234 神獣との面会
真っ白な空間に一体の神獣フェンリルと複数の人間が居る。種族は様々な人間達は一様に畏まっているかのようだ。それは神獣を前にして畏まっている訳では無い。
「これは、酷い怪我だね。」
肩から先を失った神獣フェンリルはつらそうに体を床につけている。
『どうか、お腹にいる我が子だけでも助けては頂けないだろうか?』
フェンリルは気を使いながら話している事がわかる。しかし、気を使われた方は不思議そうな顔になる。
「子には母が必要でしょう?貴女は助かりたいとは思わないの?」
神獣フェンリルに気を使われるその者の名はザバルティ。マカロッサ家の長男であり次期当主。そして二国の王女より求婚され婚約している。さらに、≪神の使徒≫でもある男。
『しかし、この体ではもう長くは無いでしょう。』
「そうだね。そのままでは厳しいかもしれないね。」
『ですから、我が子だけでもお助け頂けないでしょうか?』
「それは聞けない相談だね。」
『そうですか。』
愕然とするフェンリル。
「母も子も助けるからね。」
『えっ?しかしどうやって?』
「こうするのさ。」
ザバルティが言葉を発すると急に白く強く輝き出し、視界は真っ白に染まっていく。誰もが目にも白一色と映る。
少し経った後、その白い世界が色づき始めていくとお互いの顔が見えてくる。
「これで、大丈夫だよ。」
ザバルティが不意に声を出す。その意味を一体を除いて皆気づく。そして意味が解っていない一体の一度失った場所を見る。注目が集まった事に少し驚きつつ言葉を発する。
『何が、一体大丈夫なのでしょうか?』
「そうだね。説明不足だった。君の失った腕の方を見てくれないかな?」
『はい。はい?はいぃ!!』
「そりゃあ驚くよな。アタシ達も初めて目にしたときは相当に驚いたもんだ。」
神獣らしからぬ反応を見せるフェンリルにステファネスは同意するかのような発言をするが、言われたフェンリルはそれどころではない。
『奇跡だ!奇跡を起こされた!!神と言ってもこの様な軌跡は早々起こせるものじゃない。我も神の端くれだが、これは正に奇跡だ!!』
興奮しすぎている。腕だけじゃなく、全ての傷が無かったモノとなっている事に気づかない。それほどに驚いているし興奮している。まさしく【驚愕】なのであろう。
「奇跡ではないね。理に基づいた行動の結果だからね。その行動は確かに≪神の使徒≫の力は凄いと思うけどね。それがなければ実現できないからね。」
『ご謙遜を。ですが、その行いが出来る貴方こそが奇跡なのかもしれません。我は・・・いえ、ワタクシは一生貴方に、ザバルティ・マカロッサ様に親愛と忠誠を誓います。』
「「「流石ザバルティ様!」」」
ザバルティの仲間は神獣フェンリルを従える事になったザバルティを褒めたたえるのだが、肝心のザバルティは浮かない顔になる。
「親愛は良いのだけど、忠誠はどうかな?私は部下を必要としていないんだ。だから、友になってくれないかな?一緒に笑い、一緒に泣いて、一緒に喜び合いたいんだ。主従の関係は良いんだ。役割として主従みたいになったとしても、友で居て欲しいんだ。どうだろうか?」
『それは身に余る光栄でございます。ですが、本当に良いのでしょうか?』
「勿論だよ。私はただ力を与えられたに過ぎない人間なんだ。貴女の方こそ正真正銘の神獣なのだから、私の方こそ光栄だよ。神獣フェンリルの友だなんて。ちなみに名前は何て言うのかな?」
『名はありません。そもそも名がある神獣や魔物は居ないでしょう。逆に名があればその種族の中でもレアであり、上位種になります。』
「そうなのか?でも区別はしたいな。」
『でしたら、ワタクシに名を授けて頂けませんか?』
「良いの?」
『もちろんです。』
「でも、神獣に名前を付けるとか、ちょっとまずくないかな?」
「ザバルティ様なら、大丈夫ですよ。」
何故か、ここでミーリアがそう断言をする。
「ミーリアがそう言うなら大丈夫かな?」
『ええ、是非ともザバルティ様に名をつけて頂きたい。』
「わかった。ではそうだな・・・。」
辺りは静かにザバルティの言葉を待っている。
「【ギンチヨ】ではどうかな?私の知っている伝説に雷神の娘として登場する女性がいるんだけど、【誾千代】と書くんだ。だけど、ここはやっぱり【銀千代】かな?」
書きながら説明するザバルティ。その字を見てビックリする仲間達。
『この字は何ですか?初めて見ましたが?』
「これはね。漢字と言う物なんだ。【銀】はシルバーって意味で【千代】は非常に長い月日を表すんだよ。終わりのない時間って意味もあったな。どうかな?気に入ってくれたかな?ちなみに【誾】は安らぎ慎む。っていう意味もあったな。」
『そうですか。【銀千代】【誾千代】ですか。ふふふ。終わりに無い銀。終わりのない安らぎ慎む。・・・良いですね。ありがたく使わせて頂きます。』
そう良い終わり、フェンリルは納得したかのような?そして喜んでいるような顔になった途端、フェンリルもといギンチヨは輝きがした。




