15 模索
あれから男は焼けた街を出て旅に出た。行く当ては無い。
どこに行けば会えるかもわからないのだから・・・。
火の精霊フェニックスの気まぐれによる魂の転生を受けた息子シャルマンを探す旅であるが、手がかりとなる物は何一つない。連れだって動くのは火の精霊フェニックスの眷属火山のペレのみである。
この世界のどこかに転生したという精霊から与えられた情報のみ。
「先ずは、探して歩くか?」
≪ふむ。やはり人族はおろかなり。手がかりもなくこの世界をしらみつぶしにあたっていくのかえ?≫
「他に方法がない。」
≪一人では限度があるのではないかの?仲間を頼ってはどうじゃ?≫
「俺に仲間なんていない。」
≪この世界に人族なんぞ沢山おるではないか?≫
「ただで助けてくれるようなお人好しはいな・・・。そうか、仲間を作ればいいのか。でもその為には金が要る。あぁーどうすれば。」
男はそうペレに話すがふと思い出す。自身に宿るフェニックスの加護と目の前のペレとの契約を。
「どっちにしても金が無いと動けない。冒険者を復活するか?」
≪冒険者?それは何じゃ?≫
男はペレに冒険者という物。金という存在を説明した。ペレは精霊だけに人族の生活やシステム等は理解していないのだ。説明に時間がかかった。男が気がつくとあたりはもう薄暗くなっていた。
「そろそろ、野営の準備をしようと思う。」
≪そう。人間は大変ね。では私が見張りをやっておくわ。ごゆっくり。≫
精霊であるペレに基本的な人間と同じような睡眠や食事は必要が無い。
男はテキパキと準備を済ませると直ぐに寝始める。
≪何故、フェニックス様はこの人間に力をお貸しになる事を決められたのであろうか?ただの気まぐれではあろうが・・・≫
焚火のメラメラと燃える音と男の寝息だけが夜の世界に木霊するのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
男は先ずは近くの村に行く事を考えたが、現在は戦争中である事を思い出し、現在のオートリア国の西地区から逆の東地区に向かう事を決めた。西のリーズン帝国がオートリア国に攻めてきたからである。また東のボンドー国はオートリア国と良好な関係を結んでいると話を聞いている。戦争中でもあの国であれば、通行を妨げられる事はないであろう。ただ、ルート的には少し遠いが、南の地域を経由しないと、この地区周辺の民は王都へ直行する事が明白であるだ。あまり一緒に動くと動きずらくなってしまうと踏んだのだ。
南のルート上にある大都市のノンツエルの冒険者ギルドでギルド登録をし、それまでの道のりで倒したモンスターの部位を納めて金に換え路銀にしていく街毎に同じ事の繰り返しをした。比較的安全なルートを通って動いている。オートリア国の国境にあるロトルアに着いた。途中の町で馬を手に入れる事が出来た為、比較的早く着いたがそれでも1ヵ月かかってしまっている。国境から国境なので仕方のない事でもあるが30日もの時間がかかったのはそれだけではない。男は手にした力を把握する事に努めたのである。精霊加護の力と自身が持っていた力の融合を図ったのである。
「ようやく、ロトルアに着いた。」
男はそう呟くと換金をしに冒険者ギルドへ入っていく。
入ってすぐにドカンと壁にぶつかる音とそれを囲むように冒険者達が見ている場面に出くわした。
「この雑魚が!これだけしか稼げねぇのか!?」
如何にもといういで立ちの片目に眼帯をしている男がローブを被る者に蹴りを入れ更に壁にぶっ飛ばす。ローブを深くかぶる者は「がはっ」と呻き声をあげてそのまま転がっている。
「情けねぇな。これだから雑魚は嫌なんだよ!」
「すいません。お許しください。もう何日も寝ていないんです。」
ローブの者はただひたすらに謝罪を述べている。しかし、眼帯の男は容赦無く追撃する。
周りを囲っている者は眼帯の男の仲間のようで、ニヤニヤしながら眺めているだけである。
他の冒険者達は見て見ぬ振りを決め込んでいる様だ。
めんどくさい顔を男はして、その現場を横目で見て遠回りするように避けて引き取りカウンターへ向かおうとして進んだ時に、更にぶっと飛ばされて痛めつけられた者のローブが脱げた。
≪愚かな人間よ。我が精霊の古からの友人を助ける。よいな。≫
とペレが有無を言わさぬ言葉を放つと。突如として眼帯の男の体が炎に包まれた。
「うぁ~。なんだこれは。熱い熱い。」
眼帯の男は転げまわる。周りの取り巻きも慌てだす。
「水だ。水だ。早く持ってこい。」
「誰だ?!魔法を使った奴は?」
「熱い、水場に行く!!」
眼帯の男はそのまま飛び出した。取り巻き達もそれについて出ていく。
ギルド内は静かになった。誰もが、目の前で起こった現象についていけていない。ローブの者も固まっている。
≪ふん。軟弱人族であった。あれだけで逃げ出すとは腰抜けが!≫
「普通の人間は急にああなったら、ビックリしてあぁなるさ。」
男はペレのした事を咎める事もなく、そのまま買い取りカウンターに行く。
「すいません。買い取りをお願いします。」
「あ、はい。少々お待ちください。」
ギルド職員であろう買い取りカウンターに居た女性もビックリしてはいたが、直ぐに笑顔を作ると対応をしてくれた。流石にプロである。
「こちら全部で、金貨5枚と銀貨8枚です。」
「ありがとう。この街は初めてなんだけど、どこかおススメの宿や食事処を教えてくれ。」
「では、こちらのパンフレットをどうぞ。」
男はお金とパンフレットを受け取ると何もなかったかの様にギルドから出たのだった。




