第9話
あれからシャドーゲイザーは一度も業火を使わない。
いくら小鬼が湧き出ようとも紅い文字は目の前には浮かばず、銀色に輝く棍棒で仕留めた。
やはり、連続して使えるような代物ではなかったのだろう。
いくらシャドーゲイザーに使えと命令しても聞かず、何も起こらない。
あの時、見た見知らぬ文字を真似て地面に描いてみたり、頭の中で炎と文字を思い浮かべたりはしたが手掛かりにさえならない。
もちろん、私の魔力で発動した事は嬉しく思う。
我を忘れる程、狂喜した。
しかし、人は欲の塊だと聖書に書かれていたが正にその通りだ。
私の魔力で魔法が発動した事に喜んだ私は次に自分の意思で発動させたいという気持ちが強くなった。
詠唱も素材も儀式さえも必要としない悪魔の魔法は次に使える時間が恐ろしく長いのか。
何度も、あの火を見たい。
他の悪魔の魔法を見たい。
見て学んで自身の意思で発動させたい。
ならば、どうするべきか。
シャドーゲイザーを成長させれば良い。
憑依型の悪魔は成長が進めば、契約した相手への恩恵が強くなる傾向にある。
悪魔の属性に近づいたり、容姿が変わる事もあるようだ。
ならば、シャドーゲイザーが成長すれば、私は自ずと悪魔の魔法を使う術を知るだろう。
あの受付の冷徹そうなケダモノはその点、素晴らしいケダモノだ。
あの魔虫討伐を達成してからクエスト板にまだ貼られていないクエストを融通してくれるようになったのだ。
まだDランクである為、迷宮は第一層しか入れないが、小鬼以外の討伐依頼を薦めてくれる。
私にとってはシャドーゲイザーの成長に必要な魔素を得られるならば、どんな相手でも良い。
例え、それが魔石も落とさないような魔物や大量発生する魔物でも、だ。
今回のような特殊な魔物の討伐依頼も魔物によれば喜んで受けよう。
私は叫びながら逃げ回る幼子の頭部に目掛けて銀色に輝く棍棒を叩きつける。
歪曲し鋭い切っ先は幼子の頭を容易く砕き…黒くなって弾ける。
行き止まりに逃げ場を失い立ち止まって泣き出した残りも銀色に輝く棍棒で殴打し倒す。
悪戯妖精、見つけられたら逃げ出す、幼子のような見た目の魔物だ。
この魔物は見た目と逃げ足の速さから冒険者に敬遠されてる。
見た目や言動は幼子にしか見えないがれっきとした魔物で遠距離からの小規模な魔法を打ち込んでくる。
魔法といっても眠気を誘うものや、大きな音を出すだけで直接的な攻撃はしない。
しかし、その悪戯は迷宮の中では致命である。
戦闘の際は少しの隙が死を呼び込む。
迷宮内で眠らされる。
大きな音に惹かれて魔物が集まりだす。
眠気や音で集中できずに傷を負うという冒険者が多い。
そして、遠距離からの魔法である事、悪戯妖精自体の足が速い事から、見つける前に逃げられる。
そして、また遠くから悪戯を仕掛けてくる厄介な魔物だ。
言葉は話せないが追い詰めれば泣いたり怯えたりと人の幼子と同じような言動で倒す事を戸惑えばすぐに逃げられる。
そしてまた遠くから悪戯を仕掛けるのだ。
だから見つけ次第、討伐する事が推奨されてはいるが、非情になりきれない者が多い。
中には捕まえて外で売り払う馬鹿も居るらしいが…殆どは見つける前に逃られるか、見つけても見逃してしまう。
しかし、私は躊躇しない。
悪戯妖精に限らず、魔法を使う魔物は倒された時により多くの魔素を周囲に拡散させる。
シャドーゲイザーの成長に欠かせない貴重な餌なのだ。
それに、魔物特有の魔力を悪戯妖精から感じ取れる。
だから、私は躊躇せず棍棒を振り下ろせる。
幼子の姿をした魔物を倒しても心は痛まない。
これであいつらに復讐する事に繋がるならば、私は進んで実行しよう。
さて、クエストでは後3匹か。
魔石を拾い、私は湧き出る小鬼を始末しながら次の獲物を探すべく、迷宮を歩き出した。
▽▽▽▽▽
うわ、ご主人容赦ないな!
普通に考えてさ、園児か低学年ぐらいの子に武器で殴るとかできないよ。
見た目も可愛いし、倒して黒く弾けるまで魔物かどうか判別できないし。
あの台所の悪魔に火の印術を使って全滅させてから、人が避けそうなクエストばかりをあの受付の男から受けてるけど…ご主人、あの人に利用されてない?
便利な掃除屋扱いされてない?
…うん、物騒な掃除屋だね。
そりゃあさ、あの絶望の壁は半日では解決できる訳がないけどさ!
