221 信者の私・・・報告
私達のビテングまでの道のりはとても順調だった。
カミコちゃんのナビゲートどおりに進み。魔物を退治していく。
更に、神話級武器・防具を頂いており、地獄の様な訓練を耐えてきた私達に敵はいない。
そう思えるほどに、順調だった。国家レベルの最精鋭部隊にも負けない。数による暴力であっても負けないだろう。
「順調ですね。」
「嬉しそうね。」
「ええ、これほど順調だと只の旅の様な気がするから楽しいんですよ。」
確かにエスティの言う通りで、楽しい。カミコちゃんのナビゲートは完璧で、魔物に遭遇するポイントがわかっている状況で危険が少ない上に切迫する状況も生まれない。生まれない以上、疲れも違う。更に、カミコちゃんに頼らずとも、自身の危険察知や魔物探知能力も上がっている様で、早い段階で分かるようになってきている。
「だけど、油断は禁物よ。私達で手に負えないような状況はカミコちゃんが作るとは思えないけど、油断したら隙が出来てしまう。その隙が強者が弱者に負ける要素なんだから。」
「はい。確かにそうですね。気を引き締めます。」
「わかっているなら、良いのよ。常に緊迫する必要は無いわ。いつでも動ける状況だけはしておきましょう。」
「わかりました。」
そういう話をしている間にも、魔物退治は進んでいる。そして、ビテングの街に一歩一歩近づいているのも事実だ。
≪後、一日でビテングの街につく予定です。≫
「わかったわ。ありがとう。では、今日はここで休みましょう。」
私の号令で皆、休む準備をする。私は本日の報告の為に一度、王都テーストのザバルティ様の元へ報告に戻る。基本的にカミコちゃんという存在があるので、戻る必要は無いのだけど、それはそれ、これはこれである。決して私の感情の問題ではない事は分かると思う。組織に属せばね?
≪私は知っています。≫
やめて、それ以上は言わないで。お願いします。という具合に私はカミコちゃんに頭が上がらないのも事実だ。
「戻りました。」
「今日もお疲れ様。どうだった?」
「はい。特に問題なく順調に進んでいます。」
≪予定通りのペースです。≫
「そっかぁ。順調であるなら良かった。」
「ありがとうございます。」
そう、たったこれだけのやり取りだが、このやり取りが嬉・・・重要なのだ。
そんな時だった。
≪マスター。危険が近づいています。≫
「うん?何処に?」
≪捜索隊の場所です。リリアーナは急いで戻って迎撃態勢を。≫
「かしこまりました。」
「で、彼女たちで退ける事は可能か?」
≪可能ですが、リスクが高いです。≫
「わかった。私が行こう。ミーリア。後は頼む。」
「はい。お気をつけて。」
「行くぞ。リリアーナ。」
「は、はい!」
ザバルティ様は駆け出した。そのままの服装で。そのザバルティ様に置いて行かれそうになる私に、ミーリア教主様の魔法が掛る。
「あ、ありがとうございます。」
「気をつけて。くれぐれもザバルティ様が悲しむ事にならない様に注意して。」
「わかりました。」
その後の事は、あまり憶えていない。兎に角一生懸命ザバルティ様を追って自分の隊に戻った事だけは覚えている。戻った時にはどうしたんですか?みたいな顔をしたエスティが居た。その顔にホッとしたが既にザバルティ様の姿がそこには無かった。
「ザバルティ様は?」
「えっ?」
≪上空です。≫
「な、何あの黒い空は?」
「雨雲ですかね?」
状況をいまいち理解していないエスティは頓珍漢な事を言う。
≪あの黒い空には悪魔に軍隊が覆いつくした状態です。≫
「嘘?悪魔ってあの悪魔?」
≪そうです。今、現在ザバルティ様が単独で迎撃しています。≫
それは遠い空での戦闘だった。私達の目には黒い雲がかかっている様にしか見えない。
突如、赤い炎が黒い雲の中に起こった。そして稲妻が黒い雲に巻き起こり、黒い雲は所々に夕焼け色の空を見せる様になっていく。それは本当に黒い雲が霧散して夕焼け色の空に戻っていく。そんな様子だった。
そして、その状況はあっという間に夕焼け色の空へと完全に戻った。
≪終わりました。危険は去りました。≫
「ザバルティ様は?」
≪魔法で屋敷に戻るとの事です。≫
「そ、そうですか。」
残念ながら、こちらには来られないとの情報にショックを隠し切れなかった。私の大切な一時を邪魔してくれた悪魔達に対する憎悪が漲る。
「どういう事ですか?」
エスティにはやはり飲み込めない状況のようだ。それはそうだ。私は危険が近づいている事も、ザバルティ様がここへ来た事も分かっているが、彼女達、ここの隊の者には何が起こっているのかわからないし、どういう状況化を説明してもピンとこないだろう。
≪説明しても無駄ですし、説明する必要はありません。ザバルティ様が動かれた時点でこうなる事は予測できています。貴女が理解していれば十分です。≫
まさにそう言う事だろう。ザバルティ様にとって賛辞が欲しくてしている行動では無い。惨事にならないように動いてくれただけだ。もしかすると、今までにも同じ様な事があったのかもしれない。私達が認識していないだけで。ただ、その事についてだけはカミコちゃんは教えてくれなかった。だから、多分そういう事なのだろう。
今回の事で改めて感謝の念が沸き上がった。




