132 ミーリア覚醒 ~再び~
「どうしてこう人間という者共は皆矮小な存在なのか?」
「意味分からん事を!」
相対している女と男。その周りを囲う様に熱を帯びた人々が居る。綺麗な服を着飾った二人の美女や鎧を着込んでいる護衛の様な者に貴族らしい恰好をした者等沢山の者がこの女と男を囲っているのだ。
「ただ嫉妬しているだけであろう?この豚が!身の程を知れ!!」
その女の凛とした声が響き渡ると一気に張り詰めた空気になる。そしてその女の眼が目の前の男を移すと男は急に動けなくなる。膝をつき頭を下げたくなる衝動に駆られる。
「な、なんだ?お前は?いや貴女様は?」
「気が付くのが遅かったな。お前は喧嘩を売ってはいけない者に売ってしまったのだ。」
その女のその言葉は耳元でささやかれているかの様に男の耳元から聞こえてくる。辺りにいる者達には聞こえていない。
「まさか?!」
「この醜いブタが。懺悔をする気になりましたか?」
動揺を見せる男。もう彼は身動き一つとれなくなっている。
「はい。女神様!」
「よろしい。ではいきますよ?」
男は手を胸の前で合わせ顔を下に向ける。そう、神に祈るあの姿勢である。周りで見ている観客達は皆唖然としている。誰もが言葉を発する事が出来ず、また身動きをとる事が出来ない。
女の右腕が男の鳩尾に吸い込まれるよう入ると男は『うっ!』と呻き声を上げ気絶するのだが、この女は許す素振りが全くなく、男の頬をビンタすると男の頭は90度を超える回転を見せる。
「誰が寝て良いと言いましたか?」
「申し訳ございません。」
気絶させられた男が女に謝罪する変な現象だというのに、この場に居る誰一人として突っ込まない。いや突っ込めない。
「では次です。」
「はい。女神様!」
今度は左足が鳩尾を蹴り上げると男の体は空へと浮かび上がる。
「ぐはっ!」
何の抵抗もしない男を周りに居る者はただ見ているだけ。
優雅な動作を繰り返し、ひたすらに攻撃を繰り返す女を周りに居る者はただ眺めているだけ。
これだけのオカシイ状況であるのにも誰一人として動けないでいた。
ただ、ただ、彼女の動きを見ているだけ・・・いや見てしまっているだけなのだ。
「美しい。」
「神々しい。」
そんな言葉だけがポツリと世界に浮かんでいるかのように、人々の口からあふれ出てくるばかりである。
その間にも男の体は容赦なく罰を受け続けているのだ。そうこれは罰であると解釈してしまう様子なのである。そこには美しく舞う様な動きで魅了する女神と、素直に罰を受け罪の赦しを乞う男の姿なのだ。
あまりの美しさと神々しさに涙する者まで出る始末である。
「おお、我らが神よ。」
そんな言葉が紡がれる美しい世界を見ている人々。
「前と同じだ。どう思うよトーマス?」
「わからん。だけど目が離せないのは事実だ。アリソンもも目が離せないだろう?」
「うん。ミーリアちゃんが違う感じにまたなってるね?あれなんだろう?ロバートわかる?」
いずれもザバルティの従者であり、幼き頃より一緒に育ってきた者達でも理解不能なのだから、誰にも説明は出来ないであろう。
男は何発も物凄い音のする打撃を受けているにも関わらず、外傷は見られない。
顔も張り手を喰らっているのに腫れていない。
逆に血色がよくなり澄んだ瞳を宿している。
しかし、嗚咽や痛みを感じている顔になる。
不思議な光景である。
この魔法という不思議な現象があるこの世界でも不思議な光景なのである。
そしてそれを見る者に決して深いな気持ちを抱かせず、逆に清らかな気持ちを抱かせる物なのだ。
静寂になる打撃音は神聖な響きを持って人々に清らかな気持ちを抱かせているのだ。
◇◇◇◆◇◇◇
「ザバルティ様。そろそろ起きてください。」
そっと耳元でささやかれ、体を揺らされた私は眼を開けるとシーリスが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「うん?気絶していたのか?」
「その様です。ミーリア様がもう決闘を終えて戻ってこられますよ。お褒めの言葉を用意してあげてください。」
「もう終わった?」
「はい。」
歓喜の声と拍手が庭の方から聞こえているのはそのせいか?でも何で気絶したんだろうか?確か王女達がドンドン話を進めて・・・。そこから先がわからない。
≪マスターはお疲れなのでしょう。色々動かれていたり気を使っていたりしているので。≫
カミコちゃんはそう言うのだが、そんなに疲れている自覚は無いのだが?
≪疲れとは本人はわからないものですよ。≫
そうなのかもしれないが。
≪あんまり深く考えない事です。それに頑張ったミーリア様を誉めてあげないと後で怒られますよ?≫
確かにそうだ。今は褒める事を優先しないと。で、ミーリアはどこだろう?とキョロキョロと見渡す私を見てシーリスが先導する。
「こちらですよ。あの輪の真ん中です。」
その方向を見るとおどおどとした様子のミーリアがいた。何があったのかいまいち理解してない様な様子のミーリアの顔を見て何故か私は安堵したのだ。ミーリアにしては珍しい表情だと思うが、昔はいつもあんな感じだった。そうだ、いつもあんな感じだった。いつから今のようなミーリアに変わったのだろうか?
「さぁ、ザバルティ様。ミーリア様の元へ早く行ってあげてください。」
「そうだな。行ってくる。」
色々考えていた事を吹っ切りミーリアの元へ私は向かった。




