133 ジェスター王国への旅路 その3
翌日、ピスタチン辺境伯から正式に謝罪を受けた。
「ザバルティ殿。誠に申し訳なかった。勝手に嫉妬し貴方に対して無様にも八つ当たりをしてしまった。本当に申し訳ない。ミーリア様のおかげで眼が覚めたよ。いや、悟りを開いたと言っても過言ではない。本当にすまなかった。そしてミーリア様に出会わせてくれて本当にありがとう。」
このようにピスタチン辺境伯は私に頭を下げて謝罪してくれた。いや?感謝してくれた?感謝?おかしくない??しかも外傷が一つも無い不思議現象。
≪当然の成り行きです。≫
有無も言わさない様な断言と勢いでもってカミコちゃんにこの考えるという行為を止めさせられた。
そして今は、馬車の中で国境を越えジェスター王国内の国境にあるレストレア・ビルゲッツ辺境伯の治める領都ロブソンに向かっている。およそ二日間の行程だ。
領都ロブソンにおいてもやはり貴族様との時間があるのだが、とても憂鬱な気分になっている。何せ、その国の第一王女と婚約する形となる下級貴族の長男という立場は自身の国の辺境伯であってもあのような態度であったのだから、面倒な感じになると思ってしまう。
「大丈夫ですよ。最後は分かってくれます。」
ミーリアはにっこりと笑顔を作って励まそうとしてくれるのだが、払拭されるどころか先日の事が思い出されて苦笑いしか出ない。
「そうだな。まぁ心配しすぎても仕方がないか。」
「そうですよ。」
ミーリアは私の返事を聞いてふふふと笑って同意する。
「それに、ここから先は肉料理が盛んな地域です。旅は楽しむものですよ。」
シーリスも言葉を添え私を励まそうとしてくれている。ここまで従者に気を使わせてしまうと自分が情けなく感じるのだが、気を使ってくれる事には嬉しさを感じる。人間って複雑だな。なんて感想を持っていると。外からノックオンがする。
「ザバルティ様。本日の野営予定地につきました。早速食事の用意をする前にいつも通り、皆さまに王女達と一緒に顔を見せてやってください。」
「わかった。ありがとう。」
トーマスが呼びに来てくれた。現在も亜空間魔法の部屋にいるので、馬車の動きなどはよくわからない状況であるので、こうやって呼びに来てもらっている。
「で、外の様子はどうだい?」
「順調ですが、魔物が出てきても瞬殺状態ですし、今は盗賊たちも見えません。国境警備隊と偶に遭遇するぐらいです。」
トーマスとロバートが居りまたユカ等の守備隊も居る状況で後れを取るような状況は中々無いだろうと思っているので、ただの確認だ。疲弊も見られないから安心した。そんな会話をしながら王女二人を別室に向かいに行き揃って外へ出る。辺りは薄暗くなっており、野営の準備が進められている。
「皆の者ご苦労。」
「いつもありがとう。」
二人の王女が皆に感謝と労いの言葉をかけると、皆は嬉しそうにしていた。そして私の隣に居るミーリアを見て手を合わせる者が数名だがいる。そちらに私が顔を向けるとサッと何事も無かったかのようにとぼけた感じを見せるのだが、何故だろう?
≪昨日のミーリアさんの決闘を見た者達が羨望しているのでは無いですか?≫
そうだ、昨日の決闘はどうだったの?私は気絶していたようでわからないのだが?
≪とても神・・・とても優雅な戦いぶりでしたよ。それでピスタチン辺境伯も感銘を受けられたのでは?まぁ、そんな些細な事はどうでもよろしいかと。≫
歯切れが悪い感じの返答だが、まぁ気にしても仕方がないと頭を切り替える。考え事をしながら野営の準備と食事の準備を見守っていたら、遠くの方から馬の足音と車輪の音が聞こえてくる。どうやら馬車がこっちへ向かって来ている様子だ。
「ロバートは警戒態勢とって確認に行ってくれ。私とトーマスとシーリスは二人の王女殿下の元にて待機。ユカは守備隊を率いて私の元へ来てくれ。ミーリアとアリソンは迎撃準備をしていつでも魔法を撃てるようにここで準備しておいてくれ。その他の者はこのまま野営準備をしてくれ。」
さっと周りに指示を出して動き出す私と仲間達。私は王女達の元へ直ぐに向かう。
「エリザネス第一王女。マリリン第三王女。こちらへ馬車が駆けてきています。警戒を。」
「わかりました。聞こえましたね?警戒態勢をとってください。」
私の言葉を聞いた二人の王女は直ぐに真剣な顔になり、指示をとばすエリザネス第一王女に従い、護衛達は警戒態勢をとる。するとロバートが戻ってくる。
「ザバルティ様。大急ぎでこちらへ一直線に馬車が向かって来ています。慌てている様子が伺えました。」
「わかった。私が向かおう。ロバートとユカ達は王女達の側を離れるな。アリソンとミーリアをここへ来させろ。トーマス行くぞ。」
「はい。」
「かしこまりました。」
ロバートの返事を聞いた私は単独で馬車が来る方へトーマスと向かう。
「何かおかしい。充分注意してくれ。」
「わかりました。」
馬車はこちらへ一直線に向かってくるのを二人で塞ぐように立って待ち伏せた。
「た、助けてください!!」
馬車の御者らしき者が大声を張り上げてこちらへ馬車を走らせている。
あまり良い知らせでは無いようだ。




