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162 死んだ後に。 その1



アタシは死んで初めてこの世に生まれてきて良かったと思った。糞みたいな人生だった。普通はそこで死んで地獄なり天国なりに行くもんだと思っていた。アタシはもちろん地獄に行くと思っていたんだが・・・。


神は私には役割を与えられた。

このくそったれな世界に小さな変革を与えるかもしれない役目を私に与えてくれた。



◇◇◇◆◇◇◇



「君には、ジェスター王国の監視者になって貰いたいんだ。エリザネス王女の目となり、この国の為に正義の心で見張って欲しいんだ。」


「なんで、アタシがそんな事をするんだい?」


「君は、この国の矜持をよく理解しているハズだ。」


「『力がある者が正義』」


「そう。それだ。それはとても美徳だけど、全てでは無い。解釈が違えば『悪』に染まる事すら簡単だ。」


「そうだろうねぇ。」


「だから、救済する者が必要なんだよ。決して悪が蔓延る為の言葉では無いからね。そこら辺を勘違いする輩を罰したい。けど・・・。」


「表が動けば、裏は隠れる。光があれば闇がある。そういう事かい?」


「やはり、君は頭が良い。」


「よせやい。こんなロクデナシを褒めても何もないぜ?」


「謙遜しなくて良いよ。私はおだてるのは好きじゃないから、素直に言ってるだけさ。」


「恥ずかしいから、止めてくれ。これまで褒められた事があるのはこの『身体』だけなんだから。」


「確かに、美しいラインをしている。綺麗だな。」


こいつは何て、いやらしさの無い言い方をするんだろうか?アタシが会ってきた男どもは皆ただ自身の欲望の為に汚い言い方しかできない奴らばっかりだった。それがイヤで、強くなり力を蓄えた。


なのに、こいつにはいやらしさがない。ただ、賞賛している評価の言葉だ。あぁ、だからこいつの目は綺麗なんだな。スカイブルーの瞳はまるで晴天。あの美しい青空の色だ。


「そんなに私の顔はおかしいかな?」


「いや。今まで会ってきた男の中で一番綺麗で、整った顔だよ。」


いけない。見過ぎた。キャラを壊さない様に茶化す言葉を選んだが、どれも正直な事だ。情けない。女の身一つで盗賊の頭になったアタシが、ただの女になるところだった。


「そうか?ありがとう。」


素直に受け取りやがった。しかも調子に乗ってる風でもねぇ。こんな男は初めてだ。例え貴族のお偉いさんであっても、男は皆、下心満載で欲望の塊なのに。


「で、受けてくれるのだろうか?」


「アタシは変わる事が出来るのだろうか?ワタシはあくどい事ばかりしてきた。恨んでいる者も多いだろうし、殺しも一杯やった。そんなアタシが・・・。」


「そうだな。絶対変われるとは言えないな。だが、変わる努力は全力で出来るんじゃないか?一度死んでいるんだから。」


そうだ。アタシは死んでいるんだ。あのエリザネス第一王女に首を見事に斬られて。


「それに、死んだからこそ変わる事が出来るよ。死よりツライ経験なんて無いだろう?」


「確かにそうだな。死よりツライ経験なんて無いな。」


「そう。0になったんだ。だからまた、積み上げればいい。その一回終わった人生経験を活かしてね。」


たぶん、死よりツライ経験はあるのかもしれない。だが、アタシは死んで分かった事がある。

『死んだら、アタシの大切な者達を今後一切守れない。愛した者達に触る事すらできない。何もおこなう事が出来なくなる。』って事だ。頑張れば何とかなるわけじゃない。つまり別の世界に隔離されるのと同じだ。触れる事も出来ないのだ。それよりツライ経験はなかなか無いと言い切れる。


「わかったよ。本当にアタシが変われるのかわからないが、全力で変わる様に努力するよ。」


「ああ。」


「もし、また悪の道に行きそうになったら、助けてくれるんだろう?」


調子に乗って聞いてみた。関りが無くなるのがイヤだと思ったから。


「勿論だ。君は私にとって無関係の人では無い。私の依頼を受けてくれたのだからもう仲間だと思っているよ。」


他の奴に言われたら、嘘くせぇ!偽善者が!って思っている所だが、不思議とそんな気持ちにならなかった。その言葉を素直に信じられた。裏が無いと思えた。その笑顔にやられたのだろうか?胸の奥がキューッと締め付けられる感じがしただけだ。信じられる、イヤ信じよう。アタシは自分の顔が赤くなるのを感じた。その顔を見られるのが恥ずかしくてソッポを向いて腕を上げた。


「わかったよ。頑張るよ。」


「そうか。自分のペースで頑張ってくれれば良いから。」


「ああ、そうする。でアタシは何をすれば良いんだ?服でも脱ぐか?」


照れ隠しで冗談を飛ばす。


「嬉しいけど、それは好きな男の為に取っておいてあげてくれ。君は生まれ変わったのだから。」


「えっ?」


まさかの回答に驚いて頭が停止する。


「君の体は全て傷と言う傷は首の物以外は治っているはずだよ。」


自分の体を改めて障って確認する。確かに全て綺麗になっている。


「だから、その綺麗な体を大切にして欲しい。」


「でも?何で?」


「それは追々説明するよ。先ずは、能力アップをして欲しいから訓練だね。」


「本当に全て生まれたままの綺麗な状態なのか?」


「あははは、聞いてないね。そうだよ。全て治したよ。」


「信じられねぇ。けど本当なんだな。綺麗さっぱり何処にも傷は無い。もしかしてアンタは・・・。」


アタシの前に現れた男はただの回復魔法が使えるだけの男じゃない様だ。この男、ザバルティ・マカロッサはもしかして『神』なのか?


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