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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある凡人と変人の話

作者: 昼寝枕

俺は自分のことを平凡だと思っている。

ごくごく普通のサラリーマンの親父と、パートとたまにフリーマーケットで自分で作った小物なんかを売ったりしているおふくろの二人とそんなに都会でもない、かといってものすごく田舎なわけでもない場所に住んでいる。

高校では成績は中の中、特に顔がいいというわけでもなく、モテるわけでもない。

そんな俺には隣の家に住んでいる幼馴染がいる。

そいつとは保育園に通うくらいのころからの知り合いで、高校まで同じ学校に通っている腐れ縁のような奴だ。

見た目もよく、文武両道ではあるが、そいつは変わり者で、昔っから自宅の庭で木剣を使って素振りをしては

「僕は将来勇者になるんだ。きっとそのうちこの世界に魔王が攻めてきて、世界をめちゃめちゃにしようとする。その時、僕がかっこよく世界を救うのさ」

なんてわけのわからないことを言っていた。

最近は毎日のように

「早く魔王来ないかなぁ、早く世界の危機を救いたいよ」

と、言っている。

俺自身は平凡だが、唯一、こいつと幼馴染の腐れ縁が続いていることだけが平凡ではない箇所、といえるかもしれない。

魔王なんてそんなゲームや物語の中にしかいないような架空の生き物が攻めてくるなんてそんなこと本気で思っているらしいこいつは、俺に対して常々

「大丈夫だよ。もしも世界が危機を迎えたとしても君のことは僕が絶対守るからね。まあ、世界自体僕が救っちゃうんだけどね」

と、これまたお花畑な発言を度々してきていた。


まあ、俺はこいつの話ははいはいと言って適当に流しとけば別にいいや、とずっと思って生きてきたわけだが。


…ある日のことだった。


その日もいつもと変わらない、ごくごく普通な、本当に平凡な日になる予定だった。

朝から、学校に行くために家を出た、その時だった。

空が急速に暗くなり、ゴゴゴゴゴ、と地鳴りのような音を立て、割れ始めた。

そして、その割れ目から無数のごみのようなものが降ってきたのだ。

何だ何だと空を見上げる人々。俺も口をぽかーんとあけて空を見上げていた。

ごみのようなものが段々とこちらに迫ってくる。

段々と輪郭がはっきりしてきたそれを見て、俺は驚き、目を見開いた。

ねじれた角を頭から生やし、黒い翼にしっぽまでついている。

それはまるで物語やゲームの世界に出てくる悪魔の姿にそっくりだった。

「なんだよ、あれ・・・」

呆然と呟いた俺の耳には、やがて、悲鳴のような声が聞こえてくるようになる。

段々と悲鳴が迫ってくる、周りにいた人々は次々と逃げ始めた。

ヤバイ、あれは絶対にヤバイ。

そう思って俺も逃げようと後ろを振り返った。


…すると、そこには目をキラキラと輝かせた幼馴染の姿があった。

「・・・つ、ついにキター!!!」

そいつは興奮して叫ぶと、一度家の中に戻り、古びた一振りの剣を手にして戻ってきたではないか。

恐怖と混乱から、俺はそいつに

「何やってんだよ!早くお前も逃げろ!!」

そう叫んだのだが、そいつは俺の言葉を気にもせず、

「よっしゃー!悪魔退治としゃれこむぜ!」

と、近年まれにみる生き生きとした表情を浮かべ、その悪魔の群れに向かって走り始めた。

「あいつ、やっぱおかしいって!!!」

そういいつつ、俺も幼馴染の後を追って走り出す。

もちろん、悪魔を倒そうとかそういうことじゃない。

もしもあいつがあの悪魔たちに殺されでもしたら、近くにいたのに止められなかった俺はあいつの両親になんていえばいいのかわからない。だから、あいつを強引にでも連れ戻して一緒に逃げるためにあいつの後を追ったのだ。

