241 お邪魔虫が登場した。
「やぁ、仲良くしている所申し訳ないんだが、お邪魔するよ。」
その声は唐突に泉の方からかけられた。
「えっ?」
僕はその声のする方を見る。
その先には泉の上に立っている?いや水面に立っている男が居た。
神秘的な状況なのに、その男から感じるのは飄々としたフインキと、圧倒的な存在力だった。
その存在力を、今の今まで感じる事が出来なかったのだ。それまでは存在していなかったハズなんだ
「何もそんなに驚く事かな?まぁ、気づかなかった所を見るとそういう事なのだろうね。」
「何か私達に要かしら?」
「そうだね。ちょっと面白そうだから寄ってみたというのが正解かな?」
「何が面白そうだったの?」
アリアさんが懸命に聞き出そうとしている?いや、これは時間稼ぎだろうか?
「世界の恐怖の帝国に追われる美姫が、異世界の者と恋に落ちる。これほど面白そうなモノはあるだろうか?」
「「!!」」
何だって?恐怖の帝国に追われている美姫だって?アリアさんがそうだと言うのか?
「何をビックリしている?異世界人よ。もしかして知らなかったのかい?だとしたらこれは失礼した。もう知っているモノだと思っていたよ。くっくっく。」
「知らなかったけど、それより異世界人だと、お前にはわかるのか?」
「ふむ。それは簡単な事だ。ワタシがそれを知る者の一人であるというだけの事だ。」
「まさか?神様?」
「残念ながら違うね。神では無いよ。私が使える神は私なんぞ、足元にも及ばないよ。」
「じゃあ、貴方様は≪神の使徒≫様ですか?」
「まぁ、そうなるかな?ただ勘違いさせるのは可哀そうだから、その逆であると教えよう。」
「まさか≪悪魔≫!」
「どういう事ですか?」
僕は話について行く事が出来ずにアリアさんに質問した。少し場違いかもしれないけど。
「この世界の神様には二種類の存在があるとされているの。」
≪聖なる神≫と≪邪なる神≫という構図がある。
≪聖なる神≫の≪神の使徒≫は進化すると≪天使≫になる。そこからは天使の階位を上がっていく。
逆に≪邪なる神≫の≪神の使徒≫は進化すると≪悪魔≫になる。そこから悪魔の階位を上がっていく。
そういう事をアリアさんが手短に教えてくれた。
「じゃあ、こいつは≪邪神≫の≪神の使い≫という事ですか?」
「そうなるわね。で、そんな使徒様が私達に何の要なんですか?」
アリアさんが油断せず聞く。
「ふふふ。そりゃあ≪邪神の使徒≫がやりそうな事って言えばわかるかな?楽しそうだから私も参加しようと思ってね?」
そういうと、禍々しい力の本流というのか?力が爆発する感じがした。
「くっ!」
「うっ!」
僕とアリアさんは瞬時に防御態勢をとったけど、耐えるので一杯一杯だ。
「ほぉ。これを耐えれるのか?見直したよ。たった数ヶ月しか経っていないというのにちゃんとレベルアップしているんだね。」
耐えている僕等を、いや僕を見て嬉しそうな顔になる漂白そうな男である≪邪神の使徒≫。
「じゃあ、これはどうかな?」
更に力が増した感じがした。いやこれはもしかして?≪威圧≫?背中から冷や汗が止まらなくなる。圧倒的な力の差を感じさせられる。
すると、カチと『村正・桜花』が鳴る。私を使えとでも言うかのように。
「よし!はっ!」
僕は『村正・桜花』を握りしめ抜刀すると、僕が感じていた圧力を感じなくなった。斬ったという感触が手にある。
「へぇ。君は既に『認められた者』になって居るんだねぇ。これは面白い!しかも、それは伝説の武器の一つ『村正・桜花』だね。いいねぇ~君。思っていたよりも更に面白くなりそうだよ。」
禍々しい笑顔を作った≪邪神の使徒≫は僕の顔を見つめる。
「私の名前はナベリウス。今はそれだけ教えておこう。」
禍々しい笑顔は更に凶悪な顔になっていく。
「良い事を思いついた。やっぱり冒険には綺麗な姫を助けるというイベントが必要だよね?」
「はぁはぁはぁ。」
この男は何を言っているんだ?
ナベリウスと名乗った者はパンと指を鳴らす。すると衝撃が僕達を襲う。
僕は吹っ飛ばされて数メートル後ろに会った大岩にぶつかり粉々にしてしまう。
体に力が入らない。
「ふん。もうこんな所まで来ているのか?そこまであの≪神の使徒≫は強力なのか?まぁあのジャスティがやられるだけの事はあるのかな?」
そんな事を急にナベリウスは言う。独り言の様だ。
「煉君だったかな?残念ながもう時間のようだ。君の大切な人は私が預かるよ。頑張って強くなって私を楽しませてくれよ?」
禍々しい笑顔なのに不思議な魅力を持つナベリウスはそう言うとアリアさんに近づいていく。アリアさんは先ほどの衝撃波によって気を失っている様だ。
「ま、待ってくれ・・・。た、頼む・・・。」
僕は大きな声を出したつもりだったが、出ていない。
そんな僕を見てナベリウスと名乗った≪邪神の使徒≫は嬉しそうな顔になって僕を見つめる。
「君には期待しているよ。」
にやりとした顔をしてアリアさんを脇に抱えてその場から消えてしまった。
「あ、あ、あ、あ・・・・。」
アリアさんと呼びたかったが声にならず、僕はそのまま気を失ってしまった。




