185 勧誘
死なすのは惜しいな。そう思わせる男だ。私が本気で威圧をかけているのに気丈に振る舞い。発狂して攻撃を仕掛けてくる訳でもない。仲間の命を助けようと考える良い隊長だ。しかも正直者だ。
「私の仲間になりませんか?」
「「えっ?」」
ビラッキオさんとリリアーナさんは同じタイミングで驚きを表したが、それを見た私は思わず笑ってしまった。
「国から与えられた命令を中断させてしまったのは私です。その代わりとはなり難いかもしれませんが、貴方の様な方に仲間になって貰いたいというのは本音です。国を裏切る行為になるので、国にカーリアン帝国に戻ってもひどい仕打ちを受けて殺されるだけでしょう?特に、カーリアン帝国の皇帝ラムタラ・カーリアンには赦しを得るのは難しいのではないですか?で、この隊を解散する訳にもいかないでしょう?それとも傭兵家業に専念しますか?」
「・・・・。」
「良いでしょう。では時間を上げます。相談する時間を。明日の昼にまたお伺いしに来ますから、それまでに考えておいてください。あっ、これは脅しでは無いですよ?この国やアスワン王国やフリーア王国に迷惑をかけない事でしたら、私は何も言いませんし、尊重するつもりです。だからそれを前提に考えてくださいね?」
「わかりました。」
「では、夜分遅くに失礼しました。出して頂いた飲み物は美味しかったです。ありがとうございました。」
そう述べて私はビラッキオ隊の駐屯地からセイレス女王軍の駐屯地へ戻った。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
待っていたミーリアを筆頭とする私の仲間に事の顛末を話したが、皆苦笑していた。
「どこの世界に敵対した人を仲間に引き入れるんですか?」
なんて言葉も聞いた気がするが、元々はブリエンド達は私を襲撃してきた者達だったが、今ではゲートを守る守護者としてブリエンドの一族であるセリエンデス家は重要な役割を担ってくれている。
「前例があるしね。良いかな?って思たんだよ。それに、良い男でね。死なせるのが惜しかったんだ。」
「何ですか?自分より年上のオッサンを捕まえて年下を相手にするような物言いは?」
ミーリアにツッコミを受けて私は笑ってしまった。
「確かにそうだね。確かにそうだ。」
「えっ?今気がついたんですか?」
私は15歳だった。あははは。前世の記憶があるからどうしてもこの世界の人は皆年下に感じてしまう。
「確かに前世を入れたら、ザバルティ様より年下かもしれませんけど、あくまでもザバルティ様は15歳ですからね?そこの所わかってます?」
トーマスからもツッコミを受ける。何か今日は皆厳しいな。
「皆、心配していたんですよ。」
シーリスがボソリと私の耳元でささやくような声で教えてくれた。
心配してくれた反動が出ているらしい。
「心配をかけてすまなかった。自重は出来ないが、十分注意するから許してくれ。」
「まぁ、わかればよろしいです。」
「そうそう。本当に心配するんですから、気をつけてくださいね?」
敢て上から目線で言うミーリア達。ありがたい事だ。
「たぶん襲って来るなんて馬鹿な事はしないと思うけど、念のため確りと見張っていてくれ。」
「わかりました。部下と共に見張ります。」
「シェリル。頼むね。」
「ええ。任せてください。」
そう言うとシェリルはステファネスの耳を引っ張り連れて行く。
「イテテ、何でアタシまで?」
「うっさい!あんたも私の部下でしょうが?」
そんなやり取りをしている二人を見て皆で笑ってしまった。
「ほら、アンタの所為で笑われちゃったじゃない!責任とってよね?」
「なんでアタシが責任取らなきゃいけないんだよ?」
そういうやり取りをして二人は去った。
「かなり仲良くやっている様だね。楽しそうだ。」
「ええ。その様です。」
楽しいのなら特にいう事は無い。楽しめる事が大切だ。ある意味人生の意義じゃないだろうか?
「ところで、この後はどう致しますか?」
「そうだね。とりあえず指揮官に報告はしないといけないね。」
エリザネス第一王女の顔が頭を過る。
「かしこまりました。使いを出しましょうか?」
「いや。ちゃんと報告に行くよ。ただ、前触れを出しておいてくれないかな?夜も遅いから明日の朝に報告に上がると。」
「かしこまりました。」
女性の空間に行くのは時間が重要だ。緊急時以外は避けたい。
「トーマス。私から聞いた内容で、どう判断する?彼らは仲間になると思うかい?」
「どうでしょうか?彼らも国に使える者達です。良くて半々という所では無いですか?」
トーマスの見立ては私と同じだ。
「私もそう思う。逆に悩んでくれるようでは無いと嫌だな。」
「難しい事をおっしゃる。仲間になって欲しいけど、簡単にはなびいて欲しくない。」
「そういう事。でもまぁ、彼らがどの様な結論に至っても私はそれを尊重するよ。あくまでも私達に害がなければという事だけども。」
「そうですね。最後まで抵抗するだけでなく、反省も無かった彼らの様にはなって欲しくは無いですね。」
「そうだね。あれは仕方がなかったと私も思うけど、良い事では無いもんね。」
そう、数日前に滅ぼした隊の事を思い出す。鬼畜の所業をしていた彼らであっても、何とか無効化する手段が無かったか?と考えてしまう。分かり合う事が出来なかったのは非常に残念だ。




