174 遂に街に行きます
今日もトントントントンという包丁で切る音を心地よく感じながら起きた僕は少し緊張感を持っている。
「なんか、ドキドキしてきました。」
「あら?街に行く事が不安なの?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・。」
「ふふふ。まぁ初めての事は不安になるものよねぇ。」
否定したけど、否定しきれない感じをだしているのか、アリアさんは聞き入れてくれてない様子だ。
「そうなのかな?」
「そうよ。そういうものよ。」
達観している感じで言われらけど、何かこう納得したくない感じがする。
「・・・。」
「ふふふ。そんなに考え込まないで、気楽にいきましょう。ただ街に行って買い物するだけだから。」
僕にはその様に大きく包み込むような感じは出せない。これが大人なのかな?それにアリアさんに言われたら素直になる僕が居る。
「ところで、今日は街に行って武器とか買うんですよね?」
「そうよ。後はここでは手に入らない物とかをね。」
アリアさんの今回の目的は買い物だ。その為に売る物を準備してある。
自然の森から採取した薬草から作った回復薬に滋養強壮薬、状態異常を治す解毒剤等をかなりの数を用意している。
「ちゃんと売れますかねぇ?」
「このアリア様が調合した薬が売れないとでも?」
「いや。そういう訳じゃないですけど・・・。」
「冗談よ。いつもはちゃんと売れているわよ。」
少し怒り口調で言われたので慌てたが、どうやら揶揄いが入っていたようで安心した。
「すいません。そうですよね。」
「煉君が心配するのもわかるわ。でもこの薬達はこの世界では貴重な物なのよ。だから買い手は沢山居るの。だから、ちゃんと売れるのよ。」
薬剤師さんは儲かるみたいな事をそういえば聞いた事があるな。
「その内、煉君にも教えてあげるわね。アリア様直伝の調合を。」
「はい!お願いします!!」
「うん。素直でよろしい!」
そんな事を言いながら笑い合った。
「じゃあ、早くご飯にして街に行きましょう。」
「「おぉー!」」
息ピッタリ。僕は街に行くという事をデートとして捉えていた。
◇◇◇◆◇◇◇
道中は色々な事を想像したり、その想像を話をして揶揄われたりしながら進んだ。
「だからそうじゃなくて、アリアさんと一緒に街に行ける事が嬉しいんですよ。」
「ふふふ。また~。煉君は口が上手いんだから~。」
「そんな事ないです。本音ですよ。」
「はいはい。あんまり年上を揶揄わないでね?」
アリアさんに質問系で可愛らしく言われてしまうと、何も言い返せない僕は・・・。
「はい。」
と言って黙るか他の話題に逸らすしか出来なかった。
「それにしても天気が良いですね?暑いくらいですね。」
「ふふふ。そうね。とてもいい天気ね。」
アリアさんの笑顔は眩しすぎるぅ~。一日中でも見続けれる自信がある。ご飯も食べれるんじゃないだろうか?
「そんなに見つめないで、ね?」
「すいません。」
バッと見つめていた目線を逸らして森を見る。
こんな事を繰り返していた。そんな時に急にアリアさんが凛々しい顔になった。
「煉君、悪いけど少し離れるわね。」
荷車を完全に僕に任せる形にしてアリアさんは持っている剣を鞘から抜いた。
「わかりました。でも、どうしたんですか?」
「うん。魔物がいる様子なの。」
「えぇ?」
「安心してそんなに強い者では無いと思うから。」
所謂、センサー的な物かな?察知したという事?
「魔法で索敵してたら、少し先の方で反応があったのよ。」
≪索敵魔法≫が出ました。少しの恐怖と好奇心が僕の心を支配した。
「僕も行きます。」
「でも、武器が無いじゃない。だから今回はお姉さんに任せて?」
「あっ、はい。わかりました。」
「うん。素直でよろしい。少しここで待っててね。」
そう言い残してアリアさんは直ぐに前方の方へと向かって行った。
それから少し時間が経ったが、まだ戻って来ない。
本当にアリアさんは大丈夫だろうか?
徐々に不安と心配が膨れ上がってくる。
もし敵に捕まっていたら?もし、敵に殺されていたら?
大切なアリアさんを失ってしまう。
そう思ってたら、身体が勝手に動いた。
一歩前に出た所で声がかかる。
「そんなに怖い顔をして何処に行くの?」
「アリアさん!?」
アリアさんが戻って来ていた。
「心配になって迎えに行こうと思いました。」
素直に打ち明けるとアリアさんは微笑んだ。
「大丈夫って言ったでしょ?私、強いんだから。」
「そうだとは思うんですけど、失いたくなくて。」
あら?という顔になったアリアさんは僕に顔を向ける。
「心配してくれてありがとう。嬉しいわ。」
優しく僕の顔を撫でるアリアさんは笑顔で僕を見つめる。
「でも大丈夫よ。今は。」
「はい。」
僕はただ、アリアさんの笑顔を見つめ続けてしまう。
「だ・か・ら、そんなに見つめないでね?」
とても綺麗だ。ただ美しいとは違う。綺麗なんだ。この綺麗なアリアさんを守る為なら何でも出来る気がする。
「ほら、私の話を聞いてる?聞こえてる?」
僕はただただ、アリアさんを見つめていたのだった。




