20 意見
街の中心にあるひと際大きな建物に着く。この間に三か所の壁を越えてきた。
1つ目は外から街に入る時。
2つ目は街から軍隊の駐屯地に入る時。
3つ目は駐屯地から館に入る時。
つまり領主の館を中心とした三重構造になっているみたいだ。
「かなり厳重な構造ですね~。」
「そうだな。マカロッサ家が緩いだけかな?でもシュベルツ領でもマカロッサ領と変わらなかったよな?」
「そうです。私の故郷のシュベルツ領は男爵家でもありますし、古い街ですし。マカロッサ家の影響もうけていますから、緩いのかもしれません。」
「にしても、かなり計画的な街の構造になっているのは間違いない。」
アリソンの感想を私とトーマスは同意し、各自の思いを言い合う。戦争を意識している構造とも言えるので、貴族としては当たり前の事であるかもしれない。
「到着しました。」
ロバートの声に皆は降りる。すると、館の前に騎士たちが出迎えの列をしていた。歓迎の意味を込めての儀礼式な恰好をしている。先ほど駐屯地を抜ける時にも同じ様に出迎えを受けた時も同じだった。
「ようこそ、ザバルティ・マカロッサ殿。我がプロスペクター領へお越しくださった。」
「歓迎ありがとうございます。カンガリ伯爵。感謝いたします。」
「さぁ、我が屋敷へ入られよ。」
カンガリ伯爵が直々に出迎えてくれた。カンガリ伯爵はこの国の貴族の主流である金髪であり若かりし頃には美男子として有名な人だったらしい。現在はダンディーなおじさまといった風貌で豪快な人柄であるとの評判だ。マカロッサ家と旧知の仲と聞いている。そろそろ階位を子息に譲るという話を聞いている。初老であるはずなのだが、一向に衰えを見せない感じでもある。まだ私の父上と同じ40代にしか見えない。前世の私達団塊の世代と同じ匂いがする貴族らしくない人ではないだろうか?
◇◇◇◆◇◇◇
歓迎のパーティー抜け、今はカンガリ伯爵と二人執務室に居る。呼ばれたのだ。
執務室に入ると、二カッていう音がでそうな笑顔をカンガリ伯爵は見せる。
「ザバルティ君。大きくなったな。前回あったのは5年も前か?」
「はい。私が10歳の時ですので5年前になります。カンガリ伯爵様もご壮健のご様子。」
「うむ。立派に成長しているようだな。アルカティ子爵が羨ましい。」
「いえ、私はまだまだ未熟者です。今後もご指導の程よろしくお願いいたします。」
「そう言える所が、成長の証よ。ワシもそろそろロマネス殿と同じ様に息子に譲らねばなるまいが、まだまだ働かなければとどうしても思ってしまうのじゃ。まだまだ若い者には負けてはおられん。と思って動いてしまうんじゃよ。」
こういう所が若さの秘訣かもしれないし、団塊の世代と呼ばれる私達の世代の気概と同じような気がするのだ。私は歴史が好きだった。三国志の中に黄忠と呼ばれる将軍がいるのだが、その将軍を表す言葉に≪老いて益々盛ん≫というのがある。この黄忠という武将が歴史の表舞台で活躍するのが遅く遅咲きで、引退せず最後まで前線で戦ったという話があり、60代で前線の大将を任されたという逸話があるくらいだ。私も黄忠に会ったわけではないから本当の所はわからないが、現実に居たら目の前に居るカンガリ伯爵みたいな人だったのでは無いかと思う。
「僭越ながら、ご提案させて頂いてもいいですか?」
「うむ。聞こう。」
「先ず確認なのですが、カンガリ様は国軍の大将の役も兼任されていると伺いましたが間違いないですか?」
「間違いない。」
「では、爵位は譲り領地経営をご子息のガリオン様にお任せになり、自身は軍務に力を入れてはいかがでしょうか?国の防衛はそろそろ本気で考えねばならぬ時期が来ていると父も申されておりました。大将の一角としてではなく、先導者として国軍の力を上昇させるべきかと思います。隣国ではよからぬ噂が立っているとも聞きます。この件につきましては私よりカンガリ伯爵様の方が詳しいと思いますが。さらに、領地経営をカンガリ伯爵様が壮健の内に交代しておくことで、ガリオン様がカンガリ様のサポートを受ける事が出来る事にもなり安定した運営ができるのではと思えます。お互いが頼りすぎる事なくサポートしあえる関係を作る事でより安泰ではないでしょうか?」
「ふむ。面白い考えだ。確かにそれも一理あるな。だが、他国の動きまで知っておろうとは驚きだ。」
「申し訳ありません。このような機会はなかなか無いのでつい熱くなってしまいました。申し訳ありません。それに、これらの考えは、カンガリ伯爵様も考えていらっしゃったのではないかとも思いますが。」
「そうだな。考えておったが、軍にて働けと言われるとは思わなんだ。」
「私の知る言葉に≪老いて益々盛ん≫という言葉があります。歳をとっても益々盛んな気持ちで困難に立ち向かうという意味だそうです。私としては「気概さえあればやり抜く事が出来る。」と解釈しております。いかがでしょうか?」
「がははは!面白い実に面白い。今日は収穫があったわ!がははは!ワシも≪老いて益々盛ん≫で行こう!」
この後、一か月もしない内にガリオン・プロスペクター伯爵が誕生した。
それと同時にカンガリ・プロスペクター大将が国軍にて総帥大将となった。
ちょっと嬉しかったのは言うまでもない事かもしれない。




