163 死んだ後に。 その2
『君には、役目の為にも強くなって貰いたいと思う。先ずは訓練をしてもらうよ。』
その言葉を貰った次の日から訓練が開始した。
「なんだ。アンタが訓練をつけてくれるのではないのか?」
「すまないね。私も忙しい身でね。君の訓練をしてくれるのは彼女だよ。」
連れて来たのは金髪の綺麗なハイエルフの女でシェリルと名乗った。
「はん。強いのかい?エルフが強いとは思えないがね?」
「ふふふ。私は強いかって言えば、貴女よりはってところね。これでもS級冒険者をやってるわ。後訂正が一つね。私はハーフエルフよ。エルフでは無いわ。」
「はん?ハーフだろうがそうじゃ無かろうがエルフだろ?アタシが見てきたエルフはヒョロイのばかりだったけどね?」
「では、闘ってみる?」
やる気になったシェリルから威圧が放たれたようで、アタシは冷や汗が背筋に流れる。こいつはやべぇ。そしてシェリルはフッと笑った後に気配が無くなった。次の瞬間、アタシの体は宙を舞っていた。
正直どうしてこうなっているのか分からなかった。が、その後地面に叩きつけられる事は無かった。
「シェリル。まだ、彼女は本調子では無い。今日は体を痛めつけるのは止めてあげてくれ。」
そう、アタシはザバルティの腕の中に居た。いわゆるお姫様抱っこの形で抱きかかえられているのだ。
「申し訳ありません。つい。」
悔しそうな目で私を一瞬見るシェリルに彼は気づいていないようだが、アタシは直観が働いた。
「うん。わかっている。ステファネスもシェリルは教官なんだから、喰ってかかっちゃだめだよ?」
「うん。」
はぁ?アタシが『うん。」だと?アタシの顔が真っ赤になっている事に気づかないほど、アタシはアタシの言葉にビックリしていた。ビックリしている間にフワリという感じで立たされた。
「じゃ、私はこれから屋敷へ戻るから、シェリル頼んだね。ステファネスも今日はゆっくり休んで明日から自分のペースで頑張ってね。」
「かしこまりました。」
シェリルは直ぐに返事を返したが、当のアタシは言葉に出来ず、ただウンウンと頷いていただけだった。そして彼は宣言通り部屋を出て行くと残されたアタシたち。
「ふ~ん。貴女、ザバルティ様に好意を持っているのね?」
「はっ?彼はただの雇い主だ!」
「へぇ~。た・だ・の・雇い主ねぇ?その割には『彼』とか言ってるし、『うん』とかいってたわよね?」
「それは、あの、その・・・。がぁ~!!」
言葉を返す事が出来なかった。このアタシが。
「あはははは。まぁしょうがないわよねぇ~。あれだけ強くて顔も良いし性格も凄く良い。それなのに気取る事も無く自然に優雅な振る舞いが出来る男の人なんて、そうは居ないからね。」
「うるさい!」
「はいはい。まぁ私も好意を持っているから、手に取るようにわかるだけだけどね。」
「えぇ?」
「だけど、彼の周りには綺麗で凄い女が沢山居るのよねぇ~。」
溜息交じりに話すシェリル。
「でも私は諦めないけどね。それより、貴女はさっきお姫様抱っこされてたわね?ズルくない?その為に私を煽ったの?」
「はぁ?そんなわけがないだろ?アタシがやられたいなんて思う訳ない!!」
「あれ?もしかして『恋』を知らなかったりして?その歳で?」
「はぁ?アタシだって『恋』の一つや二つ・・・。」
アタシは言い返しながら、彼の動き一つ一つを思い出し赤面する。
「あはははは。これは凄いわね。顔真っ赤じゃない。」
爆笑しだすシェリル。悔しいが対抗手段がない。ひとしきり笑ったシェリル。
「わかったわ。まぁ同士みたいなもんかな?頑張って強くなって少しでもこっちに向いてもらいましょ?ライバルは多いけど彼なら10人位は妻に娶るでしょ。今は貴女とは共闘してあげる。」
「アタシはアンタとは違う。純粋に強くなって彼の為に働く!」
「あ~はいはい。そうね。じゃ、この空間の事とか教えるわね。」
完全にスルーして説明を初めやがった。いつかこのハーフメス(シェリル)をギャフンと言わせてやると心に誓った。
◇◇◇◆◇◇◇
あれから毎日この白い空間で訓練している。
今は素早く動く事を中心に鍛えていて、部屋の壁という壁から武器が飛び出して飛んでくるのを避けたり、撃ち落とす事をひたすらやっている。
日々、徐々に飛び出す武器のスピードが速くなってきているので目で追うのが大変だ。
シェリル曰く、目で追う事の次には感覚で追う事が必要とかで、ひたすら神経を集中して躱す・叩き落すを繰り返す。
そんな時だった。ふと教官であるシェリルが席を離れて扉の方へ動く気配を感じた。目で確認するとそのシェリルの隣には彼が居た。
「はぁっ!」
今右から飛んできた槍を気合を入れて叩き落した。
気になる。アイツが彼と何を話すのかきになってしまう。目は彼から離さず、飛んでくる武器を避けなければいけない。するとどうだろうか。武器の気配が分かるようになってきた。それから数十分だろうか、彼はこちらに顔を向けながらシェリルと話していた。そして漸く今回の訓練の終わりが来た時に彼はアタシに近づいてきた。
「凄い上達したな。お疲れ様。」
アタシの肩をポンポンと叩いたあと。
「良く、頑張ってるんだってな。凄いじゃないか。」
と言いながら私の頭を撫でてきた。
「ああ。頑張るさ。」
馬鹿にするな!って言葉が出るかと思ったら、その腕を払う事も出来ずただ、なすがまま。・・・あれ?嬉しい??
はぁ?何で?自分より年下の男に頭を撫でられた嬉しくなってんだアタシ?アタシは遂に頭がおかしくなったのだろうか?
「それが『恋』なんだよ。」
ボソリとシェリルが傍に寄ってきて呟いた言葉はアタシの胸の奥に響いた。




