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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)2.9 < chapter.6 >

 レイン、ラナンキュラスと強盗一味は互いに一投も外さず、ついに八ゲーム目に突入していた。このころには連戦の疲労から、レインの投擲フォームにやや乱れが見え始めていた。


 このまま続けていたら、確実に負けてしまう。


 誰の目にも明らかなその様子に、ある客が、わざと聞こえるような音量でこう言った。

「女の子のほうが負担の大きい勝負で勝ったって、ちっとも格好良くねえよなぁ!」

「ああ、違ぇねえや! そもそもなんで対戦なんか申し込んだんだろうなぁ!? 二対五なんておかしいだろ!?」

「セノっ子じゃねえこたぁ間違ぇねえな! どこのお上りさんだ!?」

「おいおいよせよ、聞こえちまうぜぇ?」

「聞かせときゃあいいんだよ、どうせ女子供にしか強く出れねえ田舎モンだからな!」

「ま、そうだろうけどよ!」

 店内のいたるところから、どっと笑いが巻き起こる。

 中央市セントラル・シティ育ちの人間は、この街があらゆる分野で『最先端』であることに誇りを持っている。自分たちを『セントレアン』や『セノっ子』、『セニー』、シティ・キッズを略した『シッズ』などと呼び、文化やセクシャリティへの寛容さを謳っているのだ。


 同性カップルを目撃しても、よほどのことが無い限りは個人の自由としてスルーする。

 体力的に劣る女性や子供、障害者への侮辱的言動を目撃したら公然と抗議・批難する。

 異なる文化圏の人々を一方的に排斥することは無く、相互理解に努める。


 店内の客の大半は、二対五の勝負を『弱い者へのマウンティング行為』と判断していた。体力的に劣る女性を大人数で取り囲んで何が勝負だと、声を上げるタイミングを窺っていたのだ。

 そして対戦相手を睨みながらも、勝負の行く末をじっと見守っていた『彼氏マルコ』の態度。それはゲーム開始前のロドニーの発言により、『女性相手に不平等な条件を突きつけることが失礼に当たらない地域』の出身者かどうかを見定める、様子見の態度として映っていた。

 中央の人間なら、この状況で男性グループ側を批難するのは当然の行動と認識している。だが、そうでない地域の人間には批難される理由が分からない。自分は謂われなく中傷された被害者だと思い込む者すらいる。相手の出方次第でいつでもゲームを止めに入れるよう、『彼氏マルコ』は臨戦態勢を整えていた。


