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190 片腕を失った時 その3


「いいえ。私がそうしたいのです。罪を償わせてください。」


私は正直に素直に罰を受け入れたいと思った。目の前の存在はこの世界の秩序を守る存在なのだと感じたからかもしれない。

何の罪もない子供に対しておこなった数々の行為を清算する時が来たのだと感じたからかもしれない。

少なくとも、私は『神の存在』に対する答えを頂いた気がしたのだ。『神は居る』そう確信した。だから素直に罪に対する償いをしたいと考えたのだろう。罪に対する償いが出来るのであればなのだが。


「『罪を憎んで人を憎まず。』私の好きな言葉です。そこまでの境地には中々立つ事は出来ませんが、貴女が『罪に対する罰』を分かり易い形に残したいという気持ちは伝わりました。ですが、想像を絶する痛みと不便を強いられる事になるのは間違いありません。それでも良いのですか?」


私は寸分の考える時間も持たずに頷いた。


「もちろんです。宜しくお願いします。」


もう私の中には、今までの残忍な行為の数々に侵された心は無くなっていた。とても落ち着きのある静かな海の前に居るようなそんな気分だ。満たされている心は静かな波紋が広がるのみ。不思議とそんな事を思っていた。


「わかりました。では準備はよろしいですか?」


「はい。お願いします。」


私の眼には振り下ろされた刃の剣筋は見えなかった。気づいたらただ目の前に私の右腕であった物が切り落されている。そしてそれを認識した時点から想像を絶する痛みが私の右腕から始まった。


「・・・ぐっがっ!」


迸る血は真っ赤だった。


「止血します。」


ザバルティ様は止血を施してくれた。そして痛みだけは残してくれた。


「痛みもまた、貴女の懺悔の証拠でしょう。だから残しておきますね。普通の怪我の時と同じように痛みも無くなっていくでしょう。」


「ありがとうございます。」


その言葉を言うので精一杯だった私は当然のように気を失った。



◇◇◇◆◇◇◇



私は夢を見ていたようだ。遠い昔の出来事の様な気がするがつい1年前の事だ。もう10年は経ったような気がする。

幾度となく大変な目にあった。欠損者の仕事なんてたかが知れている。

想像以上に厳しいモノだった。だが、私は一度として恨む気持ちは起こらなかった。

ジルベルト隊長はそうではなかったようだが、隊長の場合は覚悟がないままになってしまったのでそれも仕方がないように思う。私は言いつけ通りにジルベルト隊長を祖国のカーリアン帝国まで連れて帰った。時の権力者であるカーリアン帝により、責を問われ処刑されてしまった。ある意味ではそれはジルベルト隊長にとっての救済になったのではないだろうか?あの状態のまま生かされる事の方が彼にとってはつらい事だったであろうし、死ぬ事で解放されたのは間違いない。ただ、それはザバルティ様が望む結果では無いと私は分かっていたので、何度も止めたが力及ばず、ジルベルト隊長には死が与えられたのだ。

もしかすると、カーリアン帝の情けだったのかもしれない。ジルベルト隊長はジルベルト隊の全責任を取り処刑されたのだから。


「姉さん。今日は幾分か良い顔をしているわね?」


「そうだろうか?」


今の私は、妹と一緒に住んでいる。その妹に言われて私は夢を見た事を妹に話した。


「あの神様のような存在の方の話をする時の姉さんは本当に聖人になったかのような顔になるわよね?」


「そうかな?そんな自覚は無いんだけど?」


「絶対そうよ。でもその聖人の様な顔の中に乙女が登場するのよね。なんでかしらね?」


私は自分の顔が真っ赤になるのがわかった。そう私は会ったその日の事が今でも忘れられないのだ。あの神々しく壮麗な顔を思い出すだけで、私は胸はときめく。叶わない夢だとわかっているのにどうしても諦めきれないのだ。


「それに、腕が無くなったというのに鍛錬や勉強を欠かさないですもんね?ふふふ。」


「うるさい!」


私をからかう妹を怒った目で睨みつける。


「おぉ、こわ!それより姉さんに手紙が来ているわよ?」


「手紙?誰からだろう?」


「さぁ?でもドラゴンの紋様が使われていたわ。はい。」


手渡された手紙をあて先にレイ・レリクラン様とあるだけだ。私の本名だ。

確かに裏にはドラゴンの紋様が描かれている。


私は意を決して手紙を開けた。そこには一通の手紙と純白の羽が一羽入っていた。益々私は誰がこのような手紙をよこしたのか想像がつかなかった。


「ね、姉さん!腕が?!手が?!」


「腕?手?はぁ?」


妹が急に慌てだした。そしてワナワナと震えながら私の失った左腕を指さしている。


「どうした?」


「見て!自分の左腕を!左手を!」


そう言われ、私は自分の左腕があった所を見る。


「えっ?」


私は驚きのあまり固まってしまった。そう、そこには私の左腕が左手が傷一つ無く、そこに存在していたのだ。


「まさか?!」


私は入っていた一通の手紙を見て目が熱くなり、一滴の涙が頬を伝って降りていくのを止める事は出来なかった。


「フィリア。私はこの村を出るわ。そして私が本気でお慕えする方にお仕えするわ。」


私は妹のフィリア・レリクランにそう告げた。ただ、妹は涙を貯めた優しい目で私を見ているだけだった。



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