176 泣いた僕が冒険者になる?
「落ち着いた?」
「はい。落ち着きました。」
ようやく落ち着いた様子を見せた僕にアリアさんは笑顔で聞いてくれた。
「じゃあ、先ずは冒険者登録をしに行こうか。」
「えっ?冒険者登録?」
アリアさんはゆっくりと頷く。
「そう、冒険者登録。登録しておけば身分証の代わりにもなるし、魔物の買取や依頼を受けてお金を稼ぐ事が出来る様になるわ。」
身分証の代わりになるのはありがたい事だ。それにお金を稼ぐ方法になるのも良い。
「さぁ、行きましょう。」
アリアさんに連れられてセンブリの街の冒険者ギルドに来た。
「お待たせしました。」
僕の順番になったようだ。
「冒険者登録をしたいんですが。」
「登録ですね。ではこちらの用紙に記入をお願いします。」
渡された用紙を見ても全くわからない文字で書かれていた。
「私が、代わりに書くわね。だから質問に答えてね?」
「はい。」
名前はレン。年齢は15歳。職業は学生なのだが、この世界に学生という冒険者職はもちろん無いので、剣士とした。他にもいくつか質問内容があって答えた。
「では、最後ね。好きな人は居るの?」
「はい。はいぃ?」
「ふふふ。引っ掛かったわね。」
最後の質問は揶揄いだったようで、素直に答えた僕が面白かったのか凄く笑っているアリアさん。
「ちょっとアリアさん?」
「ごめんごめん。質問内容はおしまいだから、この用紙を持って再度受付に行って。」
「勘弁して下さいよ~。」
まだ笑っているアリアさんから用紙を返してもらって受付に戻る。
「記入は・・・終わったようですね。ではこちらがギルドカードになります。レンさんは今日から冒険者ギルドが見つめる冒険者です。ランクはGからスタートになります。」
ここから冒険者に対する心構えや、ランクによる依頼制限など、レクチャーされた。軽く20分はかかっているのではないだろうか。
「以上、説明は終わりです。何か質問はありますか?」
「いえ。無いです。」
「では、何か質問などありましたらいつでも聞いてください。今後は私が基本的にレンさんの担当受付になりますので、よろしくお願いします。」
「えっと、名前を聞いても?」
「すいません。私ったら名乗っていませんでしたね。ごめんなさい。私はピーチって言います。改めましてよろしくお願いします。」
「すいません。レンです。よろしくお願いします。」
こうして説明とギルドについての話を終えたら、アリアさんが待っている場所へ戻った。
「お疲れ様。じゃあ薬を売りに行きましょう。」
「次は薬屋かぁ~。」
薬屋さんと言えば白いイメージだけど、この世界が中世みたいな感じでファンタジー世界みたいだから、奥から魔法使いのおばあちゃんが『ひっひっひ』って登場するイメージが先行する。
「そう薬屋さん。薬売らないとお金ないからね。全くない訳じゃないけど心もとないからね。」
結論から言うと薬屋さんは僕のイメージとは違って普通のお店屋さんだった
「アリア。いつもありがとう。」
「いえ。こちらこそいつも買って頂いてありがとうございます。」
という挨拶が繰り広げられた。一通りの挨拶が終わった後。
「で、こっちの子は初めてだね。どうしたんだい?」
「ああ、煉君はセンドネスの森で迷っていたみたいで、保護?した感じなの。」
「へぇー。珍しいね。でも助手が出来て良かったね。少しは楽になるんじゃない?」
「そうなの。煉君は頑張り屋さんだからとても助かってるの。」
僕を褒めても何も出ませんよ?やる気にはなるけどね。
「初めまして、煉と言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくね。」
薬屋のお姉さんはグラスランナーで名前をミスコンティというみたい。姉御肌?の小さい女性って感じ。ある意味で容姿を完全に裏切った年上の方です。
「そうそう。アリアはもう知ってる?」
「何をですか?」
「どうもね。魔王国で異変が起きたみたいで、王国内に都市国家っていうのかな?一つの街が独立したみたいなの。それも、先代魔王の息子がその都市国家の王になったらしいわ。」
「えっ?嘘でしょ?」
「いいえ。本当の事よ。しかもその王様はハーフらしくて魔族と人族のハーフなんですって。これからどうなるのかしらね?」
ミスコンティさんは困った顔をしているしアリアさんは少し動揺している感じだ。
「アイゼンが戻った?」
ぼそりとアリアさんの口から洩れた言葉は人の名前のようだった。
「アイゼン?って誰ですか?」
「うん?何でも無いわ。それより次は武器屋に行って買い物しましょう。ミスコンティさんありがとう。また来るわね。」
急に話題を逸らすかのようにミスコンティさんとの話を打ち切り、アリアさんは僕の腕を引っ張って店を出て行く。
「どんな武器が煉君に合うのかしら?」
とってつけたような会話を始めるアリアさん。
「煉君は何が良いの?」
でも追求するのを拒むような感じがする。
「僕は、やっぱり剣ですかね?」
なんて返してみたけど、僕の頭の中は『アイゼン』という名前らしき言葉が頭を支配していた。




