255 庭園での出来事。
心地の良い風が吹いている。
辺りは暗くなっており、池には綺麗な三日月が映っている。
・・・映っている?!
僕は慌てて夜空を見上げた。
絵に書いたような三日月がそこにあった。
そう完璧すぎる風景なのに、何故か違うと感じる。
「ふふふ。おかしいかのぉ~?」
不意に声がしてその方へ顔を向けた僕の視線の先にはヒミコさんが居た。
「今見えている風景は全てワシが創ったモノじゃ。お前さんの知っている日本の風景とは違うかの?」
その言葉には、こちらを伺いながらも何処か楽し気な空気感を感じる。
「そうですね。凄く似ています。似ているのですが何処か違う感じがします。」
「そうじゃろうの。お前さんの言う様に似せたが、それその物では無い偽物じゃからのぉ~。」
「ですが、本物と瓜二つだと思います。成功ですね。凄いです。」
何処か楽し気で、何処か寂し気な感じを察した僕は、素直に称賛する。
「やめい。むず痒い。それにな、偽物で有る事は仕方が無い事じゃから、気にしておらんよ。」
「それは、どういう事ですか?」
何故か意味深な言葉が紡ぎだされる。
「それはな、ここには生命を誕生させる事が出来ないからじゃ。」
「あっ!」
そうだ、ここには魚や虫が居なかった。
「わかったようじゃな。そうなのじゃ、命を与える事が出来るのはあくまでも肉体がある世界でなければダメなのじゃ。つまり現世じゃな。」
「何故なんですか?」
僕はふと疑問に思った事を聞いてしまった。
「わかっておろう。ここは精神世界である精霊界。次代に次ぐ輪廻から離れた場所なのじゃ。そこでは生命がやってくる事はあっても、誕生させる場所では無いのじゃ。あくまでも誕生出来るのは現世なのじゃ。」
生命の誕生には肉体が必要なのだとヒミコさんは言う。
誕生がある為に死があるのだが、死は肉体の寿命のようで精神は別の場所に返されるという様な感じらしい。輪廻転生は存在する概念みたいだ。ただ、地球で言うその言葉の意味その物であるのかは、よく分からなかった。
命がある虫や動物等は、この精神世界には来ることにはなっても居続ける事は出来ないという事だ。
だから、全てのコピーには至らないという事みたい。
「だから、全く一緒には出来んのじゃ。世界には虫や動物が多く存在する。その全てを構築し次代を繋いでいく事が出来て初めて同じモノになるのじゃ。」
そう、楽しくも寂しい感じになっているヒミコさんは言う。
これで僕の感じていた違和感が分かった。そう虫や動物の声?音?が無かったんだ。それが僕の中では違和感になった。
だけど、逆に言うとたったそれだけの違いなのだから、凄い事だと思う。
それ以外は完璧に一緒なのだから。
「でも、本当に凄いですよ。」
「やめいと言うたであろうが。まぁ我も神の端くれじゃからな。出来て当たり前じゃ。」
恥ずかしそうにソッポを向くヒミコさん。
「まぁ、そうかもしれにですけど、出来る事とやる事は違うと思いますよ。それに、それも全ては眷属の人達の為なのでしょう?」
そう、ここまでこのエリアを和風にする意味は自分の為では無く、他社の為だと思う。なぜなら、皆が和風にマッチしていた事と、皆が元気で笑顔である事。それらが物語っている。
「違うわい。我の独断と偏見で勝手に想像しただけじゃ!」
そして、このムキになって反論してくるヒミコさんを見て確信する僕だった。
「何、夜の庭園で二人してコソコソしているんですか?」
突然の声掛けにビックリしたのかヒミコさんは慌てたみたい。
「な、なんでもない!我は忙しい。さらばじゃ!」
いつもの如く、ヒミコさんはふっと消える。
「全く!ヒミコ様は自分勝手なんだから。」
声をかけて来た主はそう笑いながら怒る。
「でも、何を話していたんですか?」
「うん。この世界の事を少しね。所で、話し合いは終わったの?桃花さん。」
「話し合い?あぁ終わりましたよ。それで、桜花さんが部屋に戻ったら煉さんが居ないから皆で手分けして探す事になったんですよ。私は心配して居なかったんですけど、煉さんが昼間に絡まれてたから、桜花さんが気にして、探す事になったんですよ?」
「そうか、それはごめんね。急いで部屋に戻らないとね。」
「そうですよ。急ぎましょう。」
僕は急いで部屋にもどる事になった。
部屋では桜花が心配して居た様子が分かるほどにオロオロした様子だった。
僕ってそんなに弱そうなのかな?まぁ最近、四肢を失いかけていたみたいだけど。
「ご無事でしたか?」
「うん。心配かけてごめん。ただ庭で散歩していただけなんだ。」
「そうでしたか。」
「そうそう、ヒミコ様と御一緒してたもんね?」
「はて?ヒミコ様と?」
その桃花の言葉を聞いてピリッとした感じに変わる桜花さん。
「どういう事ですか?」
「いや。ただ一人で散歩してたら、ヒミコさんが急に来ただけだよ。」
「それにしては、楽しそうでしたね?」
更に、煽る感じで桃花さんが追及してくるし、キッとした顔で僕を見る桜花さん。
「ここの場所の話をしていただけで、特に楽しい話をしたつもりは無いんだけど?」
「へぇ~。それだけですか?本当に?それなのにあの変な動きをしたんですか?」
「ど、どういう事ですか!!」
更に更に追及してくる桃花さんは絶対に確信犯だと思うのは僕だけか?
その様子をみてただ笑っている梅花さんは気づいている気がするんだけどな?
「変な事言わないでくださいよ。ヒミコさんが慌てた感じで消えただけでしょ?」
「れ・ん・さ・ん!」
心配しすぎた桜花さんは僕をこの後、こっぴどく叱るのでした。
そう足がしびれる位に正座してました。
なんで、僕が怒られるのでしょうか?誰か教えてくれませんか?ねぇ?




