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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)2.9 < chapter.1 >

挿絵(By みてみん)




 騎士団本部一階、大食堂。最大千人が一度に食事できるこの食堂は、カウンター席からテラス席まで、身分の上下を問わず、どの席でも自由に利用することができる。

 かつては『暗黙の了解』として座る場所が分かれていたものだが、マルコ王子の本部異動により、その不文律は崩された。

「ミリィさーん! そこ、空いていますかー?」

「ごめんなさーい! 今日はあと二人来るんですー!」

「分かりましたー! あのー、どこか三席空いているテーブルはありますかー?」

「はいはーい! マルコさん! ここ! こっち!! 今詰めますから!!」

「あ、デニスさん! ありがとうございます!」

 車両管理部のデニスに手招きされ、マルコとレインはトレーを持って奥へと進む。

 食堂の一番奥には貴族専用席もあるのだが、マルコはそちらへは向かわない。地方支部勤務のころと同じように、市民階級の職員と肩を並べて食事している。

 貴族ならばどこの席を利用してもウェイトレスが料理を運んでくれる。だがマルコはそれすら断り、一般職員用のアルミトレーを自分の手で運ぶ。もちろん、トレーの上に並ぶ料理も他の職員たちと同じく、ごく普通の『人間・事務職用ランチセットB』である。

 Aセットはメインが魚、Bセットは肉。内陸育ちのせいか、マルコは魚の血合いと肝がどうしても食べられない。誰の皿にどの部位が乗るか分からない大食堂では、Bセットをオーダーすることが『最大の安全策』なのである。

 一緒に食堂に来たレインは『獣人・戦闘員用ランチセットA/大盛』。人間より基礎代謝の高い獣人たちには、事務職用で二倍、戦闘員用で三倍のカロリーが設定されている。レインはシーデビルという海棲種族だが、必要とするカロリーは獣人をはるかに上回る。隣に座ったマルコの倍以上盛られた料理の量に、見慣れているはずのデニスでさえ、確認せずにはいられない。

「そんなにたくさん食べて、夕ご飯ちゃんと食べられるんですか?」

「え? 普通に入りますよ?」

「うわ、シーデビル、燃費悪ぅ~い」

「しょうがないじゃないですか。陸では強化魔法使いっぱなしなんですよ? 魔法解くと重力に負けちゃうんですからぁ……」

 ふくれっ面を見せるレインは、今日は女性の姿をしている。元が両性・不定形な生物であるため、その日の気分で性別を変えているらしい。

「デニスさんこそ、それっぽっちで足りるんですか? お夕食の前におやつ食べたくなったりしません?」

「しますけど、我慢です」

「どうして?」

「カロリーオーバーすると太るんですよ」

「圧縮貯蔵しておけないんですか?」

「人間なので不可能です」

「じゃあデニスさん、氷河期来たら死んじゃうんですか!?」

「えーと……次の氷河期まで、僕の寿命がもつかどうか……」

「あ……そうですよね。人間、百年くらいしか生きないんですよね……」

「シーデビルって、最長で何年生きるんですか?」

「それが、自分でもわからないんですよ」

「わからない?」

「はい。個体数が極端に少ないうえに、死亡個体が確認されていなくて……」

「ご先祖様の記録とか、無いんですか?」

「祖父母の代で初めて『ネーディルランド国民』として登録されたので、それ以前は明文化された記録が何もなくて。シーデビルがどこでどうやって生きてきたのかは、祖父母も知らないそうなんです。なにぶん、海は広いもので」

「う~ん、スケールがデカい……っと、あれ? お二人とも、食べないんですか?」

「はい。ロドニー先輩もすぐに来ますし」

「カレーのごはんがあと二、三分で炊き上がるそうです」

「なるほど、ごはん待ち!」

 白飯が品切れ中なら他のメニューを、と考えるか、三分待って炊き立てごはんをゲットするか、非常に刹那的な選択問題である。氷河期の到来を心配するレインとは時間の流れが違う。

