263 旅館の大浴場。
【小鳥のさえずり】
そんな感じのBGMが流れている。
障子が白く輝く時間帯。そう、もう朝です。
僕の体の上にあるヒミコさんの足をどけて起き上がる。そこは皆好き勝手に寝ている人々が見える。ある意味壮観で、ある意味幻滅する様子がそこにはある。
そっと、障子を開いて僕は外に出る。
部屋に設置されている露天風呂に向かう事を考えたけど、昨日の事が頭を過った僕は部屋から出て大浴場に行く事に決めた。
昨日は、あの後皆で枕投げ大会をした。一位はヒミコさんが掻っ攫った。
どうやって順位を決めるのか?それは審判を設置しての個人戦トーナメントをおこなったからだ。ちなみに僕は5位。うん、微妙。
優勝者が決まった後は恒例の皆でただ投げ合うという大会に移行した。
そしてその後は宴会だった。
皆は酒を飲み大騒ぎだった。僕?僕はお酒が飲めないから、寝てしまうまで皆の介抱に回っていたよ。
皆が僕に気を使ってくれていたのはよくわかっていたから、あれだけど、楽しい時間だったのは間違いない。
そんな事を考えていると、大浴場についた。ここは旅館に泊まらなくても利用できるらしい。その代わり混浴では無い。昔問題が起こり、混浴から男女別になったらしい。どこの世界にも問題児は居る様だ。
服と言っても浴衣だけど、浴衣を脱いで脱衣所から浴場内に入る。
そこから細い道を少し進むとまた扉がある。そこを開けて中に入る。
目の前には遊園地かよ?!って思うくらいの広さの空間になっていた。東京ドームより広い空間じゃないか?これ迷子になるやつだ。
広い空間に浴槽がいくつか並んで置いてある。それぞれに特徴があるようだ。そして空間の外面に沿う様に流れるプールの温泉版みたいなのが用意されていた。ちなみに滑り台が設置された浴槽もあるくらいだ。一体何をしたいのだろうか?
「すげぇな。」
ここに来て驚かされてばかりだ。旅は驚きに満ちている。というやつだろうか?
とりあえず入るのなら流れるプールだろ?逆にフルチンでの滑り台は遠慮したい。
皆もそう思うよね?えっ?好みによる?はい?
まぁ、良い。僕は流れるプールに飛び込んだ。
「こら!飛び込むんじゃない!!」
近くに居たお爺さんに怒られた。
「すいません!」
「全く最近の若いもんは風呂の入り方も知らんのか?ここはプールじゃないんだぞ?」
何かブツブツ言ってる。というか何処かで見た事があるような気がするんだけど気のせいかな?で、流れていったから、よく顔が見えなかったんだけど。ちなみに浮き輪の様なモノに乗っていて飲み物を飲んでいた気がする。もうこれ、プールじゃん?
よく見ると、それがスタンダートなのか、沢山の方々が同じような感じになっている。温泉と考えると変だけど、合理的って言えばそうなのかもしれないね。流れに身を任せると気持ち良いしね。だけど、フルチンなんですけどね。だから潜って見るのは戴けないと思います。
僕は浮き輪をショップで借りる事にした。ショップを探して回ると直ぐに見つかった。
お店は海の家みたいな感じになっていて、そこにはザ・海の男みたいな人が店員をやっていた。
「いらっしゃい。」
「あの、浮き輪を一つかりたいんですけど。」
「あいよっ。」
直ぐに、出してくれた。
「他には何かいるかい?」
と言ってメニュー表みたいなのを見せてくれる。
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・清酒
お冷・熱燗・常温 有
・ブランデー
ロック・ソーダ・水割り 有
・焼酎
ロック・ソーダ・水割り 有
・ビール
各種 有 相談可
・カクテル各種
何でも作れるよ♪
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うん。お酒ばかりじゃね?これ?
「あっ、大丈夫です。」
番号を見せて浮き輪を受け取る。ここの浴場内は別会計らしく、外に出て纏めて払うシステムみたいで、それぞれ番号の書かれたバンドを渡されている。
で、浮き輪を持って流れる温泉に戻って、浮き輪をセッティングして乗り込む。
「うん。良い感じ。」
少しの間、僕は流れる温泉に身を任せる事にした。
ゆったりとした時間が流れる。
「ふぅ~。」
とても気持ちがいい。こういう温泉もありかなって思う様になっていた。何せ、この流れる温泉は通路に沿って色々と設置されている。
例えば、竹林であったり、庭園風景であったり、砂浜であったりと、景観に拘っている様子が伺える。
只今、フルチンでのんびりと流されている神崎煉です。あっ、安心してください。タオルで隠されていま~す。って誰にアピールしているんだろう?あははは。
今は何も考えずに時間が過ぎる事が何故か幸せな時間だと思う。
気持ちよくて少しウトウトしてきた僕は自然と目を瞑る。
【ふわふわ】っとした感じの僕の体は、休憩を求められているかのようだ。
精神世界であるのに、そう感じるのも不思議なモノだ。
「ビー!ビー!ビー!」
突如警報が鳴る。
「うん?」
僕の頭は動かない。ただ、何だろう?って思っただけ。
「今より水龍が通ります。勢いが変わりますので、ご注意ください。」
水流?早くなるのかな?と僕は思った。ぼんやりとした頭で。
アナウンスを聞いてもあぁ、そう。って思うだけ。それぐらいに油断していたと言えるかもしれないね。




