166 死んだ後に。 その5
アタシの初任務は、例の貴族様に対する言質とりという簡単な任務だった。
アタシが顔を出して相手がボロを出すように誘導して後はザバルティ様達に任せるだけだった。
「お疲れ様。後はもう私達がする事は無いから、一端屋敷に戻って皆に君を紹介させてくれ。屋敷に君の部屋を用意しておく。後は随時ゲートを利用してジェスター王国に入ってくれれば良い。あと、どこかに城下街の一角にゲート設置場所を設けよう。だから、明日にでも私と一緒に不動産関係に見に行こう。」
「はい。」
『私と一緒に見に行こう。』この言葉がアタシの頭から離れなかったのはもうわかるだろ?こんな状態で寝れると思うか?眼の下にクマは出来るわ。肌は荒れるわ。散々だ。・・・もしかしてこれはザバルティ様からの『可愛がり』かって一瞬思ったよ。そんなわけないのに。だってさ、寝れないのはアタシの勝手な想いの所為だからな。わかっちゃいるんだよ?わかっちゃいるんだけどよ?理性と感情は違うだろ?
◇◇◇◆◇◇◇
「おはよう。昨日はゆっくり休めたか?」
「はい。」
休めるわきぇねぇ。って突っ込んだ。心で・・・。
その後は、二人っきりで・・・という事は無く、お付きの人が勿論の様に一緒だった。
「はぁ~。」
アタシは気づいたら溜息をもらしていた。まぁ、そうだよね。二人きりになれる訳ないよね。
「どうした?溜息なんてついて?」
ザバルティ様は溜息をついた事には気がつかれたようだ。
「いえ。良い物件ってなかなか無いですね?」
咄嗟に答えた言葉はそんな内容。
「そうかもしれないが、まだ3件めだぞ?疲れてるのか?」
これ以上言葉を出すと墓穴を掘りそうだったので、沈黙で答えた。
「いえ。疲れては・・・。」
「ザバルティ様大丈夫ですよ。ステファネスは期待しすぎていたのでしょう。」
「そうなのか?」
たぶん嫌味だ。シェリルが言う意味と、ザバルティ様が思っている意味は違う物だとアタシは理解した。
「そうかもしれないですね。あははは。」
ここは無難に笑って誤魔化す事にした。
「そうであるなら良い。辛ければ直ぐに言えよ?」
「そうさせてもらいますよ。お気遣いありがとうございます。」
そんなこんなしていたら、本日5件目の物件になっていた。
そんな折にシェリルが近寄ってきた。
「あんたね。あまりザバルティ様に気を遣わせるんじゃないよ。」
「ああ。わかってるよ。仕方がないだろ?体調が悪いんだ。」
「ふん。本当に体調が悪いのかね?信じられないね。」
そうだとも、体調が悪い訳じゃない。ただ残念に思っているだけだよ。
シェリルの指摘は正しい。
「では、ここらへんでランチにしよう。」
5件目が見終わったところでザバルティ様がおっしゃった。
「どこか気に入った所はあったかな?」
「いえ。アタシは何処でもかまいません。」
答えた瞬間にシェリルがアタシの頭をどついてきた。
「ザバルティ様。お気になさらずに、ザバルティ様がお決めになられれば大丈夫です。」
どついた後にそう答えていた。アタシの言った言葉と大差ない意味だと思うのだけど。
その後ランチを食べた後にも数件回った後にザバルティ様がお決めになった物件があり契約された。
契約者の名はシェリルだった。アタシの名前を使わなかったのはアタシが活動する場所だからだ。
因みに、この世界の契約は精霊の力を利用している。契約に関する精霊が居るからだ。その為に偽名などは通用しない。その名の示す者でないと契約できないのだ。
「あとは怪しまれない様に家具を少し揃えよう。悪いがお金を渡すから、任せて良いかな?私は城に行きセイレス女王との打ち合わせがある。」
ザバルティ様はお金を渡して城へ向かわれた。残されたのはシェリルとアタシの二人だけ。
「二人っきりになっちまった。」
二人っきりという言葉は同じだが、誰とという点で大きくかけ離れた結果だ。
「何?不満なの?」
「そりゃ満足っていう事にはならないだろ?」
「あ~。はいはい。」
直ぐにアタシの心境を理解したようで、それ以上の追求は無かった。
それにしても、何の特別な出来事?イベントは起こらなかった。
ただ、ザバルティ様に従って不動産物件を見て回っただけだった。
「何やってんだ?アタシは。」
思った事がつい口から出ていたようで、シェリルは苦笑いをしているようだ。
「貴女も私もまだまだこれからよ。頑張りましょう。」
同情なのか何なのかわからないがアタシを慰めようとしたようだ。
「うるせぇな。」
「うるさいとはどういう事よ?」
「そのまんまの意味だよ。」
「はぁ?メンドクサイ女。」
アタシもそう思う。同意する。しかし、その時のアタシはムシャクシャしていたから喧嘩を売ってしまった。
「メンドクサイだと?」
「八つ当たりしないでくれる?私も暇じゃないのよ?」
「暇だろうが?」
「知らない。じゃあ自分で家具とか揃えなさいよ。貴女の拠点なんだから。」
そう言い残してシェリルはフッと居なくなった。
居なくなって我に返った。やっちまった。アタシにセンスが無い事を忘れていたのだ。




