262 お月様の輝き。
僕はあのラーメン屋から離れて、まだ街をぶらついていた。
気持ちよさそうによって歩いている集団や、僕と同じようにフラフラと歩いてお店を見て回っている人達も沢山居る。
空を見上げると真っ暗で、提灯の明かりと人々の活気が幻想的な空間の中に現実味を与えている。崖の方を見ると、灯篭が煌々と輝いており素敵な景観を表している。
「アリアさんと来たかったな。」
お風呂の効能なのか、それとも美味しい食事のおかげなのか、今の僕の心は落ち着いている。
だから、アリアさんの事も落ち着いて考える事が今は出来る。
彼女と来れていたら、とても素敵な思い出になっていたハズ。いや、逆に問題が発生していたかもしれないね。あははは。
僕は、更に歩いて川に橋が架かっている所に出てきた。
川べりに座ってボ~っと川に移る月を見ていた。銀色の様な金色の様なその輝きを水面に移している月は僕を優しい光で包んでくれるような、そんな気がしてくる。
「美しいなぁ~。」
「そうやろ?美しいやろ~?お兄さんわかってらっしゃるなぁ~。」
「えっと、誰ですか?」
急に、横に座ってきた謎の人。本当に誰だろう?知らない人に急に声をかけられている。
「ふふふ。」
「いや。あの何処かでお会いしましたか?」
「いんや。会っとらんよ?」
「じゃあ、何故?」
「何故って、兄さん。今うちの事、美しいってほめてくれたやん?」
「えっ?貴女をほめてはいないですよ?お月様が綺麗だって言っただけですよ?」
「ほら、うちをほめてくれてるやん?ストレートな誉め言葉って久しぶりやわぁ。」
何だろう?危ない人に捕まってしまったんだろうか?確かに綺麗な人ではあると思うけど、こう勘違いされると怖いな。
「いや、だから月が綺麗だと。」
「そう、私やろ?」
これ、ダメなんじゃないかな?月と言ったら、私と返される。会話が成立してないもんね?
「ほんまに、兄さんはストレートやな。ほな、一緒に飲みに行こか?」
「いや。だから、月が綺麗って言ってるんですよ?」
「また、ストレートに誉めるぅ。何が欲しいん?もしかしてうち?」
こりゃあかん!と思っていると、後ろから声がする。
「お月様。ここにいらっしゃったんですか?」
何か、オジサンが息を切らしているような素振りを見せて、お月様。と言った。本当に何なんだろう?って見ていると。
「あのな、爺や。この青年がお月様が綺麗ってストレートに誉めてくれるんよぉ~。何かせないかんやろ?」
爺やと呼ばれた男の人が僕をジロりとみてくる。そして、一瞥した後、女性に向きなおして答える。
「お月様であられるお嬢様が綺麗なのは常人が知る所であります。この爺めもそう思っております。」
「ほんま、おおきに。でも爺やは身内やさかい。」
と言っている。お月様って名前なの?えぇ?
「ごほん。お主名はなんと申す?」
「神崎煉って言います。皆は煉と呼びます。」
「良い名前やねぇ~。煉君やね?憶えとくなぁ~。」
「な、なんと?!もしや、ヒミコ様の?」
「はい。ヒミコ様にお世話になっています。」
「爺や?なんなん?ヒミコが出てるん?」
そう言われた爺やと呼ばれた人はお月様の耳元で何事かをささやいている。
「ほんまに?そうやったんねぇ?ヒミコはんの気持ちもわかるわぁ~。この子純粋でストレートやもん。」
何やら良く分からないけど、ご納得している様子。
「煉君。ほな、私の名前も憶えてなぁ~。お月様こと、かぐやというねん。よろしゅうなぁ~。」
本当にお月様であり、あの有名な名前が出てくるとは思わなかった。
「それより、姫。急ぎませんと。」
「そうやったねぇ~。煉君。ほな、失礼しますぅ~。」
スゥーっとお月様事、カグヤ姫は消える様に居なくなった。
爺やも同じようにスゥーっと消えた。ひと睨みするのを忘れずに・・・。
何で睨まれるのかわからないんだけど?そう思っていると、カグヤさんが座って居たところに綺麗な宝玉のような物が落ちていた。金色なのか銀色なのか、あの月の輝きと同じような輝きを放つその玉を僕は拾った。
『ちゃんと拾ってくれたんやねぇ~。』
「えっ?」
『それ、うちからの贈り物。大事にしてえなぁ~。』
「はい?」
『うふふふ。それを持っていてくれたら何時でも、うちと会話できる代物なんよぉ~。よろしくねぇ~。』
「はぁ!?」
また、変な物を手に入れてしまったようだ。
いったい、なんなん?僕にどうしろと?
ふぅ~。とにかく帰って寝よう。何かどっと疲れた。
僕は思い足を使って、旅館の僕達の部屋に帰る事にした。
部屋に着くと僕は障子をガラッと開けて中に入る。
「ただいま帰りました。」
「「「「御帰りなさいませ。」」」」
「えっ何?どうしたの?」
皆が三つ指立てて、頭を下げている。御帰りなさいませという言葉と共に。
「ふふふ。皆、お主の帰りを待っておったのじゃ。では、皆の者、用意は良いな?」
「「「「おう!!」」」」
「えっ?ちょっと?何?」
僕が慌てていると、皆がニヤリとした。いったいこれから何が始まるのでしょうか?
そうです。あれです。




