261 やべぇ、ラーメン屋さん発見。
やっとの思いで、僕は露天風呂から脱出した。
何故か、スケベ扱いを受けているのに誰一人として僕を外に出そうとしない。
何なら、僕を風呂に浸からせようとしてくる。
「怖かった。」
これが本音です。やっぱりヘタレな神崎煉です。
「さて、どうしようかな?」
そう特にこの後の予定は無い。
ちなみに、専用風呂だったみたいで、僕達の部屋に付いていた露天風呂だった。
そして、今僕は、部屋から出て、温泉旅館内を歩いている。
「どうしようかな?少しお腹が空いてきたな。外に出てみようかな?」
旅館の外には、食事処の様なモノが並んでいたのを思い出した。ここがどの辺りにあるのかは覚えていないのだけど、あの崖の上から見た景色には沢山のお店が見えていた。
部屋を出る時に梅花さんが持たせてくれたここの通貨があるし、食べ物を満喫するのも良いかも知れないな。布袋に入っている通貨を持ってそんな事を考えながら、旅館を出た。
「やっぱり、凄いなぁ~。」
独り言を言ってしまった。心で思っている事が素直に口をついて出る。
見渡す限りに建物が立ち並び、提灯がお店を照らしている。そして何処も賑わっていて、人で一杯だ。
ちょっと歩いてみるけど、色々な食べ物が用意されていた。
なんと、お肉料理もちゃんとある。和風に中華に洋食。アメリカンなるジャンクフードもある。片っ端から食べてみたい衝動に駆られる。
そういえば、精神世界であるこの世界には基本的に肉体は存在しない。
しかし、生命は存在しないのだが、創造する事でそれに近いモノが存在する。
生命の宿らないその物をなんて言うのかはちょっと分からなかったが、食材となるモノは用意されている様だ。ある意味、夢の世界なのだから色々存在させる事は出来る様だ。
くどいようだが、色々あるとしても、生命は宿っていない。なんでそうなのかは、色々聞いてみたが、僕には理解できなかった。
「今の煉殿が理解する事は難しいでしょう。肉体を持っていいらっしゃるので。」
そう梅花さんに言われた。
人間の理解を越えた世界なのだという事らしい。それだけが分かった事だった。
「さて、何を食べようかな?」
そう考えながら、また少し歩いてみると一件のラーメン屋があった。
何か、ピンときてその店に入る。
「いらっしゃいませ。」
そう店員さんが声をかけてくれて、席へ案内してくれる。とても丁寧だ。
席に案内される間にも、店員さんが気づいた人から「いらっしゃいませ。」と言ってくれる。
「何をご用意しましょうか?」
「じゃあ、この店の自慢のラーメンとライスと餃子をください。」
「かしこまりました。豚骨味のラーメンで宜しいですか?」
「はい。」
「麺の硬さはいかがいたしましょうか?」
「麺の硬さまで指定出来るんですか?」
つい、聞き返してしまったが、店員さんは嫌がる素振りも無く頷いてくれる。
「じゃあ、硬めで。」
「かしこまりました。」
バリ硬とかもあるみたいだった。ヤバいぜここ。まんま日本じゃん?そりゃあ流行るよね。人が多いいのも納得した。
ただ、後から聞いた話だと、ここにあるお店はそれが普通という事だった。どこから仕入れたんでしょうか?日本の情報を?まぁ良いか。美味い物が食べれて、良い接客を受ける事が出来るんだから。
食事が運ばれてくる間、辺りを見渡してみるが、僕と同じ格好をした人は居なかった。
皆、ヒミコさん達の様な和装か、ラムザさん達の様な洋服を着ている。
中にはチャイナ服姿の人もいて、色々とゴチャゴチャな感じになっている。たしかここは色々な精霊界や精神会から人が訪れると言っていたからこんな感じなんだろう。中にはカウボーイみたいなハットを被っている人もいたりして面白い。人間観察をしている間に、僕が注文をした食べ物が運ばれてくる。
「はい。お待ち!」
「うわぁ。美味そう。」
白く輝くスープから麺が顔を覗かせている。その上にチャーシューが5枚のっていて、カットしたネギとメンマが綺麗にのっている。
真っ白いご飯が茶碗にのせられているし、羽がついた餃子はカリっとした所と、プニプニっとした柔らかそうな所が同居していた。
声を出してしまうのは仕方がない事だと僕は力説する。店員さんは僕の声を聴いて笑顔がさらに輝いていた。
それらを、あっという間に平らげた僕は満足した顔で、お支払いをして外に出た。
「ありがとうございました。また、お越しくださいませ!」
店員さんの挨拶が背中越しに聞こえたので、直ぐに振り返り頭を下げた。
「大変美味しかったです。また機会が有れば来させて頂きたいです。ありがとうございました。」
僕の返事を聞いて少しビックリしていた店員さんは、声を出して笑った。
「貴方、面白い人ね。私は、大和と言うの。貴方の名前は?」
「僕ですか?僕は神崎煉です。」
「そう?煉君ね。覚えておくわ。神崎煉君に幸運が来ますように。」
「ありがとうございます。では大和さんにも幸運が来ますように。」
「ふふふ。変な人ねぇ~。」
改めて、大和さんと名乗った店員さんを見る。
綺麗な顔立ちで凛としているけど、ホクロが左目の斜め下にあることで、柔和な顔になっている。スタイルも抜群だった。
「では、またね。貴方とはまた何処かで逢える気がするわ。ふふふ。」
そう言って大和さんは店の中に入って行った。
変な出会いがあったけど、僕はその時は気にしていなかった。
それより、人は美味しい食事を頂くと、心が喜ぶという事を知った。
そして、それを感謝するという気持ちになる事を知った。
今までは当たり前に思っていた事だったのに、ここに来てそう感じた。
精神世界だからなのかな?ストレートになっちゃうのかな?
よくわからないけど、悪い事じゃないと確信している僕がそこには居た。




