256 精霊界での旅の始まり。
「じゃあ、準備は良いですか?」
「準備も何も、特に必要なモノがフガッ!」
僕は口を塞がれてしまった。
「出発!」
勢いの良い声を出した桃花さんは非常に楽しそうだ。
結果、旅に出る事は許可が出た。
メンバーは、僕と桜花さん。世話役として桃花さん。案内役として梅花さん。護衛役として水花さんと風花さんと火花さんと土花さん。合計8名になっている。
僕を除いた全員に花という漢字が使われているのが気になる所だけど、聞いたら皆それぞれに花の精霊らしい。護衛役の四名に至っては存在する花では無いが、それぞれ属性に特化した能力を持つ方々らしい。名前をみりゃわかるかな?この他にも雷花さんとか雪花さんとかいらっしゃるらしい。
護衛役の方々は皆鎧姿で凛とした感じの様子を見せているのに、僕は既にコントのような出発を見せている。
僕がメインじゃないの?まさかのメインは桃花さん?という疑念と共に出発した。
「先ずは何処を見たいんですか?」
「何処って言われても正直分からないんですよね。ハンドブックみたいなのがあれば・・・。」
「はいどうぞ。」
「これは?!」
梅花さんが手渡してきたのは旅行ガイドブックならぬ、精霊界の状態を纏めた感じの資料だった。っておい!
「急に近づいてすいません。」
「そういう意味じゃなくて。」
「昨日、桃花が渡し忘れたみたいです。申し訳ありません。」
「いやいや。そこじゃないです。」
「はて?」
他に何かあるんですか?って感じにコテっと頭を横に倒して梅花さんは不思議がる。
「いやいや。あのこんなに情報があるんですか?凄くないですか?」
「およそ把握している状態です。しかし、まだまだ未知な箇所や未開地域はたくさんあります。」
さも当たり前の様な感じで話す梅花さん。
「どれだけの情報を持っているんですか?」
「どうでしょうか?まぁ、長い事色々な地域に行きましたから、古い情報もあるかもしれませんが、そこそこにとだけ言っておきましょう。うふふふ。」
「あっ、はい。」
そうだった。この人は桜花さんの姉さんにあたる立場だった。現世で桜花さんが700年は存在して居た訳だから、推測できるわ。これ以上突っ込んではいけない領域だと思った。
昔、母親に年齢の事を聞いた時の空気感だもんね。あははは。
「で、どちらに致しますか?」
そう聞かれて、改めて資料に目を移すと、色々な情報が載っていた。
ざっくりと言うなら、西洋圏・東洋圏、もっと細かく言うと、北欧圏・南欧圏・西欧圏・東欧圏・中華圏・インド圏・北米圏・南米圏という感じかな。文化が発祥した場所や特徴が強い箇所とかがあるみたい。
あまりに多すぎて、決めかねるなぁ。
「う~ん。迷う。一番近い場所って何処なのかな?」
「近い距離っていう意味ですか?」
「そう。そういう事。」
「どこも一緒です。距離的概念が無いとも言えますかね?」
「あ、そうなんだ。って嘘!」
「嘘じゃないですよ。本当です!」
ちょっと怒っていらっしゃる?どうも噛み合わないな。
「もし、良かったらなんですけど、このヒミコさんの・・・」
「ヒミコ様です。」
「すいません。ヒミコ様が統治している地域の中を先ずは見てみたいんですけど、ダメですか?」
「もちろん大丈夫です。ではこの地域から見て回るで良いですか?」
「はい。お願いします。」
「では改めて、出発進行!!」
先ほどまで、シュンとして居た桃花さんは元気を取り戻して張り切って号令を出した。
やはり、一番楽しみにしていたのは桃花さんだったみたいだ。
僕達はそのまま、敷地から出て鳥居を潜り、この世界へ来た時に来た道へと出てきた。
あの、山に登る感じにきた場所から出て、大きな鳥居が見える道へ出た。
「ヒミコ様が支配されている地域一帯は、この様な風景が広がっている場所となります。」
「ちょっと疑問があるんですが、抜けるとどうなるんですか?」
「基本的に真っ暗な場所に出る事になります。闇が広がると言っても良いと思います。」
「えっ?でもその先に他の地域があるんじゃないんですか?」
「う~ん。どう説明して良いのか悩むんですけど、どの地域もそこに在るんです。隣にあるとも言えますし、凄く離れているとも言えます。現世でいう所のパラレルワールド的な?」
「もしかして、亜空間というヤツですか?」
「あぁ、そういうモノですね。そういう風な考え方で良いと思います。」
「わかりました。」
正直、全てがわかっている訳じゃないけど、ある程度の理解は出来るから、それで良しとする。深く考えてもわからない事やわかる必要の無い物もあると思う。亜空間という場所である事で、おおよそ納得できる。だって、精霊界だもの。そう思うしか、これまでの事だって理解できないよ。はぁ~。
「さぁ、早く行きましょう!」
桃花さんが急かすが、どこに向かっているのか僕にはわからないんだけどね。
「桃花。少し落ち着きなさい。」
梅花さんが窘めるが、桃花さんは聞く耳を持っていない感じですね。はい。
これは先が思いやられるな。ふう。




