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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)2.9 < chapter.7 >

 翌日の昼のことである。

 騎士団本部の大食堂では、当たり前のようにアルミトレーを持ったマルコが空席を探していた。

「デニスさーん! そこ、三席空いてますかー!?」

「はーい! 空いてまーす!」

 いつもの光景、いつものやり取り。

 マルコ、ロドニー、ベイカーの三人はデニスと同じテーブルにつき、至極当然の流れとして、昨夜の出来事を話題にあげた。

 早々に現場を離れた四人のうち、特務部隊の三人は情報部から『その後の顛末』を聞かされている。強盗一味の素性や余罪、飲みに来ていた個性的な客たちのこと、ナイフバーの営業再開予定などを一通り話していく。

 しかし、デニスの質問で話が止まる。

「ところでレインさんは? 今日はお休みですか?」

 三人は無言で顔を見合わせた。

 それから前のめりになって顔を寄せ合う。見るからに『内緒話』のフォーメーションだ。

 手招きされたデニスも、素直にその輪に加わった。

「レインはな、あの後オトナ組と一緒に二次会に繰り出して、更なるトラブルに巻き込まれてしまったんだ……」

「更なるトラブル?」

「別の手配犯にナンパされたらしいぜ」

「そ・ん・な・バ・カ・な」

「その男からのナンパを必死に断っていたら、他の客が『うるせえ、こんなところで盛ってるんじゃねえぞ』と喧嘩を吹っ掛けたらしいのだが、それもまた別の事件で懸賞金をかけられている男で……」

「確率論の死!」

「それだけでは終わりませんよ。そうこうしているうちに店内に謎の煙が充満してきて、何事かと思っていたら、店の裏口付近のゴミ箱が放火されていたそうでして……」

「もはや何かのギャグですか?」

「ブチ切れたラナ様とナイルとラジェシュがアストリンゼントバレー全域に偵察用ゴーレムを飛ばしまくって、目当ての放火魔以外にも、別件で逃亡中の手配犯、スリ、ひったくり、置き引き、違法売春や条例違反の客引きなどを五十件以上発見してしまってだなぁ……」

「それ、証拠映像バッチリ録画ですよね?」

「当然だ。国内屈指のゴーレムマスターと、要人警護部隊所属のウィザードと、女王陛下のお抱え魔女だぞ?」

「超高精細映像で、恐喝犯が耳元で囁いた『おうガキ、金出せや』っつー声まで雑音無しのハイパークリアボイスで録音されてんだってよ」

「どのような言い逃れも通用しないでしょうね。証拠映像の提供者が宮廷女官と式部省職員、騎士団情報部とあっては、弁護士も見つからないと思います」

「うわぁ、強すぎる……。ということはレインさん、今アストリンゼントバレーですか」

「ああ、駅前の第二支部のほうにいる。片っ端から捕まえまくったおかげで、調書を取るだけでも一苦労らしい」

「まさか、見つけた分、全部捕まえちゃったんですか?」

「いや、客引きや売春斡旋所は、末端の人間を何人押さえても無駄だからな。緊急性の高い十八件のみ検挙した」

「って、それにしても十八件。一晩で……」

「まだ本部に書類が送られてきていないのだが、まあ、少なくとも俺たち三人の残業は確定だな。情報部との共同作戦扱いでも面倒なのに、支部側とも足並みを揃えて書類作成を進めるとなると……うぅ、考えただけで、眩暈が……」

「もうそれ、調書だの言う以前に、基本データファイルの作成だけでも何時間かかるか分かりませんね……」

「なにを他人事のような顔をしているのだデニス。俺の送迎係はお前だぞ」

「あー、そうでした。僕でした。うわー、何往復することになるんだろう……」

「もとはと言えばお前が誘ったんだぞ、あのナイフバー」

「う……それを言われると……。あ! でも! 昨日行ったのはベイカー隊長のスケジュールに合わせたからですよ!?」

「く……それを言うか貴様……! まあ、いずれにしても連帯責任だな! 一緒に死のう!」

「忙殺心中!」

「デニスさん、ようこそ残業沼へ!」

「臣下は誰も帰れない!」

「一緒に頑張ろうぜ! ほら、パクチーやるから!」

「それ嫌いなだけですよね?」

「野菜ジュースもつけるって!」

「それも嫌いなだけじゃないですか?」

「よーし! じゃあグリンピースとアスパラガスもつけてやるぜ!!」

「やっぱりこれ嫌いなモノだ! 間違いない! え、ちょっとハドソンさん!? ピーマンくらいは頑張りましょうよ! ね!?」

「やだ! ピーマンやだもん! や!」

「幼児みたいに駄々こねないの! めっ!」

「やだーっ!!」

 目に見える野菜は一通りデニスの皿に放り込み、ロドニーは鶏のから揚げを頬張る。もちろんレモンはかけない派だ。

 ベイカーとマルコも『内緒話フォーメーション』を解除し、それぞれ獣人用、人間用のランチセットを胃袋に収めていく。

 腹が減っては戦ができぬ。

 長い戦いを控えた彼らは、今は食事に専念した。


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