107 要塞設営 その2
ラムザからの使者の名前はシェリル。人族と獣人族(トラ族)のハーフとの事で、俊敏性とパワーを兼ねそろえ尚且つ精霊使いでもある。可愛い耳と尻尾が付いている綺麗なお姉さんって感じだ。外見では無く戦力も分かっているのはラムザから紹介された時にそう教えられたからだ。冒険者をしているらしくクラウンシャルマンの中心人物の一人だそうだ。創設期からいる古株でもあるようで、信頼を置かれている一人らしく王都テーストに在中してくれて、色々と私達を支援してくれているS級冒険者だ。
「まさか、使者がシェリルさんだとは思いませんでした。」
「あら、ビックリしてくれたの?嬉しい。」
「わざわざシェリルさんが来られるという事はよっぽど大切な要件という事ですね?」
「おっさしの通りです。流石ですね。」
ニコリと可愛い笑顔を見せてシェリルさんは返答する。
「ラムザ様はある都市の防衛設備の改築をザバルティ様に依頼したいとおっしゃられております。」
「都市の防衛設備の改築?ラムザさんが依頼されるのであれば、勿論協力するのは問題ないけど・・・、場所はどこ?」
「イグナシオ大陸の魔王の治める国。その名をエンデ魔王国。その一都市である港町ヨコダテにございます。」
「魔王国ってあの有名な?」
「そうです。有名な魔王国です。」
「ラムザさんはそんな所に行っているんですか?」
「そうなります。ですが、今はこちらへ迎えに来ている頃です。」
「うん?まだ行くとは言ってないのに迎えに来ているんですか?」
「そうなりますね。」
よりによって魔王国に行くのか。しかも迎えに来ているという事は急ぐという事だな。しかし、私も要塞設営の為に現地に向かっているんだが。
「困りましたね。私は公務として要塞設営の為に現地に向かっているんですが。」
「確かにその通りの様ですね。ですが、ラムザ様からはアンバーの港に来るとだけ伝えられています。あと、魔石の件ですが、数が50個程用意出来ています。後続の者が10個ほど持って来るはずです。」
「もうそんなに用意出来ているんですか?それは凄い。では何とかなるか。」
ラムザの奴。私に物を用意したから使って何とかしろと言っているようなもんじゃないか。たく抜け目ない。しかし本当に魔石が使えるのかそれが大切だ。そうじゃないと、物質的に無理だ。
「わかりました。では先ずは魔石を確認してからですね。それが私の要望した物でなくては、物質的に無理ですから。」
「かしこまりました。では私も同行させて頂いても良いですか?」
「そうですね。その方が話が早いでしょう。良いですよ。」
「ありがとうございます。では改めてよろしくお願いします。」
こうして、新たな同行者が出来た。つうか助成率が高すぎじゃねえか?異世界は女性が逞しい気がする。
「では、乗ってきた馬をこちらに。」
亜空間魔法で新たな空間を作成し魔石で固定した中へ馬を入れてもらった。
「な、何ですかこれは?」
「まぁ、空間を創造した感じでしょうか。」
「はぁ?空間を作ったって事ですか?」
「そうなりますね。」
「す、すごい!ここまでとは・・・。」
シェリルさんの私を見る目が瞬時に変わった。そして、馬車の中の部屋空間へ招き入れた後、部屋から更に別空間を用意し、その中をシェリルさんの部屋とした。あまり部外者を亜空間の部屋へ入れるのは控えたかったが、どうせ例の物を作成し運用するつもりなので、ラムザの部下は許容範囲と判断したのだ。
「驚きました。こんな魔法があるとは。」
「ザバルティ様にとっては普通の事です。ただ、他言は無用です。」
シーリスが誇らしげにシェリルさんに言っていた。ナイスフォローと心の中でつぶやいた。
「わかりました。こんな貴重な体験が出来るとは思っていませんでした。このお役目を引き受けて良かったと本当に思います。」
凄く興奮した様子で、部屋の中を隈なく調べ出すシェリルさんは興味津々といった感じだ。
そんなシェリルさんにミーリアが何事かを話しているようだ。私には聞こえてこないが何かを伝えようとしている事は分かる。苦情が出るわけでは無いようなので、その辺は放置しておく。
私は例の物を早期に完成させる必要に迫られそうな予感を持ち、例の物の完成を急ぐために慌てたように動き出す事にした。
「では出発出来る事をカンガリ大将閣下に伝えて来てくれ。感謝も忘れずに伝えておいてくれ。」
「わかりました。」
シーリスはそのままカンガリ大将閣下の所へ向かって行く。
「私の場所に皆を集めてくれ。」
「かしこまりました。」
今度はミーリアが皆を呼びに向かった。
「ところで、シェリルさん。」
「はい?」
「私が拒否したらどうするつもりだったんですか?」
「そんな事は考えていませんでしたよ。」
「何故です?」
「ラムザ様が必ずザバルティ様なら断らない。と断言されたようなので。」
凄い信頼だ。だけどラムザの思惑通りに事が運ぶことが何故か嫌だと感じた。所謂「癪に障る」と言えるかもしれない。