 さあ、この挑発的な笑いにどのような反応を見せるか。


 嘲笑の矛先が自分たちに向けられていると気付いた強盗一味は、ここで見事に『田舎者』の反応を見せてくれた。

「なんだてめえら! ああっ!? 自分らが女に声掛ける度胸がねえからってよお、僻んで吼えてんじゃねえぞボケが!!」

 本当に度胸がない男なら、あえて大声で女性をかばう発言をすることは無い。強盗一味のリーダー格の男はそんな当然のことにも気付かず、決定的な一言を口走る。

「おい、悔しかったら掛かって来いよ、腰抜け彼氏さんよぉ! てめえは眺めてるだけか? ハハハ! 中央の男ってのは、情けねえ連中ばっかりだな!」

 マルコは立ち上がった。

 が、出遅れた。

 睨みを利かせて立ち上がり、リーダー格の男とレインの間に割って入ろうとしたのだが――。

「おい、今のセノっ子ディスか!?」

「だよなぁ!?」

「店長さーん、このお店、床のワックス利かせすぎじゃあないですかー?」

「いやー、すみませーん。皆様、よく転んだ拍子にお怪我をなさるんですよねー」

「事故なら仕方ないですよねー、事故ならー」

「そうだよな、事故なら仕方ねえ……うらぁっ!!」

 火事と喧嘩は中央の華。

 喧嘩っ早いセノっ子は、すでに強盗一味に殴り掛かっていた。

 瞬時に始まる乱闘騒ぎ。

 その中でマルコとロドニーはレインとラナンキュラスの手を掴み、店の出口へと駆けてゆく。

 ラジェシュは何気ない素振りで防御魔法を展開し、要人四人をしっかり護衛。

 ナイルはそっと店長に接触し、身分証を提示したうえで、あの『田舎者』が強盗一味である可能性を説明する。

「この乱闘騒ぎは『逮捕協力』として処理します。最悪死者が出たとしても、この店の責任が問われないよう、最大限の手は打たせていただきますので」

「本当ですか? この件を理由に、閉店に追い込まれたりしません?」

「大丈夫です。むしろ騎士団お墨付きの優良店として宣伝させていただきますって。ヤクザがみかじめ料の徴収に来なくなりますよ」

「それはありがたい」

「とりあえず、従業員の身の安全だけは確保してください。いざとなったら裏口から逃がすことも視野に入れて」

「分かりました」

「で、売り上げ損失と備品等の修繕費用についてですが……」

 と、ナイルが説明している時である。出口のほうで、ラジェシュがなにかを指差していた。

「ん? なに?」

 視線を移すと、そこにあるのは自分たちが飲んでいたテーブル。

 テーブルの上には、まだ支払いを済ませていない会計伝票が一枚。


 それ、よろしくね!


 とでも言うように満面の笑みでウィンクと投げキッス。それから爽やかに手を振って、先行した四人を追って店を出て行った。

「……おいっ!」

 まんまとしてやられた。

 飲み比べ対決は無効試合となったが、メンタル的には圧倒的敗北を感じざるを得ない。

「おのれハニーめ。小癪な真似を……」

 この時点では、ナイルは自分のクレジットカードで二十万以上も飲み食いされていたことに気付いていない。ゴーレムプロレスバーでの支払いとこの店の支払いで想像以上の大打撃を受けることになろうとは、この時のナイルには想像もできないことだった。

「ええと、損害補償のことは落ち着いてから、保険会社を交えてじっくり話を詰めましょう。とりあえず、うちのテーブルの分だけお会計お願いします」

 会計を済ませ、乱闘騒ぎに巻き込まれぬよう、柱の陰に隠れて状況の推移を見守る。

 今のところ、刃物を持ち出す者はいない。

 あまりにも激化するようなら戦闘用ゴーレムを投入して強制終了させるつもりだが、問題はそれを『どこに投入するか』だ。

 最初に殴り掛かった威勢の良いセノっ子グループと強盗一味との殴り合い。ここが主戦場なのは間違いない。しかし、それ以外にも店内のいたるところで喧嘩が始まっている。

 入店直後にやっかみを言ってきた私兵隊らしき連中は、別のグループに一方的に絡んでいる。『女連れ』が気に食わないというより、自分たちより楽しそうにしている人々はすべて気に食わないのだろう。

 別のテーブルでは仲間同士で掴み合いの喧嘩を始めている。見た感じ、上司と部下のようだ。互いの顔に唾を吐きかけているが、どちらも掴んだ胸座を離すつもりはないらしく、大変汚らしい戦いが展開されている。

