138 領都ロブソン
「これはこれはエリザネス第一王女様にマリリン第三王女様。長旅お疲れ様です。」
両手を擦り合わせながら近づいて来る貴族風の男は領都ロブソンを治めるジェスター王国の貴族レストエア辺境伯だ。タップタップなお腹を揺らし指には高価そうな指輪を指の数だけつけている。見た目は商人と間違えられてもおかしくない趣味の悪い格好だ。
「レストエア辺境伯もお元気そうでなによりだ。」
「レストエア辺境伯お久しぶりです。」
王女二人も余所行きの笑顔で答えている。
「おお、貴方が噂のザバルティ殿ですな。この度は我が国の王女並びにアスワン王国の王女との婚約、おめでとうございます。」
「これはご丁寧にありがとうございます。」
私に対してもレストエア辺境伯はゴマすりの様にニヤニヤしながら話しかけてきたのだが、眼は笑っていないので気持ち悪い笑顔となっているのだが、誰もそれを指摘しない。
しかし、こんな顔を見せられても二人の王女に陰りは見えないのは凄いと思うと同時に女は怖いと改めて思わされた。
歓迎という名の宴は順調に進んで行くのだが、領内で王女が殺されたとなれば責任を取らされるのはこのレストエア辺境伯なのだから、なりふり構わず殺しにきているのだからこのまま何事も無く終わるとは思えない。どんな手段をとってくるのだろうか?
◇◇◇◆◇◇◇
「使いの者はまだ戻らんのか?」
「はい。戻りません。」
「うぬぅ。使えぬ奴め。別の者を行かせろ。」
「かしこまりました。」
どっぷりした男に言われた神経質そうな男は部屋を出ていく。
「しかし、どうしたものか。」
どっぷりした男は険しい顔をして考え込みだした。
◇◇◇◆◇◇◇
警戒して夜を過す事にしたのだが、何事も無く朝を迎えた。
こちらも証人は居るのだが、その証人はあくまでも盗賊達でしかない。つまり信用に値する者達では無いのである。証拠になる物は一切ない。レストエア辺境伯が知らぬと言えばそれまでだ。
「それでは、レストエア辺境伯。また会おう。」
「はい。またお会いしましょう。」
エリザネス第一王女の挨拶にただ返事をして返すだけのレストエア辺境伯はいささか元気がない様に見える。
そのまま、私達はレストエア辺境伯の領都ロブソンを出てジェスター王国の王都ジュピターへの旅路についた。
「何事も無かったな。」
「そうだな。ただの馬鹿では無いという事であろう。ただ、このままにして置くつもりは無い。王都に戻って女王に報告を上げて徹底的に調べてもらう事にしようと思う。」
私の呟きにエリザネス第一王女が答えてくれた。エリザネス第一王女の眼は怒りに満ちている。
「私を狙う事は100歩譲って構わない。しかし何の関係も無い民を巻き込んだ事は許せぬからな。」
凛々しい顔になってエリザネス第一王女は言い放つ。
「わたくしも同じ様に思います。エリちゃんに協力しますね。」
「ああ、頼む。虚言であるとは言わせたくはないからな。」
「それなら、これを渡しておくよ。」
私は無限収納から水晶球を一個取り出してエリザネス第一王女に渡す。
「これは?」
「それはね。襲撃を受けた時の映像が映し出される魔法アイテムだよ。それを提出したら良いさ。魔法省の人にでも渡したら襲われた証拠にはなると思うよ。」
「そうか。ザバるんありがとう。」
エリザネス第一王女は私に頭を下げる。
「それより、村はどうする?無人にしておく?」
「そうだな。考えていなかった。」
「じゃあ、王都から兵が派遣されるまではレストエア辺境伯の使いの者は全て捉える様にしておくよ。その後無人状態にしてレストエア辺境伯を混乱させようと思う。」
私はエリザネス第一王女に提案した。
「わかった。あの村についてはザバるんにまかせるわ。」
「承った。」
あえてかしこまった返事をしたら、エリザネス第一王女と会話している事が羨ましかったのか、マリリン第三王女がクレームをかけてきた。
「ずるいよ。エリちゃんばっかり。私も混ぜてよ。」
「ふふふ。ごめんねマリちゃん。」
エリザネス第一王女は笑って返すが、私は苦笑いになってしまった。本当にこの人は大人の女性なのであろうか?あの皆が憧れるアスワン王国の第三王女マリリン様なのであろうか?
≪今更感が拭えません。≫
ですよね~。カミコちゃんは私の心の声に対して本日も綺麗にツッコんでくれた。
その後は何事も無く無事にジェスター王国の王都ジュピターに着くことが出来た。
その道中に魔物に襲われる事はあったが、盗賊に襲われたり貴族に襲撃されたりは無かった。
ただ、貴族の方々から『王女二人も婚約するムカつく奴』みたいな視線は飛んできていたのは事実だ。その度に模擬戦を挑まれ戦うはめにあったのだが、ピスタチン辺境伯の時のような事は起こらなかったし私が実際に戦って力を見せる形をとる事で、賞賛されたり弟子入りをさせて欲しいと言われる事があったぐらいだ。それらはある意味この旅においては普通の事であろう。隣国の下級貴族の子爵家に女王国の第一王女の婚約者となるのだから。
「さぁ、もう直ぐ着くわよ。」
そうエリザネス第一王女が私を迎えに来た。




