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189 片腕を失った時 その2


「周辺に十分に注意して進め!」


私が言えたのはこの一言だった。あのような状況を作り出した者がいると考えられる現状で、私たちに出来る事は限られている。


私は幻術系魔法と回復系魔法を得意としている。この二つを駆使して沢山の任務を達成してきた。そんな私は精神に作用する恐ろしさを嫌というほど知っているつもりだ。捕まえた他国のスパイに拷問する時や、犯罪者の拷問をする時は特に重宝された。

私ですら、短時間で精神を壊すのは中々難しい。存外に人間の精神は強い。少しぐらいの傷では壊れない。肉体の方が壊すのは簡単だ。


切る。焼く。潰す。方法はいくらでもあり、魔法を使えば更に簡単なのだ。それに幻術系魔法は精神に異常を起こすのにはとても役に立つ。幻覚・幻視・幻聴等、人間の持つ五感全てに影響を及ぼせるのだから、狂わす事が出来る。

しかし、狂わす事が出来るのも魔法に対する力量が問われる。かける側とかけられる側との間にある実力差が大きい程に強くなるし、かけられる側の知識や精神抵抗力によっても効果は変わる。


では今回はというと、精神を壊された者たちは全員が壊されている。ただの一人も狂わされているのではない、壊されているのだ。

しかも、魔法の痕跡が見えなかった。つまり魔法は使われていない。

では、どうやって全員の精神を壊せるのか?


物が壊れる瞬間と同じで、大きな負荷をかければ壊せるのだ。

ではどうやって大きな負荷をかけるのか?魔法も使わずに?そして、大勢の人数に外傷も負わさずに。一体どうやって?


それがわからないのだ。

わからないからこそ、更に私は警戒と自分の未来に不安しかないのだ。

そんな事を考えて移動していたのだが、それも終わりが近づいてきたようだ。多数の気配を感じる。


「近い。気をつけろ。」


「そんなに警戒しなくても、既に貴方達の事は認知しているわ。」


私の言葉に反応するかのように、目の前に女が現れて返事を返すかのように言う。

それを見たゾーイが女に攻撃を仕掛けるが、それを『ふわり』と躱す。まるで花びらが舞うかのような動きだ。そして攻撃したはずのゾーイは糸が切れた人形のようにその場に倒れこむ。


「ちっ、魔法か。」


「いいえ。魔法ではないわ。ただの蹴りよ?」


蹴りの一発で意識を刈り取る事が出来るわけがない。そんな動きは見ていない。


「蹴りで意識が刈り取れるか!」


「では試してみる?だけど、貴方の周りの者は皆、既にここに意識はないけれど、貴方も加わる?ジルベルト隊長を残して?」


そう女に言われて私の周りに気を張り調べるが、誰の意識も感じられなかった。顔を動かして見たい衝動にかられたが、目を逸らしてしまう事を躊躇う自分が居る。それは危険だと直感が伝えてくる。


「流石に、人間の皮を被った魔物ね。ゴブリンやオークの行動に劣る行為が出来るモノたちね。仲間意識なんてないんでしょうね?」


「ふん。貴様に何がわかる?」


「私にはわからないわ?」


目の前に居る者が、あいつ等の精神を壊した者なのだろうか?目の前に居る者の実力は計り知れない以上、そう考えて動くべきだろうな。


「レリクランさん。そんなに警戒しなくても殺しはしないわ。貴方はザバルティ様に届けるわ。」


私の名前を知っている時点で警戒しないわけないだろう?と心の中でつぶやいたが、どう見ても相手の方が格が上だ。

「良いだろう。ではそこへ連れて行け。」


「では、ついてくると良いわ。」


私は女が進む道について行く。早くもなく遅くもない。だけれどもゆっくりしているわけではない、そんな速度で歩く女について行く。少したって景色が広がる空き地のような場所に出た。


「なっ?」


なんだ?この光景は?


ジルベルト隊長は一人の男の子?少年?青年?の足元に横たわっている。


「私は、ザバルティ・マカロッサだ。君の隊の隊長を貴女にお返ししよう。」


ザバルティと名乗った男の背に一瞬、白い羽が10羽見えた気がした。月光に照らされたその男の容姿は端麗にして神々しい。


「はっ!」


私は膝をつき、礼をとった。いや勝手に体が動いていたのだ。


「貴女達がこの地で犯した罪は大きい。子供は世界の宝だ。小さな子供には責任は無い。それを導く大人に責任があってもだ。戦争であっても、自己利益の追求であっても、その被害者に子供はなるべきじゃない。私はそう思う。所以、今回の事は許す事が出来ない。その責を取ってもらう。」


「君たちにはこの世界の弱者になってもらう事にした。隊長は腰の骨を失い座ることすら出来ないだろう。そして貴女の仲間の多くは奴隷となってこの世界のどこかで生きる事になるか、精神が壊れ廃人として今後生きていく事になる。死が来るまで君達は一生をかけて償う事になる。残念だが、自殺は出来ないよ。そう言う契約になると考えたらいい。」


私は何を言われても返す言葉が出なかった。


「ただ、君は一人そんな中にあって心を痛めていたね?だから、君の罪は仲間を抑える事が出来なかった事だ。君にも責をとってもらうよ。」


その言葉は残酷そのものだが、私は静かにそして受け入れる事を認めた。


「わかりました。」


「彼が死ぬまで面倒を見る事が君の罰だ。」


「いえ。この腕を差し出します。」


「私は女性に危害を加える趣味は無いよ。」


いつから、私が女である事を見抜いていたのか?そばに居るここまで案内した女も驚いた顔になっているぐらい私の正体は見抜けないはずなのに。





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