 日頃から色々あるのだろうなぁ、などと思いながら注目していると、その隣のテーブルで別の喧嘩が始まった。

「ちょっと! とっさに後輩君庇うってどういうこと!? 本命は僕じゃなかったの!?」

「誤解だ! 皿が飛んできたから、たまたま近くにいた彼を……」

「嘘つき! ゼッタイに許さな……えっ!?」

「オラァッ! 死ねやカスッ!」

「せ、先輩! なんで、僕の代わりに……!?」

「こんなクソと付き合うな! 俺と付き合え!! 好きだあああぁぁぁーッ!!」

「先輩っ!」

「ダーリンを……ダーリンを殴ったなぁーっ!」

「ぎゃーっ!」

「ぐはーっ!」

「や、やめるんだみんな! 俺が……俺が悪かった! だから……」

「ダーリンにもお仕置きが必要だっちゃーっ!!」

「ヒギャアアアァァァーッ!!」

 私兵隊にしてはパンクすぎる髪型の一団だ。おそらくは傭兵稼業の男たちだろう。痴情のもつれという表現を見事に具現化したような、実にこんがらがった喧嘩である。こちらの状況への介入は無さそうだが、『後輩君』はベイカーと同じく雷獣族のようだ。ブチ切れた勢いであたりかまわず雷撃を放たれたら、非常に厄介なことになる。

 ナイルは改めて店内を見渡し、自分が引いた貧乏くじの『最悪さ』を痛感する。


 どこもかしこも、マッチョばかりだ。


 小柄な人間は先ほど『ダーリン』を電撃ノックアウトした雷獣族しか見当たらない。それ以外は一目見て人狼やミノタウロスと分かる大柄で筋肉質な男ばかり。中途半端なタイミングで戦闘用ゴーレムを投入しても、素手で止められてしまうだろう。

「えぇ~……なにこれやめてよぉ~……」

 いずれの『戦場』も徐々にヒートアップしている。そろそろ誰かが喧嘩の禁じ手、刃物や飛び道具、殺傷能力の高い攻撃魔法を使用するに違いない。

 ナイルは慎重に状況を見定め、最も危険度の高い『雷獣のいるグループ』から制圧することにした。

 だが、この判断は五秒ほど遅かったようだ。

 そちらのグループのほうが先に魔法を使ってしまった。

「発動! 《封魔結界》!!」

 痴話喧嘩に参加していなかった五人目の傭兵は、戦士でも工兵でもなくウィザードだった。それもかなり高位だ。予備動作も呪文詠唱も無しに《封魔結界》を構築してしまった。もうこの店内では、魔法も呪詛も、錬金術もゴーレムも使えない。

「……マジかよ……」

 青ざめるナイル。

 ゴーレムマスターにとって、高位のウィザードは最も相性が悪い。こうしてゴーレムの発動自体を封じられてしまうと、実戦ではほぼ勝ち目がないのだ。

「……うわ、これ、ホントにどうしよう……」

 どこを見ても自分より大きな男ばかり。肉弾戦を挑むことは論外だ。ならばと頭を動かすと、今のナイルにもできることが、たった一つだけあった。


 外の仲間に、この状況を伝えることである。


 携帯端末を取り出し、慣れた動作でベイカーにかける。

「……あ、もしもし? 中の状況なんだけどね、隅のテーブルに派手めの傭兵グループがいたじゃん? あの中の一人がかなり高位のウィザードで、今は《封魔結界》が使用されていて……ああ、やっぱり? ラナ様のゴーレムが通信途絶するレベルとなると……だよね? マスタークラスのウィザードがいる傭兵チームってことは、他の連中もそれなりの腕と思ったほうが……」

 と、話している最中だった。


 自分の身体に、誰かが入り込んできた。


 電話口でベイカーが話す言葉は聞こえている。

 それに対して、自分の口は的確に相槌を打っている。

 けれどもそれは自分ではない。

(え!? なんだよこれ!? おい! まて! なんで……っ!?)

 自分の身体が誰かに操られている。

 魔法ではない。今この場には《封魔結界》が作用している。魔法や呪詛による身体操作はおこなえないはずなのだ。


 それならば、この状況はいったい何か。


 ナイルが答えにたどり着く前に、自分の身体に入り込んだ何者かは、自ら素性を明かしていた。

「しばらくこの身体を使わせてもらう。申し訳ないが、たった今君が言った『一時退却』の指示には従えない」

「どういうことだ? ナイル? お前、何を言っている?」

「俺はオリヴィエ・スティールマン。細かい説明は要らないな?」

「な……待て! 何をする気だ!?」

「なに、ただの暴動鎮圧さ」

 一方的に通信を切ると、オリヴィエは自然な歩調で乱闘の只中に向かっていく。

 それはあまりに異様な光景だった。

 誰もが殺気立った店内で、オリヴィエだけがごく普通に歩いている。

 そして彼が通った後には、床に叩きつけられた男たちのうめき声が響く。

 オリヴィエは必ず背後から、『攻撃している側』に奇襲を掛けて回った。攻撃されていた側はその一瞬、オリヴィエが『自分に加勢してくれた』と錯覚する。そこでニコリと笑顔を見せて、最大限油断させたところでノックアウト。