「お前、ふざけんなよ!あんなわけわかんない奴らに敵うわけないだろ!とっとと回れ右して逃げるんだよ!」

そう言う俺に対し、あいつは

「何言ってるんだよ。大丈夫だって!あ、でも危険だから君は僕から離れないでね」

なんて余裕の表情で言ってくる。

何がどう大丈夫なんだ、なんていう俺の気持ちを察することもなく、あいつは悪魔のもとにたどり着いた。


そこには、まさに地獄絵図のような光景が広がっていた。

建物は破壊され、悪魔は人を傷つけている。中にはすでに貪り食われている人もいる。

あまりの光景に、俺は吐き気をもよおした。というかその場で吐いた。

悪魔がこちらに気づく。

幼馴染はこんな光景を見ても余裕の表情でゆっくりと剣を鞘から抜いた。

悪魔がこちらに襲い掛かってくる。

…終わりだ、俺の人生、こんなところで、しかもあんなのに食い殺される形で終わっちまう。

そう思うと恐怖で腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。

だが、次の瞬間、信じられない光景が俺の目の前に広がった。

幼馴染が、…あいつが悪魔に向かっていったかと思うと、一瞬で悪魔たちは切り刻まれ、悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちる。

「・・・はっ?何、これ」

俺が呆然と呟く間にも、あいつは次々に悪魔を倒していく。

あっという間にその場にいたすべての悪魔を倒すと、生き残っていた周りの人々から歓声が上がった。

「ありがとうございます!助かりました」

そう泣きながら喜ぶ人に

「いえ、勇者として当たり前のことをしたまでです」

と、謙遜したようにいうあいつの姿を見て、

「・・・何言ってんだ、あいつ・・・?」

と、思わず呟いてしまった。

ともかく、その場はなんとかなったのだが…


『ほう、勇者か。面白い』

突然、空から重圧感のある声が響いてきた。

たったそれだけしゃべっただけで圧倒的な恐怖を与えてくるその声に、俺は少々ちびってしまった。

「何者だ!姿を見せろ!!」

幼馴染はというと、もうノリノリでそんなことを言っている。

『ふっふっふっ。そうあわてるな、勇者よ。私は魔王。この世界を滅ぼすために来てやったのだ』

「って、魔王本当におるんかい!」

もはや恐怖やらなんやらでわけがわからなくなった俺がついつい叫ぶと、

『ほう、勇者のほかにも威勢のいい人間がいるのだな。面白い』

その声が響くと、突然俺はシャボン玉のような黒い膜で覆われる。

「・・・!!・・・・・・!!!!」

膜の外で幼馴染が何かを叫んでいる

『どうやら、彼女は君にとってとても大事な存在のようだ』

…あ、一つ言い忘れていたが、俺は女だ。

『勇者よ、一つ勝負をしようではないか。もしも君が日暮れまでにわが居城へたどり着けたら彼女を返してやろう。だが、そうでなければ・・・フフフ』

そう、声が響く。あいつは顔色を変え、何か叫んでいた。それが最後に覚えている光景だった。


…目を覚ますと、俺は素っ裸で台の上に寝転がされていた。

逃げようとするが、手足を拘束されていて動くことができない。それでも何とかしようともがいていると、突然台の横に人が現れる。

いや、そいつは人じゃなかった。ものすごく整った顔をしているが、その顔は…ってか肌は薄紫色だし、頭にあの悪魔たちと同じような角は生えてるし、ついでにいうなら羽も生えてて明らかに人間じゃなかった。

