236 我は神獣なり・・・格ある者
我は人の社会に居る時はこの姿のままでいる事になった。
前のように、野山を駆け回りたいという思いが全くない訳ではない。
ただ、主人の近くにいる為にはより都合が良い格好である事と、人間社会を知る事を優先したためだ。
我の主人とは運命に引き寄せられるかのように出会う事になったわけだが、変わった方でもある。絶大なる力と格を持っているにも関わらず、主従の関係ではなく友の関係が良いと言う。忠義よりも友情が欲しいと言うのだ。
人とはそもそも無駄な虚栄心を多く持っていると聞く。それが無いという辺りがあの方の本質が見え隠れしている気がする。
それに、自身の力は預かった物であり自身の価値と同等である訳では無いとも言う。
これは他の者に聞いた話だが、≪転生者≫であり、≪神の使徒≫であると言う。
つまり、別世界での生きていた者であり、その世界で生きた人生の価値観等がどうやらこの世界の者とは違う様なのだ。同じ人でありながらも、こうも違うというのは不思議なモノだと思う。
現在の私は神獣からより神の姿に近いとされる亜人神となっている。神とは名ばかりではない。それに相応しいだけの力を持つに至る。
なったばかりでこれだけの事が出来る様になっているのだから、この先どのような事が出来る様になるのだろうか?少なくとも、【獣神化】する事で元の姿に戻る事が出来るようだ。ただ以前とは纏うオーラが違うみたいで、小娘はビックリしていた。
「神々しさが半端ねぇ~!」
そうだ。それに色々とスキル等を覚えた為にやれる事の幅が違うし、完成度も大幅に違う。
我の強さはどこまで上がるのだろうか?
我に関する変化を起こさせた主人は人である。確かに≪神の使徒≫という形であるが間違いなく人である。
そんな人が神獣フェンリルである我に名を与える事が出来たのか?それは単純に主人の格が我より高いからである。亜人神となった今の我よりも格が高い。人は時にそれを徳とも表現するようだが、格の高さは種族に関係がない。
格の高さはその者が持つ能力とは比例するモノでは無いのだ。
純粋な戦闘能力で有れば、現在の我は主人に負けないかもしれない。
しかし、戦闘とは戦闘能力だけでは測れないところが有る。野生のモノであれば、戦闘能力に比例する事が多々あるだろう。しかし、人には知恵と知識と歴史がある。これによって単純な戦闘だけでなく、色々な幅のある能力を駆使し純粋な戦闘能力の高いモノを倒す事が出来る様になっている。技術とか技とか言うモノがこれにあたるだろう。人の技術の幅は計り知れない。歴史を背景とした進化は種族の進化ではなく、物の進化を技術の進化を促した。
これにより、単純な戦闘能力だけでは測れないモノになっている。
これは、単純な戦闘能力を有するモノにとっては脅威に他ならない。
我は神獣であった。その時にも脅威として映っていた。
やはり、神にとって人族は特別な存在なのであろう。それを人は証明していると言える。
このまま、物の進化が進めば、いずれは神殺し(ゴッドキラー)と呼ばれる者も出てくることになるのではないか?と思っている。
「どちらが末恐ろしいのか?わからんな。」
「何を独り言を言ってんだよ?」
「また、お前か。お前は暇なのか?」
「はぁ?何言ってんだよ?アタシはアンタを色々と案内する役になったんだよ。アンタの居る前で話してただろう?」
「そうだったかな?まぁ良い。で何処に案内してくれるのだ?」
「それは行ってからのお楽しみだよ。」
ふん。小娘の癖に面倒な。まぁ良い。案内さるがままについて行ってやろう。
我は小娘に連れられて、馬車の中に入る。そして白い空間に入った。
この白い空間はなじみがある。しかし、前回と違う点が扉の数だ。そしてそのまま小娘は一つの扉の前に立つ。
「じゃあ、行くよ。付いてきて。」
「わかっておる。」
言葉の通りその中に入る。うん?これは?
「凄いでしょ?」
「まさか、転送か?」
「そっ、ゲートってアタシらは呼んでる物よ。」
素晴らしい。我が亜人神となって居なかったら分からなかっただろう。
「これも主、いやザバルティ様が創られたのか?」
「そうみたいよ。アタシが仲間にして頂いた時にはもうあったから創っている所は見てないけど。」
「そうか。転送を応用するとこの様な物が作れるのか。」
人とは凄い物だな。手が有る事。知恵が有る事。知識が有る事。これらが全てによって成されるものであろう。やはり、我はとても凄い主人に出会えたのだな。
流石に、ここまでの技術は現在の人族では創る事は出来なかったであろう。
「こんにちは、ステファネス殿。今日はどちらに行かれるのですか?」
「やぁ、元気にしてた?先ずは、アタシが住まわせてもらってる屋敷にいくつもり。」
「かしこまりました。」
その部屋の先にいたダークエルフの者と話をしている小娘は我をそのダークエルフに紹介する。
「あぁ、貴女様が亜人神ギンチヨ様ですね。宜しくお願い致します。」
「よろしく頼む。」
「ザバルティ様からギンチヨ様は自由に使ってよいと伺っておりますので、いつでもご自由にお使いください。」
「わかった。感謝する。」
そんな挨拶をした後、我はゲートを通り小娘の見ている子供たちにあったり、主人の父上・母上。そして祖父母様にお会いしたりした。まさか、祖父母にあたる方があの二人であったの本当に驚いたがな。