 誰もが自分の喧嘩に集中している。よそで赤の他人がどんな喧嘩をしていようと、気に留めるだけの余裕はない。オリヴィエが幾人もの人間を連続ノックアウトしていても、それに気付いて警戒する者はいなかったのだ。

 見る間に『外野』を減らしていき、それから最本命の現場に向かう。


 強盗一味は五人全員が戦闘可能な状態。ダメージは軽い。

 殴り掛かったセノっ子グループは半数がやられ、残りは三人。その三人も、すでに何発も食らっている。これ以上頭を攻撃されては命にかかわる。


 優先すべきは人命である。

 オリヴィエは少々考えた末、最も分かりやすい乱入方法を選択した。

「手配犯諸君! 無駄な抵抗はやめて、おとなしくお縄につきなさい!!」

 そう言いながら、オリヴィエはナイルのIDカードをビシッと突きつけた。

 専用カードケースに箔押しされた王立騎士団の紋章。まごうことなく本物の輝きを放つその紋章に、強盗一味は激しく動揺した。

「後ろを向いて、脚は肩幅に。頭の後ろで手を組みなさい」

 と、オリヴィエは型通りの指示を出す。

 しかし、ここで素直に従うくらいなら、他人のIDで東部国境から中央まで逃げてきたりしない。

「畜生……こいつ、騎士団員だったのかよ」

「てことは、さっきの女どもは金で雇ったおとりか!?」

「クソ! 全部罠だったのか! 俺たちをハメやがったな!」

「やっちまえ!」

「おう!」

 いやいや、自分たちで勝手にナンパして、勝手に挑発して、勝手に乱闘騒ぎになっていただけだろうが。

 そうツッコミを入れたくなったオリヴィエだが、こちらが発言する間もなく、強盗犯たちは凶器を手にして襲い掛かってきた。

 これまで素手で殴り合う『ただの喧嘩』をしていたのは、店に騎士団を呼ばれて、身元が割れるのを恐れたからだ。すでに手配犯であることが知られているなら、刃物を使わない理由は何もない。

 貸し出しカウンターに置かれていた大型ナイフを手に、五人はオリヴィエを取り囲む。

 さすがと言うべきか、この強盗一味はそれぞれが自分の役割を理解していた。

 真正面に立つ男は特に大柄で、いかにも強そうな威圧担当。両側に展開した四人はそれぞれがおとりとアタッカーのコンビなのか、左右どちらにも、分かりやすくナイフをちらつかせて挑発的に身体を揺らす者がいる。

 一対五。どこに仕掛けても死角になる側から攻め込まれるだろう。

「おいどうした、来ねえのか? あ? ならこっちから行くぜ! オラァッ!!」

 真正面から突き込まれるナイフ。

 これがオリヴィエ本人の身体なら、腕を掴んでそのまま握りつぶすところである。だが、これはナイルの身体だ。イエネコ族にそんなパワーはない。

 そう、パワーは無いのだが――。

「なっ……」

 空を切る拳。

 視界から消えた猫耳を探すだけの余裕は与えられない。いつの間にか懐に入り込んだ白猫は大男の喉笛に手刀を食らわせ、反射的に口を開けた大男の顔に、隠し持っていた胡椒をぶちまける。店内の『外野』を片付けるついでに、使えそうなものをポケットに忍ばせておいたのだ。