「手荒な真似をして済まないね」

妖しく笑うそいつの声には聞き覚えがあった。

「・・・あんたが魔王か。なんだ、部下と違ってイケメンじゃん」

怖かったし、全裸を見られて恥ずかしい気持ちもあったけど、それを隠すために余裕があるぞ、とハッタリをかましてみる。

「ほう、なかなか度胸がある。さすが、勇者のパートナー、といったところか」

「はあ!?パートナー!?誰がいつあいつのパートナーなんかになったってんだよ!」

そんな俺の言葉は無視をして魔王は続ける

「君には彼にさらなる絶望を与えるための駒となってもらうよ」

そう言うと魔王の両手から妖しく、どす黒いオーラがあふれ出す。

「無事に返すとは約束していないのでね!」

そういって魔王は俺の胸のあたりに両手を突き出してきた。

「あ、あああ、きゃあああああああああああっっ!!」

内側から段々と何かが変わっていく。

そんな感覚に囚われながら、俺は悲鳴を上げ、気絶した。


しばらくして目を覚ますと、隣には玉座に座った魔王がいた。

「やあ、起きたかい、かわいい子よ」

魔王の言葉に、俺は、きめぇ、と返そうとしたが、何故か言葉がでない。かわりに、

「はい、魔王様」

と、どこからともなく女性の声が響く。

「どうやら彼は本当にわが居城までたどり着いたようだ。ならば、私も迎える準備をしないとね」

そういって、俺のあごに手をかけてくる、やめろ、と振り払おうとしたが、体が動かない

「魔王様、貴方のことは私がお守りいたしますわ」

てか、なんだよこの声。なんとなく俺に声が似てて気持ち悪いんですけど。

そんな会話を聞かせられながら、どのくらい時間が過ぎただろうか。


「来たか」

魔王の声に俺は扉を見る。扉が開くとそこにはあいつが…幼馴染が立っていた。

朝見たときには見慣れた制服姿だったのに、何故かちゃっかり鎧を着こんで、盾まで持っている。剣もあのおんぼろではなく、すごくきれいでかっこいいもの…まるで勇者が持っているようなものに変わっている。

だが、そのピカピカの鎧と盾に映り込んだすがたを見て、俺はあれっ?と疑問に思った。

鎧に映り込んでいるのは魔王と、なんかその側近っぽいエロい恰好をした悪の魔導士風の人間に近い姿かたちの女悪魔だった。俺の姿は映っていない。

「ほう、場内に捕えていた天使を解放したか。しかし、天使どもよ。そんな鎧などに姿を変えて力を与えたところでところでその坊やが私に敵うとでも思っているのかい?」

『黙りなさい、魔王。これまで数多の世界を壊してきたあなたも、ついに終わりを迎える時が来たのです』

剣から声が聞こえてくる。なるほど、あのピカピカの装備は天使が姿を変えたものらしい。

って、そんなことはどうでもいい。俺、どこにいんの?

そう思っているとあいつが

「彼女はどこだ!約束通りたどり着いたんだから、あの子を解放しろ!」

と叫ぶ。

すると魔王は、

「何を言っている。君の大切な人ならすぐ目の前にいるではないか。なあ?」

と、魔王は私に目配せしてくる。

「ええ、そうですわね、魔王様。…あなた、まさか私のことがわからないのかしら?」

そう、声が聞こえると、幼馴染は目を見開いた。

「まさか…」

「そう、そのまさかさ。無傷で返すなんて約束はしていないからね。私の魔力を彼女に注ぎ込んでね。少々姿を変えさせてもらったよ」

そういって魔王は俺を引き寄せた。

…いや、あいつの鎧とか見てると魔王が引き寄せてるのあの恥ずかしい恰好したおねーさんなんですけど。もしかして…

「ああ、この姿は気持ちがいいわ。こんな姿にしてくださった魔王様には最大のお礼をさせていただかないと。・・・そう、貴方の首を取ってね!!!」

やっぱりーーー!!!このはっずいかっこしたねーちゃん、俺だーーー!!!

俺が心の中で叫んでいる間にも身体はあいつに向かって構えをとる。

「嘘だ、お前があの子のはずがない!!第一、あの子と全く顔も、体型も違うじゃないか!!」

騙されないぞ、と剣を構える彼に、

「フフフ。あのような凡庸な顔立ちでは私の隣に立つのに相応しくなかったのでね。少々顔立ちや体つきを整えさせてもらったよ」

そう言って魔王は俺を変化させた時の様子を映し出す。

おい、確かに俺はそんなにパッとする外見じゃないが、それにしてもそれ、本人目の前にして言うことじゃないだろ!!てか、素っ裸の俺の姿映すのやめろ、恥ずかしい!!!!

心の中でどれだけ叫んでも身体はすでに魔王のせいで魔王の思うとおりにしか動かせなくなっている。

そして、段々と変化していく俺の姿を至極まじめに見つめるあのバカは、段々と怒りの表情をにじませ、

「くっそおおおおおおおおお!!!」

と叫んで魔王へ突っかかっていく。だが、

「魔王様には指一本触れさせません!!」

なんて言いながら俺の身体が魔王をかばう。

「くそっ、君はそこまで魔王に侵されてしまったのか」

いや、身体が勝手に動いてるだけですからねー?

