきた。
そして、ここまでの工程はアリアさんを筆頭として色々な人が助けてくれた。
死にかけた時は、周りの人が助けてくれた。だからこそ、今ここに居る。
「そうですね。」
考えて僕がそう答えると、ヒミコさんはニヤリとした。
「そうじゃろう?だからこそ元気よく、楽しむ姿勢が大切なのじゃ。」
そうだな。どんな事が起きても、必ず明日はやってくる。
そして、僕をここまで導いてくれた人が居る限り、僕は前を向いて楽しむ事が大切なんだな。
「お?我は、今、良い事言ったきがするのぉ~?」
「そういうのは自分で言ってはダメですよ?」
ヒミコさんが自画自賛しそうなのを察してか、梅花さんが突っ込みをいれる。
それを聞いて見ていた皆が笑った。
僕もその笑いに包まれるかのように、つられるかのように笑っていた。