 激しく咳き込む大男の足元をすり抜け、そのまま投擲場の的の目の前まで。白猫は的を背にし、気取った仕草で『さあ、来いよ』と挑発して見せた。

 危険物を投げて遊ぶ都合上、投擲場は的ごとに金網で仕切られている。ここに位置取られてしまうと、強盗団は数的有利を活かすことができなくなる。

 どう見ても罠である。こんなあからさまな挑発に、素直に乗る馬鹿はいない。


 投擲場の手前と奥、五メートルほどの距離を置いての睨み合いとなった。


 オリヴィエは内心ほっとしていた。

 これは罠でも何でもない。ただのハッタリである。

 イエネコの長所は動きの速さと関節可動域の広さ。短所は攻撃力の弱さと防御力の低さ。彼らは小さな生き物を狩る能力に特化した種族なのだ。ゴーレムプロレスのモーショントレースなら最強のプレイヤーになれるかもしれないが、自分の身体で『大きな敵』と戦うには弱すぎる。強盗団が冷静さを失って、または挑発がハッタリであることに気付いて襲い掛かってくるようであれば、ナイルの身体でそれを退ける術はない。

 このハッタリに気付かれたら終わる。その前に何か手を講じるべく、オリヴィエは必死に考えていた。

 だが、ここで体の持ち主が意見した。

(ちょっとちょっと! おいってば! 俺の身体で何してくれちゃってんの!?)

 脳内に響く『ご本人様』の声に、オリヴィエも心の声で答える。

(すまない。民間人の安全確保を優先させてもらった)

(そりゃあ分かるけどさ! こんな袋小路に入り込んで、脱出手段は考えてなかったってヤツ?!)

(返す言葉もない)

(だったらさっさと俺の身体返せ! 俺が何とかするから!)

(できるのか?)

(楽勝!)

(わかった。じゃあな)

 あっさり出て行くオリヴィエ。

 自由を取り戻したナイルは、店内の客に向かって呼びかける。

「みんな聞いてくれ! 俺は王立騎士団情報部の人間だ!! こいつらは東部国境で十人もの人間を死傷した、凶悪な強盗団なんだ! 全員、今すぐ店から逃げてくれ! こいつらは人を殺すことに何の抵抗も感じない、超がつくほどの極悪人だぞ!!」

 まずは邪魔な人間をこの場から排除する。ウィザードのいるあのグループも一緒に出て行ってくれれば、得意なゴーレム巫術で形勢逆転も図れると考えたのだが――。

「やっぱりその顔! フワフワにゃんこ耳! 情報部所属! 間違いない!! ホワイトマジシャンだあああぁぁぁーっ!!」

「思ってた以上!! にゃんこ耳マジ愛らしい!! 我らがマッシヴ・ゲイ部のニューアイドル!!」

「僕、ホワイトマジシャンさんのおかげで両親にカミングアウトできました!!」

「俺たちも一緒に戦います!!」

「真実の愛と自由を勝ち取りましょう!!」

「え……えええええぇぇぇ~っ!?」

 よりにもよって、一番厄介なグループだけ残ってしまった。


 痴情がもつれまくっていた、あのゲイの傭兵たちだ。


 突如名乗り出た援軍『マッシヴ・ゲイ部』は、なぜか衣服を脱ぎ捨てる。そして鍛え上げた見事な肉体美を披露しながら、強盗一味を上から下まで、舐めるように眺めまわす。

「どうだい!? 良い筋肉だろう!?」

「君たちも、なかなかいい身体してるよね!」

「ワイルドでアウトロー……美・味し・そ・う♡」

「フゥ~、たまんねえなぁ、その上腕二頭筋……」

「こっちの世界、覗いてみないかい……?」

 強盗一味はうろたえている。

 まさか自分が、同性から性的な目で見られるとは思っていなかったのだろう。

「な、なな、なんだてめえら!?」

「き、気色悪い動きしてんじゃねえ!!」

「おいやめろ! その変な踊りをやめやがれ!!」

 『マッシヴ・ゲイ部』と称する彼らは下着一枚で、ストリッパーのようなセクシーダンスを踊っている。ナイフで武装した強盗一味に近付く様子はないが、あまりにも『圧』が高い。彼らの存在を丸ごと無視してナイルに襲い掛かれるほど、強盗一味のメンタルは強くなかった。