なんて俺の心の声が届くわけもなく、

「・・・すまない、世界の平和のためだ。本当は君を倒したくなんかない。でも僕が君を倒しても・・・きっと君は世界のためなら仕方がないって言ってこんな僕のことを許してくれるよね・・・」

そんなことを涙を浮かべて言っている。

いや、ちょっとくらい助けようとする姿勢を見せろよ!お前、俺を助けに来たわりに俺を切り捨てるの早すぎじゃね!?

そう思っている間にも俺の身体とあいつは激突する。

そして俺たちが戦っている姿を見て楽しそうに笑う魔王。

俺はなんか悲しくなってきた。なんでこんなわけのわからないことに巻き込まれて、しかもこんな自分の世界に浸って悲劇のヒーローぶってるバカに倒されにゃならんのだ…

このバカ、手加減すらしようとしないし。

そんなこんなで、俺は動けなくなるまで幼馴染のバカ野郎に痛めつけられ、朦朧とする意識の中で、魔王とあいつの最終決戦を見守ることとなった。

「ほう、愛するものを自らの手で倒したか。今までの世界の勇者は皆それはできないと言って泣き叫び、愛する者の手にかかったものだがな。少しは骨があるじゃないか」

そんなことを言っているバカ魔王に、

「・・・彼女ならそれが世界のためになるのなら、とわかってくれているはずさ。それに、彼女はまだ死んじゃいない。なぜなら僕の心の中で、まだ僕のことを励まし続けていてくれるから」

なんてトンデモな返答するバカ。自分の世界に浸っているだけに飽き足らず、俺、すでに死んだ扱いされてるし…

そう思っていると、

「君もすぐに彼女のもとへ送ってあげよう!!」

バサッとマントを翻し、魔王の攻撃が始まった。

あいつも魔王への攻撃を盾で受けるわ剣で斬るわ頑張って抵抗するがさすがに前座の俺と戦った直後で大分体力も減っている。

ついにあいつが膝をつき、へばってしまったところに、

「これで終わりだっっ!!!」

と魔王が止めの一撃を繰り出す。

次の瞬間、あのバカが身に着けていた鎧・盾・剣がまばゆい光を発する。

それに魔王がひるんだ隙に、

「たあああああああああああああっっ!!!」

渾身の力を振り絞ったあいつの光り輝く一撃が魔王を真っ二つに切り裂いた。

「そ・・・んな・・・ま・・・さ・・・か・・・」

それが、魔王の最期の言葉になった。

魔王の身体は光の粒となって天へと昇っていく。

それを見届けると、幼馴染の身に着けていた装備品が光を放ち、ゆっくりと天使の姿へと変貌していく。

「勇者よ。ありがとう。これでもう今後この世界だけでなく、他の世界も魔王の脅威にさらされることはなくなりました」

「勇者よ。あなたのおかげです。お礼にあなたの願いを一つだけかなえて差し上げましょう」

「さあ、願うのです」

満身創痍の幼馴染を取り囲み、3人の天使が代わる代わる口にする。

「・・・じゃあ・・・」

あいつが願い事を言おうとした。そこで俺の意識は完全に闇に飲み込まれたのだった。


スマホのアラームが鳴り響く。

「っ!?」

俺は飛び起きると、スマホを見て時間を確認した。

朝の、いつも俺が起きる時間だ。周りを見渡してもいつも通りの見知った俺の部屋が広がっている。

「・・・えっ・・・?いままでの、夢・・・?」

俺は呆然と呟く。

あんななんかちょっと恥ずかしい感じの夢を俺なんで見てたの・・・?

よくよく思い出してみても恥ずかしい、そんな夢。まあ、あんなの現実に起こるわけないよな。

俺はとりあえず顔を洗うために洗面台へ向かう。そして、朝飯を食べ、学校へ行くために家を出たのだった。


家をでて、隣の家の前を通ると、ちょうど幼馴染のあいつが家を出たところだった。

あいつは俺に気づくと、

「おはよう!いやー、今日も平和でいいね〜。やっぱり平和が一番だよね」

と、驚くようなことを口にした。

「・・・なんか、頭でも打った?もしくは悪いもんでも食べたのか?」

「えー?そんなことしてないよ?ほら、やっぱり世界の危機を勇者が救う、なんて夢物語いつまでも見続けるより平和がいいよね!」

「・・・本当に大丈夫なのか・・・?」

俺が言うと、彼はにっこりと笑って、

「まあまあ、早く学校に行こう!」

そう言って俺の手を取り歩き出したのだった。

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