1週間を目処にしてたクエストを半日で解決とは凄いって言葉に乗せられたご主人もご主人だよ。
あれよあれよという間に受付の男から紹介されたヤバそうなクエストを受けるようになっちゃってさ!
チョロすぎ!
絶対に悪い男に引っかかって身を滅ぼすよ、ご主人!
いやだよ、俺は。
そんな悪質な男に利用されて終わる人生は。
でも、あれからもう1週間は経ってるのか。
はぁ、長いような短いような。
はは、ほぼ1日迷宮の中に入ってるから時間の感覚が狂ってしょうがないけどね。
休まずにずっと魔物を倒し続けるご主人は凄いと思うけど…もっと女の子らしい生き方をした方がいいんじゃない?
パンとチーズだけの粗食に着替えもせずに宿屋で寝ちゃうし、お風呂にも入らない。
着替えは買う暇もないのかもしれないけど、迷宮で動き回った格好でベッドに横たわるのはどうかと思う。
お風呂は入らない文化かもしれないけどさ。
…臭い、大丈夫?
ご主人、自分だと分かり辛いんだよ、自分の体臭は。
レベルも19まで上がった。
段々と上がり難くなってるせいか中々上がらない。
最初から感じてはいたけど…スキルを習得するのは慎重になった方が良いかもしれない。
今回は衛生兵ツリーから衛生兵の極意、戦後手当、リザレクト、HPブースト。
印術師から氷の印術、雷の印術、印術の輝き、印術の盾、印術の導き。
今までの纏めるとこんな感じだな。
〜〜〜〜〜
【衛生兵ツリー】
⚪︎衛生兵の心得
医術の知識を深め、回復効果が上昇する。
効果:スキルによってHPを回復する時、その効果が上昇する。
⚪︎衛生兵の極意
医術の知識を更に深め、回復効果が上昇する。
効果:スキルによってHPを回復する時、その効果が上昇する。
⚪︎キュアLv1:MP3
対象を簡易な医術で治療する。
効果:対象のHPを小回復。
⚪︎リフレッシュLv1:MP5
対象に状態に対して適切な処置を行う。
効果:対象の状態異常を解除。
⚪︎リザレクトLv1:MP8
死が直前に迫った者を治療し蘇生する。
効果:対象を戦闘不能から回復する。
⚪︎集中治療Lv1
集中して効果的な治療を行う。
効果:次に使用するスキルの回復量が上昇。
⚪︎戦後手当Lv1
戦闘後、簡易な処置をして傷を治す。
効果:戦闘終了後、HPを小回復。
⚪︎鎚マスタリーLv5
鎚を用いての戦闘技術が向上する。
効果:鎚装備時、攻撃時の威力が上がる。
⚪︎ヘヴィストライクLv1
鎚の重さを利用して敵に打ち付ける。
効果:相手に強力な一撃を与える。
⚪︎HPブーストLv1
体を鍛え抜き活力の増幅を図る。
効果:HPが増量する。
⚪︎MPブーストLv2
精神を研ぎ澄まし魔力の増幅を図る。
効果:MPが増量する。
⚪︎MPリカバリーLv1
精神を落ち着かせ魔力の回復を図る。
効果:一定の時間経過によりMPが回復する。
【印術師ツリー】
⚪︎印術師の心得
印の知識を深め、印術の効果が高まる。
効果:属性攻撃、属性防御の効果が上がる。
⚪︎印術マスタリーLv4
印術を用いての戦闘技術が向上する。
効果:印術使用時、威力が上がる。
⚪︎火の印術Lv4:MP8
火の印術を描き敵を攻撃する。
効果:相手に火属性のダメージを与える。
⚪︎炎の聖印Lv1:MP6
聖なる炎の印を描きその場の領域の属性を変化させる。
効果:火属性の効果を高め、相手の火属性耐性を弱める。
⚪︎氷の印術Lv1:MP8
氷の印術を描き敵を攻撃する。
効果:相手に氷属性のダメージを与える。
⚪︎雷の印術Lv1:MP8
雷の印術を描き敵を攻撃する。
効果:相手に雷属性のダメージを与える。
⚪︎印術の輝きLv1:MP4
印術により多くの力が宿るように工夫する。
効果:印術の効果を高める。
⚪︎印術の盾Lv1
印術で相手の攻撃を相殺する。
効果:確率で属性攻撃を無効化する。
⚪︎印術の導きLv1
印術の力を理解し相手の弱点を突く。
効果:相手の弱点属性で攻撃をすると威力が上がる。
⚪︎MPブーストLv2
精神を研ぎ澄まし魔力の増幅を図る。
効果:MPが増量する。
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衛生兵の極意を習得したら?表記がHPブーストに変わった。
それと毎晩、寝る前に炎の聖印を使った影響か、MPブーストが2つともレベル2に上がってた。
やったね。