184 我らビラッキオ隊 その5
歴戦の勇士が集まっている。苦難を何度も乗り越えここまでやって来た俺達ビラッキオ隊は現在ブラックスコーピオンという傭兵団として活動している。勿論傭兵ギルドにも加入済みだ。
「隊長。先ほど女王軍が街道を通り過ぎました。」
「わかった。ようやく時間が来たな。斥候部隊をだせ。駐留場所を確認させろ。」
「はっ!」
素早く動く部下を目で追った。
「少し休んでおく。見張りを残して他の者は休め。」
「はっ!」
一度寝床に戻り、身体を休める事にした。
◇◇◇◆◇◇◇
「さぁ、出発だ!」
「「「おぉ!」」」
夕方に行軍する。女王軍の野営地の近くまで街道を進む事になる。
「近すぎない様に注意しろ!連絡は怠るな!」
リリアーナの隊と連携した動きが必要になる為、常に連絡係を設置してあり、動く事になっている。
近くなり過ぎない様に、細心の注意が必要だ。
女王軍の近くまで来た時に初めて、女王軍に使者を出す。良ければ、雇ってもらえないか?今の時間は失礼であろうから、明日の朝に改めて伺う旨を伝えさせた。敵ではない事を知らせて駐屯するのだ。
「さぁ、早いが明日に備えて休め!」
隊全体に指示を出し、リリアーナへ連絡させる。準備は万端だ。後は時が来るのを待つだけだ。
◇◇◇◆◇◇◇
「初めまして、ブラックスコーピオンの団長ビラッキオ団長。いや、正確には・・・。」
ちょっと待て!何だこいつは?
「カーリアン帝国所属、潜入攪乱第一部隊、ビラッキオ隊長。」
俺は焦りながら、剣に手を伸ばす。
「お前は何者だ?」
「私はアスワン王国所属、マカロッサ子爵家嫡男、ザバルティ・マカロッサだ。今は使者としてここに居る。」
背中にはヒア汗しかでない。剣に伸ばした手が震えている。俺は自分の武に自負がある。例えドラゴンが相手でもこんな事にはならない自信がある。が、目の前の15歳の少年?青年?を目の前にすると自分の矮小さを痛感させられる。蛇に睨まれた蛙とでもいうのか、俺は絶対に敵わない相手である事を自覚した。いや自覚では無い、強制的に理解させられた。の方が正しいかもしれない。
「早速だが、貴方の部隊の片割れに今直ぐに襲撃をしない様に連絡して欲しい。けが人が出るだけでも後々面倒になる。」
「何の事だ?」
ゴクン。俺は唾を飲んだ。
「リリアーナさんと言ったかな?計画している事はわかっている。シャズナと言う名の男が今回の首謀者で、ああ、村一つ潰させた今回の計画の事だ。」
マズイ。こいつは本当にマズイ。『村一つ潰した』と言った時のこの男の威圧感はマズイ。隊の全てを投入しても勝てない。
「わかった。」
「あと、リリアーナさんをここに連れて来てくれないか?」
「俺を殺すだけでは足りないか?」
少し驚いたような顔を見せる男。
「勘違いしている様だが、計画を中止するという事は行動に移さない事だ。であるならば、それについて責任を問うつもりはない。単純に話がしたいだけだ。後、イインデンさん達も呼び戻してくれ。今すぐに。」
「わかった。直ぐに命令を出す。少し待ってくれ。」
「良いでしょう。ここで待たせてもらいます。ちなみに私に勝てると思っているのなら、いつでも攻撃してくれていいですよ。私が負ける事は絶対あり得ませんから。」
普通の男がこんな事を言ったら馬鹿にしてと怒るか、馬鹿を言っていると馬鹿にするだけだが、この男が言うとただただ、恐ろしいと思ってしまう。
「良いか、絶対に手を出すな。出せば殺されるだけだ。良いな?」
「「「「「はっ!」」」」」
俺の部下は馬鹿ではあるが、強さがわからないほど弱い奴は居ない。実力さを測れない奴は長生き出来ない。ここに居る奴はみな生え抜きだ。理解しただろう。
◇◇◇◆◇◇◇
「どういう事で・・・。」
怒鳴りこむ感じでやって来たリリアーナは目の前に居る男を見て直ぐに悟ったようだ。
「これ程とは・・・。」
続いて出たリリアーナの言葉だ。俺もそれに同意する。
「初めましてリリアーナさん。私はザバルティ・マカロッサです。よろしくお願いします。この隊の軍師をされているんですよね?」
「その通りです。」
こんなに敵対的な『よろしく』は初めて聞いた気がする。この圧を受けてリリアーナは片言な言葉しか発せないでいる。
「英断に感謝します。ところで、今回の作戦はシャズナが立案したという事で間違いないですよね?」
「はい。」
「わかりました。」
男はそう言うと立ち上がり、俺に向き直る。
「ところで、ビラッキオさん。貴方がたはこの後どうされますか?」
「どうとは?」
「反乱軍に加わりますか?それとも本国に戻られますか?」
「えっ?本国?」
リリアーナは驚いている。
「いえ。考えておりません。正直、このまま見逃して貰えるとは思っていませんから。」
正直に答えた俺を見て男は笑顔になる。
「本当に聞いた通りの男の方ですね。では、私から提案があります。」
「何でしょう?」
「私の仲間になりませんか?」
「「えっ?」」
男は、ザバルティ・マカロッサは予想を超える提案を俺にしてきた。




