191 死んだ後に。 その10
「なっ?」
この男に見える者は実は女だった?!嘘でしょ?!久々にビックリする内容だったわ。
更に、その者の左腕を切り落とし、止血する。一連の動きは流れる水の様に滑らかにおこなわれた。
その動きは綺麗すぎて見とれるほどだ。している事は非常にキツイ事なのに、そこに信念があるからなのかとても綺麗な儀式のようだった。それに、ザバルティ様の背中に白い羽が見える気がしたのは一体何だったのか?わからない事もあった。
それにしても、すぐわかるとか言って勿体ぶるのかと思ったら、シェリルを派遣する手際。どこに居るのかもわかっていた様子だった。改めて凄さを感じる。
「シェリル。彼女とその男を安全な地帯に連れて行ってくれ。後、今後の事はこの紙にメモしてあるからそれを伝えてくれ。」
「わかりました。」
シェリルは女だった者と腰の砕けた男を部下に運ばせて行った。アタシも行こうとしたのだが。
「アンタはザバルティ様に着いて行きな。まだ、今回の山は終わってない。」
「わかったよ。」
シェリルは認識しているようでこの後すぐにザバルティ様が他の場所に行く事がわかっているようだ。逆にあの二人にシェリルは付き添う形で残る事になるのだろう。そして奴隷販売として引っ張って行くのも請け負うようだ。
「では、セイレス女王軍ノ陣に戻るよ。」
「はい。」
ザバルティ様とアタシは一足先に戻ることになった。
「ステファネス。魔法で戻るから私に触れてくれ。」
「えっ?触れる?」
アタフタするアタシを少し遠めからシェリルが見ている気がする。
「早く。行くよ?」
「あっ。はい。」
アタシは急いでザバルティ様の近くに寄る。と、躓いてしまった。
「ぎゃっ!」
なんと色気のない声を出してしまったのだろう?アタシは自分が恥ずかしい。その上、そのままザバルティ様に飛び込んでしまった。そんなアタシを優しく受け止めてくれたザバルティ様はそのまま転移魔法を発動させた。
「あっ!」
アタシは嬉しさと恥ずかしさでリンゴの様に真っ赤になった顔を伏せる。
「ズルい!!」
とシェリルが叫んだような気がしたが気のせいだろうか?
たぶん、気のせいではない。アタシは抱きしめられた状態のまま、陣に戻ってきた。
「ス、ステファネス!貴女は!!」
ミーリア様の声ではっとなったアタシは飛びのき謝罪した。
「すいません。」
「問題ないよ。そんなにミーリアも怒らないでくれ。ステファネスが躓いてコケそうになったから、受け止めただけだよ。そのまま転移魔法を使ったのは私なんだ。」
「は、はい。ザバルティ様がそうおっしゃるなら、そうなのでしょうが、今後は勘違いされないよう、お気を使いください。」
「わかった。気をつけるよ。」
素直な反応を示すザバルティ様を見てミーリアさんも落ち着きを戻した。危ない所だったと思う。あのままであればアタシは消し炭になっていたところじゃない?
「ふ~。」
「ふ~。では有りませんよ?貴女も気をつけなさい?まだ死にたくなかったら?」
笑顔であるが目が笑っていなかった。ミーリアさんのその目を一生忘れる事は出来ないんじゃないだろうか?だけど、アタシも負ける訳にはいかない。と思うのだが、ここは一旦引いておく。・・・だってマジでヤベェってアラートが鳴るんだよ。命の危機ですよって感が半端なく頭の中で鳴り響かせるんだよ?!
「へい。」
そう答えるのがやっとだったよ。わかんだろ?
「それより、ミーリア。」
「はい?」
「ビラッキオ隊の動きはどうだ?予測通りか?」
「はい。ザバルティ様の予測通りです。」
流石にザバルティ様の話を無視する事はしないのがミーリアさんだ。アタシでもそうする。
「では、もうひと働きするとしようか。」
「いえ。ここは一度、お休みください。」
「うん?」
「まだ、時間が早すぎます。もう少し深けてからで良いはずです。」
「そうか?」
「はい。ここは監視だけ強めておきましょう。」
これはあれだ、ミーリアさんの甘えと心配が重なった提案だ。これには乗っかって置いたら先ほどの事は許して貰えるだろう。
「じゃ、アタシが少し偵察スキル向上の訓練として向かいます。少し時間貰って良いっすかね?」
「わかった。頼む。私は少し休もう。」
ちっらとミーリアさんを見ながら提案した事には直ぐに許可がおりた。ミーリアさんも少し頷いたから意図を理解してもらえただろう。
「では、お茶の用意をしますね。」
幾分か嬉しそうなミーリアさんを横目で見てアタシは外に出た。こういう時は気を利かすもんだ。そうすれば、その時になれば協力してもらえるってもんだ。外に出たアタシを待っていたのは半月のお月様とユカさんだった。
「お勤めご苦労様。」
「いえ。お互い様ですよ。」
「そうだな。ザバルティ様はアグレッシブな方だからな。」
そうこのユカさんはザバルティ様の私兵の統括をされている人でいつもザバルティ様の近くに居る。先ほどは隠密行動だったから、この陣の方で待機されていた。
「では、行ってきます。」
「ああ、油断だけはするなよ?」
「お気遣いありがとうございます。」
この人と話すときは普通に敬語で話せる。何故かな?姉さん?アタシが姉さんだから、大姉さん?まぁくだらない事を考えるのはこれ位にして、いっちょ張り切っていきますか?




