17 誓約精霊
「ここはロクサスの支部であってますか?」
「ええ。そうです。」
「では、ニートという冒険者が所属している事も間違いありませんか?」
「そうですね。当クラウンに所属する冒険者です。」
「間違いないですね?」
「間違いありません。」
ロクサス支部の受付ににて男が支部職員らしい女性と話をしている。しつこいなと思える質問に受付の女性が眉を寄せる。すると男は豹変する。
「じゃあ、支部長を呼んでくれ。今すぐだ!」
「何の要件ですか?」
「お前んとこの、ニートって野郎が俺の女に手を挙げている事がわかったんだよ!」
「はぁ?その女性というのは?」
「エリザだよ。いいから早く呼べよ!」
叫ぶような大声をあげる男。周りに居るクラウン所属の人間も集まってくる。
「どうした?」
「この男がエリザの旦那で、損害を訴えに来ているんです。」
「あんたが支部長か?」
「そうだ。私が支部長のビンセント・ルバイストだ。変な言いがかりはよしてもらおうか?我がクラウンではそのような事は無い。しかもエリザとか言ったか?役立たずのエリザに旦那が居るだと?初耳だ。だいたい・・」
「じゃかあしい!俺の物に手を出した男もそうだが、このクラウンの所属の野郎がした落とし前をどうつけるつもりだ。」
「おいおい、オッサン。それくらいにしとけや。俺ら全員を相手にするつもりかよ?」
「はぁ?手前らのような雑魚にはようがねえよ!」
一瞬にして、男の周りに炎が上がると壁を作るように支部長と男以外の間に出現した。
「てめえらにこの火をどうにか出来るのか?」
「無詠唱だと?契約者か?いや、加護持ちか?」
「だとして、どうする?」
この世界の精霊の加護持ちはそんなにいるわけではない。加護持ちも階位があるが、男は上位種の中でも最上位に当たるフェニックスの加護持ちであり、契約精霊も上位種に当たるペレと契約している為、ただの加護持ちではなく、かなり特殊な存在である。その男がペレに頼む事で火を操るのだ。詠唱が必要ではない。ただ、命じるだけなのだ。魔力の高まりも必要がなく。ただ命じるだけなのだから、相手は察知して動く事はできない。上位種であるペレの力は尋常ではなく対峙するにはただのBやCクラスの冒険者が何人いようと対処しかねるのだ。S級冒険者が必要な状態であると言える。
「わ、わかった。先ほどの無礼な物言いを謝罪する。私の執務室にて、是非とも話を聞かせてくれ。皆もわかったな。大切なお客様だ。失礼のないように。そしてニートを呼んでこい!」
支部長に言われ何人かの冒険者が、外に出て行く。
支部長としては、これだけの力を見せつけられ、大勢の目に触れる前に対処したいとの考えがある。体面を守る必要があるのだ。なら、男を粛正すれば良いのだが、戦力的に見て判断をした。正しい判断が出来るあたり伊達に支部長を任されていないようだ。
「では、客人こちらに。その前にこの火の壁を無くしてはくれまいか?」
「良かろう。エリザこっちへ来い。では案内を頼む。」
「は、はい!!」
そういうと炎は何事も無かったように消えた。この消えるという現象がこの男の精霊の契約者としての強さを強調させる。それを知る支部長は更に険しい顔を見せる。エリザも建物の入り口の方から走って寄ってくる。ビンセントは支部長室に案内した後、近くに居る職員に飲み物の用意をするように伝え、男にソファアに座るよう勧め自分も座る。
「で、改めて話を聞く前に、貴殿の名前を教えてもらえないだろうか?」
「俺の名前なんぞ聞いてどうする?兎に角こちらの要求は謝罪と対応だ。俺のエリザに手を挙げた罪の償いをどうするのか?だけだ。」
その話を隣で黙って聞いているエリザは顔を赤く染めながら下を向く。
困った。と内心思うビンセントであるが、平静を装い答える。
「謝罪とは何をすれば良い?」
「それはそちらが考える事だが、まぁ良いだろう。金貨1000枚だ。」
「いや、それは流石に無理だ。それに事実確認をしたい。トニーを呼びに行かせているから、少し待って欲しい。」
「俺を信じられないと?精霊の加護持ちを?」
「いや、そういう事ではない。当事者から話を聞かねば、対応に困ると思っているだけだ。」
「では、昨日ギルドでそういう事案が起こっているから、聞きに行かせろ。」
「わかった。直ぐに向かわせる。」
ビンセントはすぐさま席を立ち退室する。
「では、ペレ頼む。」
≪任せなさい。≫
そういうと精霊ペレは火を出すと。その火は一直線に机の後ろにある本棚の右端の一点の前に止まる。
≪ここにあるわ。≫
そうして、火に炙り出されたようにスルスルと一枚の紙が出てきた。そしてその紙はエリザの前に飛んでくる。
「これです。私の契約書です。」
≪間違いないわね?では強制解約をする。≫
≪我は、精霊フェニックスが眷属火山のペレ。古の盟約によりわが名において、この契約の白紙撤回と無力化を命ずる。我の命に従い、無効とせよ。≫
すると、紙は黒い炎を纏い出す。黒い炎の中から白い人型が現れる。
≪我はこの契約を見守りし誓約の精霊ホウズ。火山のペレ様の命に従い無効と致します。≫
紙を黒い炎が燃やし尽くす。チリ一つ残さずに消えた。
≪火山のペレ様。お久しぶりでございます。≫
≪精霊ホウズ。この契約はお主の管理であったか?手を煩わせてすまぬ。≫
≪いえ。ペレ様の申し出であれば、いつでも喜んで対応させて頂きます。≫
≪どうじゃ、人間にエリザよ。我の凄さがわかったか?≫
「ペレ様、凄いです!!」
「よっ帝王様!!」
≪わかれば良いのじゃ。≫
「これで、契約は白紙だし、弱みは無くなった。もっと強気で交渉するぞ!」
超絶美女の精霊はドヤ顔し、綺麗なハーフエルフは安堵し、男は悪い笑顔を見せたのであった。
そして、男はあれやこれやと精霊ホウズに聞くのであった。悪い顔をして・・・。




