16 驚き
男はギルドを出た後パンフレットを見てギルドおススメの宿屋「トバリ」へやってきた。外観は高級宿といった感じで、宿というより洋館・ホテルのような感じだ。前面ガラス張りになっており、一階の中のカウンターまで見える。カウンターに並ぶ人も貴族や商人といった格好をしている者ばかりである。
≪凄い所ね。愚かな人族とはいえ、こういう文明には惹かれる物があるわ。≫
「確かに凄いな。こりゃあ高いだろうな。他を当たろう。」
「でしたら、私が紹介しますわ。」
後ろから声がしたので、ビックリして振り返る男。精霊と話をした事が聞こえたのかと不審がる。
「急になんだ?」
「すいません。ビックリさせるつもりは無かったのですが、話が聞こえたので、つい声をかけてしまいました。私はエリザといいます。お分かりでしょうが、ハーフエルフです。」
男の前に現れたのは、先ほどギルドにいたローブの者だった。
「先ほどはありがとうございました。」
「俺は何もしてないぞ?」
「そんになに警戒されなくても大丈夫です。見えていますから。私もこう見えても精霊の契約者なのです。」
エリザと名乗るハーフエルフは精霊ペレが見えているようだ。隣にいるペレに感謝を述べている。
≪感謝を受け取るわ。私は火の精霊フェニックス様の眷属で火山のペレよ。≫
「ありがとうございます。それにしても美しいですね。ビックリ致しました。」
≪そう?嬉しい事を言ってくれるじゃない。ありがとう。≫
男をほって二人?は話し込む。エルフの一族はやはり精霊に敏感な様子だ。ペレも同性?から褒められると素直に嬉しいようだ。
≪この子気に入ったわ。ぜひ、宿をこの男に紹介して頂戴。≫
「勿論です。では行きましょう。」
やはりここでも男の意見は聞かないようだ。
◇◇◇◆◇◇◇
紹介された宿に入り部屋をとった後、エリゼと男とペレは一緒に食事を囲む事となった。
ギルド内で揉めていた相手との関係からこれまでの経緯等を男はエリザと共に聞いた。
「エリザ、それでそのロクサスというクラウンは大きいのか?」
「はい。この街にあるクラウンの中でも大きいクラウンです。隣の国ボンドー国のデンジャに拠点があって、ここにあるのは支部だそうです。」
クラウンとは個人の冒険者が組織する冒険者集団であり、基本的に冒険者ギルドが承認をしたA級冒険者が作る事のできるグループである。また、クラウンは大きくなると支部を構えたりして大きくしていく。また、ロクサスというクラウンは現在1000人規模のクラウンであり、この街に来ているメンバーはおよそ300人にはいるとの事。この支部を任されているのはワンデクスという人間でB級の冒険者らしい。片眼の男はニートという男でC級冒険者でエリザの指導係らしい。ニートは初めは綺麗な顔をしたエリザを自分の女にしようとしていたようだが、エリザが拒み続けていた為に、手のひらを返したようで、エリザを中傷するようになり、挙句には手を挙げる始末であるようだ。
≪理不尽な人間であるのだな。こうまで愚かなのか人間とは?≫
「おいおい。全ての人間がそうではないぞ?確かに愚かな奴は多いような気がしてはいるが。」
精霊ペレは益々人間に対する侮蔑の念を増している。
「それにしても、このままという事はないだろうな。」
「私はどうしたら、良いんでしょうか?」
困り果てた顔をするエリザ。ペレは言い放つ。
≪そんな顔しない。そんなクラウンなんて抜けてしまえば良いのよ。≫
「でも、私のような役立たずは誰も仲間にしてくれませんし、何しろ、奴隷落ちさせられてしまうでしょうし。」
エリザは稼ぐ事がままならず、クラウンに金を借りている状態なのだ。ある意味離れたくても離れられない状態にされてしまっている。クラウンは毎月一定の金額を納める必要がある。クラウンに所属するとそのクラウンの保護下に入る事が出来る。クラウン毎に所属特典が違うが宿泊施設の無料開放であったり、武具の贈与貸し出し等様々だ。嫌がらせを受けているエルザは宿泊施設は無料であるが、ここ数ヵ月はソロでの活動になっているようだ。そこそこにニートは権力があるようだ。
≪そんな物ぶっ潰せば良いのよ。≫
「そんなに簡単にいかねぇよ。」
≪なんでよ?そんな輩は排除で良いと思うがの?≫
「それは最後の手段で良い。先ずは穏便に済ます。そんな事で目立ってどうする。最悪はお尋ね者だ。」
≪ではどうすのじゃ?見捨てるという選択肢はないぞ?≫
「そんな事はわかってるよ。エリザを俺の女にする。」
≪はぁ?いい加減にせよ!≫
「えぇ~。そんなまだあって間もないのに。」
「まぁ、最後まで聞けよ。」
激怒する女精と変な動揺を見せる女性を前に男は詳しい説明をするのだった。