 そんな話をしているうちに、白飯は無事に炊きあがったようだ。

 ホカホカごはんにアツアツのカレールウ、チキンカツとエビフライが盛られたアルミトレーを持ち、ほくほく顔のロドニーがやってきた。テーブルに置いたトレーには、フルーツヨーグルトとコーンサラダ、野菜ジュースも乗っている。これは『獣人・戦闘員用カレーセット』である。

「あれ? 二人とも、先に食ってて良かったのに」

「先輩と一緒にイタダキマスしたかったんです♪」

「右に同じく」

「なんだよもー! ありがとな! そんじゃ一緒に。いただきます!」

「いただきまーす♪」

「いただきます」

 品よく綺麗に食事するマルコ、豪快にかき込む『良い食いっぷり』のロドニー、心底おいしそうに料理を頬張るレイン。

 それぞれ個性的で、見ているだけで楽しくなる。そんな食事風景を眺めているうち、デニスは何も考えずにこんな提案をしていた。

「今度みんなでご飯食べに行きませんか? アストリンゼントバレーに、ちょっとマニアックな『ナイフバー・エッジ』ってお店があるんですけど……」

「ナイフバー?」

「はい。ダーツバーとかゴーレムプロレスバーとか、飲みながら遊べるお店ってあるじゃないですか。あれの投げナイフ版なんです。そこがフードメニューも充実してて、結構おいしいんですよー」

「マジかよ! 面白そうだな!」

「行きたいです! 投げナイフ! 私、けっこう得意です!!」

「私がご一緒してよろしいのでしょうか? 護衛の方も同伴することになりますし、お店の規模によってはご迷惑になることも……」

「大丈夫だって! この間みたいに、いきなり新旧『無敗王』バトルとかありえねえだろうし!」

「あ! あれ、僕も別のバトルリングで観てましたよ! いいなぁハドソンさん! 生で観たんでしょう!?」

「おう。生も生。最前列だったぜ!」

「うらやましすぎる! 僕もファントムブラッドに会いたーいっ!」

「あ、じゃあ、呼ぶ?」

「え?」

「いや、あの人、式部省の要人警護部隊だからさ。前回もこっちから指名して出てきてもらったんだよ。たぶん来てくれると思うけど……」

「ハドソンさん!」

「なんだよ?」

「サイン帳とか記念撮影用のカメラとか、持って行っていいですか!?」

「いいんじゃねえか? 俺からも頼んでやるよ」

「ありがとうございますっ!!」

 と、勢いよく頭を下げたデニスは、うっかり皿に顔を突っ込みそうになった。そんなデニスを寸でのところで止めたのは、片手にカレーセットを持ったベイカーである。

 デニスの襟首をガシッと掴んだまま、呆れたように肩をすくめる。

「なにやら面白そうな話と思って来てみたら……コンソメスープで顔を洗う気か?」

「す、すみませんベイカー隊長……嬉しくて、ちょっと勢いつきすぎちゃって……」

「そこ、空いてるか?」

「あ、はい。さっきまでいた人、もう食べ終わって帰ったみたいなんで……」

「では、失礼する」

 ベイカーはデニスの隣に腰を下ろし、ロドニーよりさらに大きな『獣人・戦闘員用カレーセット/大盛』を食べ始めた。

 雷獣族は本来小食だが、ベイカーの場合、非常時への備えとして魔導式バッテリーに常時エネルギーをチャージしている。強化魔法を使い続けているレイン同様、非常に多くのカロリーを必要とするのだ。

「先ほどの話題だが、俺も参加させてもらって構わないかな?」

「もちろんです。でも、まだいつ行くか決めてなくて」

「今夜は駄目かな? ちょうど予定が空いているんだが……」

「僕は大丈夫ですけど、皆さんは?」

「俺も空いてるぜ」

「私も」

「私は『プリンセス・ナナ』の新刊を読み耽る予定でしたが、変更します!!」

「決まりだな。で、護衛の指名の件だが……」

 五人は詳細を煮詰めつつ、食事を続けた。

 このときベイカーとロドニーがごく自然に、特に何も言わぬまま野菜ジュースとフルーツヨーグルトを交換しているのを見て、マルコはこう思った。

 幼馴染にはまだ勝てないな、と。


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