187 死んだ後に。 その9
世の中には『死んでも治らない』奴は居ると思う。
間違いなく目の前に居るこいつはその内の一人だとアタシは思う。
「ふん。雑魚が何人死のうが俺には関係ないな。」
ザバルティ様は遂にジルベルトを追い詰めた。そして目の前にしてジルベルトに質問をした。『子供は関係無かったのではないか?子供は大人や強者が保護すべき対象では無いのか?』その質問に対してのジルベルトの答えがそれだった。それに対してザバルティ様は残念そうに一言答えた。
「そうか。」
その後は目の前に居たはずのザバルティ様はジルベルトの居た場所に立っていた。そしてジルベルトは何処にも見当たらない。
「あれ?」
「上よ上。」
アタシの間抜けな質問にシェリルが答えてくれた。そしてアタシは上を見上げる。
「えっ?どこ?」
「もう直ぐ落ちてくるわよ。」
かなり上の方に黒い点が見えた。それがだんだん近づいて来る。
「もしかして・・・。」
「そうよ。それよ。」
黒い点は段々と大きく見える様になってきた。そして真っ直ぐにザバルティ様の所へ落ちてきているように見える。ザバルティ様が手を上げると吸い込まれるようにその手の上に落ちてきた。まだ人間の形はしていたが、意識は無い様子。手のひらに吸い込まれるようにピタッと止まった。
ジルベルトは自分が今どのようにして意識を失ったのかさえ分からないんのではないだろうか?
手のひらからドンと地面に下されたジルベルト。アタシは初めて見た。人間の腹がへこんでいる状態を。ジルベルトの腹にはザバルティ様の拳の跡が残って居るのだ。あれはかなり激痛が走ったのではないだろうか?内臓はもちろんの事、背骨もイってるんじゃないか?
「た、隊長。」
一人のジルベルトの部下が呟いた。
「死んではいない。が、歩く事はもうできないだろう。」
いや、背骨がいったら座る事もできないでしょ?寝たきりじゃん。そもそも、内臓爆発で死にかけじゃない?このまま放置すれば間違いなく魔物に喰われるか、そのまま死ぬんじゃね?
「そんな・・・。」
隊員が途方もないというような顔になる。地獄に落とされたような顔だ。
「そう簡単に死なせる事はしない。」
そうザバルティ様が言うと辺りが輝き出す。回復魔法だな。ってアタシは思ったが何故なのかわからなかった。
「一瞬にして死んだ方がましなのね。死なせる事はある意味で情けなのね。」
「えっ?どういう事?」
「死より苦しい生を送らせるって事よ。たぶんザバルティ様はあのジルベルトのお腹の中の方は回復させたのよ。けど根本的な背骨は治さないつもりなんじゃないかな?そうする事で、簡単には死ぬことが出来なくなる。そして生きなければいけなくなる。座る事が出来ない人間がまともな生活を送る事なんてできないでしょ?」
うぁ~。アタシなら狂うな。イヤ、アタシじゃなくても人間なら狂うな。やべぇよ。超怖い!
「うぁ~!!!」
一人のジルベルトの部下がザバルティ様に突撃をしようとする。それにつられて部下も魔法を発動させたり、武器を投げたりしている。ヤバい!と思って動こうとした時。
「大丈夫だ。」
ザバルティ様がアタシの方へ向いて言って手で止まれのポーズを作ると、そのまま全部を受けた。そう一つ残らずその身に受けた。アタシは眼を瞑った。だが、音がしない。ぶっ飛ばされたりぶつかる音が。
「どういう事?」
ザバルティ様はその全ての攻撃を左手で全て防いでしまったのだ。
左手の前には魔法的な壁が展開されていて、それが全てを防ぎきっていたのだ。
「残念ながら、君たちの攻撃は無駄だよ。ただ、その忠誠心は買う。」
そして、ザバルティ様は目の前に居る者達、全員に向かって魔法を放つとその魔法は龍のような形になってジルベルト隊を襲う。ジルベルト隊の者達は全て包み込まれて意識を失いだす。
「なっ?!」
バタバタと倒れだすのだ。胸の上下の動きだけがあるのが見える。つまり殺してない。ただ、意識を刈り取っただけのようだ。やべぇ!すげぇかっけぇ!!
「ザバルティ様。これらの者はどう致しますか?」
「強制的に意識を刈り取っただけだ。全てを拘束してくれ。」
「かしこまりました。」
ここでようやくアタシたちの仕事だ。意識を刈り取られた者達全てに縄をかけた。ジルベルトもその内の一人になる。
「全員を拘束したら、ジルベルト以外は奴隷商人に売ってしまってくれ。鉱山などの苛烈な環境の労働力になって貰おう。」
「かしこまりました。」
容赦ない。彼らは死ぬまで働かされる事になるだろう。しかも奴隷魔法で拘束される事になる。どんなに強い奴でも逆らえない。ただ、言われたがまま行動するしかなくなる。
「ジルベルトはいかがなさいますか?」
すると、ザバルティ様は急に森の方へ眼を向ける。
「もうすぐここに、ジルベルトの部下が来るだろう。そいつに預けるさ。すまないが、ジルベルト以外の者を連れて行ってくれ。」
「かしこまりました。」
もうすぐ来る?預ける?どういう事だろうか?その答えは直ぐにわかる事になる。