 ゲイたちの熱烈ウィンク&投げキッス。

 気付きたくはないが、それが合図と気付いたナイル。


 全員の意識が『マッシヴ・ゲイ部』に向けられた一瞬の隙を衝き、ナイルは床を蹴る。

 瞬発力と跳躍力ならこちらが上。金網を駆け上り、袋小路の入り口をふさぐ強盗一味の頭上を跳び越える。

「あっ!」

「こいつ! 待て!」

 自分を追う強盗一味の姿を確認しながら、ナイルは店の出口へ向かう。

 扉を開けて外へ。

 続けて出てくる強盗たち。

 扉の外は鉄製の外階段。カンカンと響く足音を追って階段を駆け下りる強盗一味。

 しかし、階段の下にいたのはナイルではなかった。

「行くぞ、レイン!」

「はい!」

 ベイカーとレインは狭い階段を利用し、先頭の男を二人がかりで襲撃。

 わずかな隙間からでもなんとか加勢しようとした残る四人は、ベイカーの後ろに治安維持部隊がいることに気付く。ずらりと居並ぶ兵士の数は少なく見積もっても三十名以上。慌てて引き返そうとする一味だったが――。

「えーい!」

 最後尾の男が後ろから蹴り飛ばされ、仲間を巻き込みながら転がり落ちていく。

 ナイルは逃げたふりをして扉の裏に隠れ、こっそり彼らの背後についていた。階段を降りていたのはナイルではなくオリヴィエである。傭兵たちが『謎の踊り』を披露している一分弱の間に、オリヴィエがこの行動を指示したのだ。普通、生霊がタイミングを合わせてラップ音を発生させていると思う人間はいない。強盗一味はまんまと誘導されたわけである。

 無様に転げ落ちた強盗たち。

 ベイカーの号令の下、一斉に動き出す治安維持部隊。

 あとは数の力の勝利だった。


 被疑者確保。

 その場で顔認証が行われ、一月十日に発生した連続強盗殺人事件の犯行グループであると確認された。


 客も従業員も全員保護され、検査と治療、聴取のために騎士団病院へと搬送。店への補償や今後の『宣伝方法』についての話し合いはまた日を改めて、ということで、ナイルたちは三十分ほどで現場を離れることができた。

 だが、しかし。

 ここで現地解散するわけにはいかなかった。

「ねえハニー? どうしても納得いかないから、もう一回勝負しない?」

「言うと思いました。私はいくらでも勝負をお受けするつもりですが、王子の護衛任務名目で出てきた以上、一度王宮か式部省に顔を出してからでないと『任務終了』とはなりませんし……」

「ご安心なさい! 情報部にも式部省にも、私から連絡しておいたわ!」

「ラナ様!?」

「本当ですか?」

「私、まだ一滴も飲んでいないんですもの。ここでお開きにするわけないじゃない。私の奢りよ! 遠慮なく飲みなさい!!」

「さすがはラナ様!」

「ご馳走になります!」

 ロドニーとマルコ、酔いつぶされたデニスは治安維持部隊の馬車で騎士団本部に帰されている。ベイカーは治安維持部隊の責任者と話をするため、最寄りの騎士団支部に行ってしまった。ここにいるのはナイルとラジェシュ、ラナンキュラスとレインの四人である。

(あれ? もしかしてこれ、当然のように私も頭数に入れられてる流れ……?)

 ラナンキュラスにしっかり腕を掴まれたレインは、何も発言できないまま年上グループの二次会に連行された。


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