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231 死んだ後に・・・飄々とした男


飄々とした男はパチパチパチパチと手を叩きながら、アタシ達を褒める。


「お前は何者だ?」


「おっと、そう言う質問に素直に答える者なんて、はたして居るのかね?」


「自分が強いと思う者は名乗るんじゃない?少なくとも礼儀がある男は名乗るでしょ?」


「ふむふむ。面白い子だね。おっと。」


男はアタシに目を向けながら、シェリルに向かって短剣を投げつける。動きを止められてしまった。


「闘うつもりは無いよ。面白い物を見せてくれたお礼だ。それをとっておきたまえ。」


「本当にアンタはなんなんだ?こっちは忙しい。用がないならさっさと行ってくれ。」


「そう邪険にしなくても、居なくなるとも。ところで、君は一度≪死≫を味わっていないかな?」


男はアタシから視線を外さずに質問をしてくる。


「だったら、何だい?この世界に生きている者は多かれ少なかれ≪死≫を経験しているだろう?」


何故か素直に答えるのを避けた。


「そういう意味でない事位わかっているだろ?まぁ良い。では交渉だ。その後ろにいるフェンリルは諦めてやる。その代わりに、素直に話せ。」


これはマズイと直感が警告してくる。


≪お話ください。問題ないとマスターが言っています。≫


アタシは頷き答える。


「あぁ、アンタの言う通りだよ。」


「そうか。やはりな。見た事があると思ったんだ。その顔。」


フッと笑ったかと思うといつの間にかアタシの目の前に居てアタシは動けないでいる。避ける事も逃げる事も出来ない。そして男はアタシの首の傷を触る。


「さ、触るな!!」


声を張り上げる事で、ようやく体の自由がきいた。思いっきり剣を持つ手を振り上げ降ろす。

しかし、剣先は地面に刺さるだけで手ごたえがない。


「良いね。良いよ。」


男の声が前方の上の方から聞こえる。慌てて視線をそちらに送ると、飄々とした男は木の枝の上に立っていた。


「約束通り今回は引いてあげよう。契約は大切だからね。」


「うるさい!」


≪落ち着いてください。≫


意味深な発言をする男に怒りの激情をぶつけるが、カミコちゃんが諫めてくる。


「おっと、では今日はこれにておしまい。レディー達。また会おう。」


そう言って男は急に姿を消した。いや存在が無くなった。


≪転移魔法を使った様です。≫


「ちっ!」


「ぷはぁ~。助かったんだよね?」


「そのようね。」


アタシが悔しがっていると、パインが安堵し、その発言にシェリルが同意した。


「くそっ!」


「そんなに荒れないの。無事にやり過ごせたんだから、良かったじゃない?」


「無事なもんか。アタシの体を勝手に触りやがった。ザバルティ様の物であるアタシに。」


「う~ん。ツッコミを入れたいけど、シリアスすぎる場面だよね?」


アタシの悔しがる姿に慰めてくれようとするシェリルには悪いが。どうしても許せない。大切な繋がりである首の傷を触られた事が、無性に腹が立つ。侵された気分だ。


『もう、良いかな?我も長くは無い。』


急に声が後ろの方からする。フェンリルが居るのを失念していた。


「すまない。問題ない。」


『そうか、では我の腹に居る子を助けてやって欲しい。このままでは我と共に死を迎えてしまうだろう。』


弱々しくも優しい声でフェンリルが言う。


「でも、何故アタシ達なんだ?」


『・・・、お前達は聖なる者の従者であろう?その匂いと痕跡を感じた。それにどの道我は死んでしまう。誰かに託さねばならない。であるなら、奴らを追い返すだけの力を持つ者に預けた方が良いと判断しただけだ。』


確かに筋は通るが、何故、聖なる者の従者と分かったのだろうか?匂い?痕跡?まだ、何もしてないんだけどな?って思ったのはアタシだけだろうか?周りを見渡すと皆一様に少し顔が赤い。考える事は一緒みたいだ。


「アンタの一緒にしないでね?」


シェリルの顔を見た時、そう小声で言われたが、怪しいと思う。


『さぁ、我の腹を掻っ捌き、中に居る子を頼む。』


切羽詰まったようにフェンリルが言う。その言葉を受けて皆目を合わせる。


「困ったわね。」


「そうね。本当に無理なの?貴方は死んでしまうの?」


『この傷では無理だろう。』


よく見ると、フェンリルの左肩から先が無くなっている。他にも右目を失っている様だ。


「でも、母は大切な存在よ?貴方が居なくては子は育たないのではないかしら?」


チェリーがここにきて良い事を言うが、現実的には難しいのも理解している。


『確かに、生きていたいが、お前達にこの傷を治せるのか?我にはどうにもできないのだ。」


≪とりあえず、エリクサーを飲ませてはいかがですか?≫


「でも、根本的な治療にはならないから、生きていくのが難しいんじゃ?」


≪問題ありません。≫


「わかった。」


他がごちゃごちゃ言っているのを無視してアタシは持っているエリクサーを傷ついたフェンリルに与える。


『なんだこれは?』


みるみる傷が塞がっていく。勿論、失った物が戻るわけでは無いが、少なくとも傷は塞がった。


『す、ごい。』


声が震えている。


『やはり、聖なる者に連なる者なのだな?傷が塞がり少し楽になったら。ありがとう。』


素直に感謝を述べるフェンリルだった。


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