240 王都付近の街道は安全です。
僕達は順調に街道を進む。
「順調じゃな。まぁこんなに人が通る道であれば、早々変な事も送るはずも無いがな。」
「そうね。これだけ多くの人が動くところでは、盗賊も出ないわね。」
そうなのだ。王都からの街道という事もあってか、人の往来が激しいのだ。
だから、人が切れる事がほとんど無い。それに、ミスル国は小国とは言え、魔王国の隣に位置する国なので、軍が充実しているし精鋭が揃っている様だ。それに巡回も頻繁に行われている。巡回は領土を持つ者がおこなうシステムらしく、王都周辺は王が管轄なのもあってキッチリされている様子が伺えるので、盗賊は鳴りを潜めており、比較的治安の良い場所と言えるのかもしれない。森も少なく平地が続いているのも理由の一つらしい。ここまで詳しくブライトさんが説明してくれた。
「そこまで何で詳しく知っているんですか?」
「ふふふ。私達が特別な訳では無く、冒険者としては情報が必須ですからね。情報がシッカリしていないと手痛い目に会ってしまいますからね。情報をよく集めるんですよ。」
「それにな、冒険者ギルドでランクが高くなると、強制依頼が発生する事もあってじゃな、それは酷い事になる事もあるんじゃ。まぁ、そんな状況になる国や支部が有る場所には有能な冒険者は集まらんがの。」
「その通りですね。」
うんうんと頷いているブライトさんとバーナードさんを見ていると経験した事が有りそうだったから。
「例えば、どんな事が起こり得るんですか?」
「そうじゃのぉ~。例えば、国がギルドより強すぎる場合が多いのじゃが、国の要人を探す。捕まえる等、非人道的な政治の道具に使われる事があったりするんじゃよ。他には、街を守るようにと全滅必死の現場に行かされる事もある。その分恩恵に預かれるという場合もあるが、たいていの場合は、都合良く使われるだけじゃな。まぁ人間なんてそういうもんじゃろう。」
そういう事か。冒険者は自由である部分が大きくあるが、その分の制約もあるって事か。自分の身は自分で守る。そういう事が国に保護されているわけじゃない分必要になるんだなぁ~。だからこそ、滞在する期間の税金とかを冒険者は取られないという事は後で分った事だ。そして、身を守る為には情報を確りと手に入れて利用する事が大切になるという事だと理解した。
そんなこんなで、今日の野営地に到着した。
もう少し早く進めばもっと先にある村に泊まる事も出来たかもしれないが、僕達は行商人の団体と同じように動いている。理由は簡単で、狙われにくいからだ。
僕を除いたメンバーは皆強い。強いけど、より安全に動く事を気にしているようだ。
「煉君。私と焚火用の木を集めましょう?」
「はい。」
アリアさんが僕を誘ってくれた。今日一日はそんなにアリアさんとは話せてない。
目が合うと直ぐに逸らされてしまうのだ。
近くにある林へとアリアさんは入っていく。僕はついて行くが無言のままだ。
それでもアリアさんは無言だ。だけど無視をされている感じではない。
時折、僕の方を見て着いてきているのかを確認している様子が伺える。でも目を合わせてくれない。
そして林の奥にある泉に出た。
「昨日はごめん。ううん。今までごめん。」
「どうしたんですか?」
「私、お酒飲んで暴れていたでしょう?皆から聞いたわ。煉君は一度もそれについては言ってくれなかったけど、それを知ったクリスチーナが教えてくれたわ。」
「そうですか。」
僕は言えなかった。関係が壊れるかもしれないと思うのともう一つ理由があった。
「何で言ってくれなかったの?」
「そ、それは、えっと・・・。」
言い淀む僕にアリアさんは優しい目を向けてくれている。何かを覚悟した目でもある。
「気づいたのね?私が追われている事を。」
「いや。あの。その。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。でもどうして気が付いたの?」
「えっと。桜花が教えてくれたと言うか。聖剣が教えてくれたと言うか。」
「桜花?聖剣?どういう事?」
僕は覚悟して説明した。『聖剣ダモクレス』の事。洞窟で起こった事。そして『村雨・桜花』の言った事。そして、聞いた内容から僕が【旅に出る】という結論に居たり行動した事までを全て正直に話した。全てを話し終えて一息ついて謝罪した。
「「黙っていてごめんなさい。」」
「「えっ?」」
僕たち二人は同時に謝罪の言葉を述べて、同時に驚いた声を出した。
「いやいや、何で煉君が謝るの?」
「それ言うならアリアさんこそ何で謝るんですか?」
それを聞いたアリアさんも、それを言った僕も、二人して吹き出してしまった。
「私達って似てるわね。臆病者ね。」
「そうですね。臆病者です。」
そうだ。臆病だと思う。少なくとも僕自身は臆病だ。臆病だからこそ、前に進めずにいた。
僕とアリアさんの関係が前進しなかったのも、アリアさんに起こった事を聞けず、自身に起こった事を説明しなかった。全ては関係が壊れる事を恐れた僕の心の問題だ。
でも、これで僕は前進できる。僕とアリアさんの関係も前進する筈だ。




