173 ワクワクするんですけど
「そろそろ、貯まったし街に行きましょう。」
「センブリの街に行くという事ですか?」
「そうよ。台車に全てを乗せて行きましょう。」
遂に初めてのお使いならぬ初めての街へ突入となる。ここが異世界であると思う事から、どんな事が起こるのか?という事に不安があるが、それ以上に、どんな人が居るのか?という期待の方が今は大きい。
これも、アリアさんに出会っていなければ、考える事も無かった事だと思う。心のゆとりが少しは出来た証拠だろう。
「なに?どうしたの?何だか嬉しそうね?」
「そ、そうですか?」
「だって、ニヤついてるじゃない?」
どうも、期待が顔に出ているらしい。情けない事だが、こればかりは隠せないそうにないぐらいに自信が無い。どうしても期待してしまうのだから。
「すいません。新しい出会いがあるかも?と思うとつい。」
「何それ?錬君は私以外に興味があるの?」
「そ、そういう意味ではないですよ~。」
「ふふふ。冗談よ。」
「揶揄わないでくさいよ~。」
いつまで経ってもアリアさんには敵わないと思わされる。だってアリアさんは、この世の物とは思えないくらい綺麗な人だ。もちろん顔が綺麗だという事は間違いないが心が綺麗な人なのだ。この数日一緒にいてそう思わされた。
「じゃあ、今日は準備して明日早朝から行くよ。ちょっと時間が掛かっちゃうからね。」
「どれくらいで着くんですか?」
「おおよそ、5時間ちょっとかな?」
「マジですか?」
「でも、それほど遠い訳じゃないわよ?」
「5時間もかかるのに?」
「そうね。街から街へ行こうとすると道が確りあっても歩けば5日以上かかるのが普通だったりするわよ?」
「はぁ~。そういうもんですか?」
「そんなものよ。ふふふ。」
常に笑って受け答えをしてくれる優しいお姉さん。それが、アリアさんが僕に対して見せてくれている表情だ。ただ、僕の感覚は現代日本の物だからどうしてもずれてしまう。5時間と言えば東京から福岡の間の新幹線でかかる時間だ。飛行機であれば海外に行けてしまう。飛行機に乗った事は無いけけどね。
「あのね。センブリの街には色々な種族の人が居るから貴方にとってはビックリする事が多いかもしれないわね。」
「そうなんですか?それは楽しみです。」
人に出会えるだけでは無く、他の種族の人にも会えるのは大変嬉しい。
「さぁ、明日の為にも今日は早く夕食を済ませて早く寝ましょう。」
「は~い。」
「ふふふ。さっ急ぎましょう。」
アリアさんに急かされるように家に戻って、急いで夕食の準備をする。と言っても僕は手伝いでしか出来ないので、火をつけたり火の番をするだけだ。中学校の校外研修のキャンプファイヤーしか火を扱った事がないので、大変だ。初めの内はよく間違えて消してしまっていた。火を維持できるようになったのもここ数日の事だ。
「お金が少し出来たら、煉君の装備を整えましょうか?」
「ええ?どういう事ですか?」
「いくら何でも貴方の今の恰好じゃ、旅にも耐えられそうにないし。ましてやこれから魔物何かと遭遇して戦う事にでもなったら、簡単に殺されてしまうわ。ここはとても恐ろしい魔物は出ないけど、ずっとここに居るわけでもないしね。」
「そ、そうですよね?いつまでも一緒って訳にはいきませんもんね?」
そうだよ。今はアリアさんに甘えて一緒に居て貰っているだけで、アリアさんだっていつまでも一緒だと迷惑だよな。
「ふふふ。何落ち込んでいるの?」
「いえ。アリアさんにご迷惑ばかりかけてしまっているな。って思って。」
「馬鹿ね。迷惑だと思っていたら一緒に住んでいないわよ?」
「ほ、本当ですか?」
「本当よ。それにね。私も一緒に居たいと思うから、煉君に強くなってもらいたいの。」
少し顔を紅くして言ってくれたアリアさんに僕の目は釘付けだ。
「僕、勘違いしてしまいますよ?!」
「ふふふ。ダメよ。私は強い人じゃなきゃ満足できないの。頑張って強くなってね?」
「はい!」
何故か敬礼している僕を見てアリアさんは満面の笑みをしていた。
「もう、何その恰好?今の流行りなの?」
「いえ。あの。その。」
可愛らしくツッコミをくれるアリアさんにタジタジの僕。すげぇ可愛いよアリアさん!
「さぁ、無駄口はこれ位にして食事の用意をさっさと終えてしまいましょう。お腹が空いたわ。」
「そうですね。」
そう言う僕のお腹がぐぅ~と鳴る。凄くタイミングが良く。凄く恥ずかしい。
「ふふふ。もう煉君たら。若い証拠ねぇ。」
「すっごく恥ずかしいです。ははは。」
こうして、夕食の準備を急いで終えて、二人で食事をとって急いで寝る事になった。
「煉君の装備を整えたら、今度は戦闘訓練ね。使ってみたい武器とかある?」
「いえ無いです。」
「そっかぁ。とりあえず使いやすい武器を武器屋に行って見繕いましょう。」
「はい。」
「うん。私が確りと教え込むから安心してね。秋にはここを出るつもりだから、頑張ろうね。」
「よろしくお願いします。」
こうして僕達は街でやる事を考えながら眠りについた。




