第4話
は、入っちゃったよ、入っちゃったよ。
マジで装備を借りずに迷宮に入っちゃったよぉ!!
もぅ、どうする気、ご主人!?
死ぬ気?
死ぬ気なの?
…共倒れなんて嫌だぁ!!
迷宮には魔物がウヨウヨしてるってご主人が話してたけど、まだ魔物に見つかってない。
迷宮の中は洞窟のような作りで剥き出しの土しか見えないのに不思議とうす明るい。
迷宮全体が光ってるのかも。
見えやすいのは助かるけど、そのせいでご主人がズンズン奥の方へ進む。
もうヤダー帰ろうよ、ご主人。
逃げるなら今だよ、ご主人。
奥に進めば進むほど帰り道が長くなる。
長くなれば魔物に遭う確率が上がる。
イコール死ぬ確率が高くなる。
ゲームなら敵の情報を死んで覚えるタイプもあるけど、ここは現実、前世とは違う異世界だから自然の摂理が違うかもしれないけど、死んだら終わり。
いや、車に轢かれた後、悪魔として蘇った俺の言う事じゃないかもしれないけれど。
!?
で…出た…
あわわ…出たよ、ご主人!!
迷宮の壁が崩れて中から人型の魔物、数は5体出てきた。
小さな子供の大きさで緑色の体に腰巻き1枚、雑な造りの木の棍棒を1本づつ所持。
もしかして…ゴブリン?
逃げて、ご主人!
ゴブリンって言ったら女を犯すイメージが強い。
ご主人、顔はきつめだったけど、美少女の枠に入るからゴブリンに見つかったら犯されてゴブリンの子を孕まされ、一生ゴブリンの苗床として生かされる。
そして俺はゴブリンから犯されるご主人の視点を永遠と見せられるんだ…
うわ、気が狂いそう。
この世界のゴブリンは違うかもしれないけど、敵意マシマシ、小さいけど数は向こうが上、勝てる戦いじゃないよ。
え?
我らの糧となれ?
ちょ、何突っ込んでるのぉぉ!!
あー、もう!
脳筋馬鹿ご主人!
第2の人生が一蓮托生でゴブリンに犯されて終わりだなんて嫌だからね!
ゴブリンに突っ込む視点をテレビをとうして見ながらタブレットを探した。
タブレットはどこ…あった!
HPは…おぉ、まだ満タンだ。
…凄いな、ご主人。
ゴブリンから棍棒を奪ったようでそれで応戦してる。
どっかで戦闘訓練でもしてたのか、ご主人。
棍棒で殴る、ゴブリンの攻撃を避けてその流れで蹴る、殴って蹴って…
うーん、ご主人の視界しか頼れる情報が無いから分かりにくいけど、外からの音が小さくなってる?
つまり、敵を倒してる?
お、おぉ!!
ついに立ってるゴブリンは見えないぞ!
5体全て倒れてる姿がテレビに映ってる。
HP満タンのまま5対1の勝負で勝てるなんて凄いな、ご主人!
勝算があってゴブリンに突っ込んだのか。
本当に凄い。
俺が同じ事をやれって言われたら無理。
ん?
ゴブリンが黒く染まって…弾けた!?
なんだ!?
最後に自爆攻撃!?
HPは…減ってない?
テレビが真っ黒になって何にも見えない。
何が起きたの?
ご主人は無事?
いや、HPが減ってないから無事だとは思うけど。
やっと黒い霧みたいなのが晴れた。
もぅ、なん…だった…え?
ゴブリンが壁からゾロゾロと出てきてる。
…うそ、連戦?
▽▽▽▽▽
素晴らしい。
体が軽い。
まるで今まで泥に包まれていたのかと思う程軽やかに動ける。
初めて使う武器にも関わらず、長年使ってたかのような感触で小鬼から奪い取った棍棒を振り回せる。
小鬼の動きが遅く見え避ける事も容易い。
文献では小柄で素早く、集団で現れる為、注意が必要と書いてあったが、今の私には力を得る為の餌でしかない。
全てはシャドーゲイザーと契約したが故。
憑依型のシャドーゲイザーの恩恵は高い治癒能力以外に身体能力の強化もあるようだ。
思い通りに動いて攻撃を躱し、反撃の一撃で魔物を仕留める。
その流れるような行程に快感すら感じる。
何度でも繰り返していたい。
無尽蔵とも思える持久力も素晴らしい。
小鬼の集団を数回に渡って狩り続けた。
倒せば迷宮の壁から次から次へと現れる。
文献でも読んだが、ごく稀に次々と魔物を倒しても追加の魔物が現れる現象が起こるらしいが今のがそれだろう。
しかし、動き続けた私は息を切らしておらず、まだ余裕すらある。
以前の私なら考える事もできない状況だ。
倒して魔素に代わり、弾けた小鬼は親指ほどの小さな黒い石を落とした。
なるほど、これが魔石の原石か。
私が知っているのは綺麗にカットされ人が使えるように調整された物。
この程度の大きさでは大した額にはならないだろうが、ランクと今夜の食事の為、全て余さず回収するか。
丁度、シャドーゲイザーと契約した際に手に入った肩掛けカバンに入れるとしよう。
…ふむ、やはりカバンのそこが見えない。
入れた後もカバンの重さは一切変わらない。
与太話だと思っていたが、これはもしかしたら見た目以上に物を入れる事ができるカバンかもしれないな。
なんという幸運、身体能力以外に素晴らしいカバンさえ手に入るとは。
ならばこの白いコートにもなにか仕掛けがあるのでは?
ダメージ軽減、状態異常耐性、魔法の衣類によくある性能の2つ。
確認したい、どんな素晴らしいものなのか知りたい。
しかし、魔物の攻撃をわざと当たるのは愚の骨頂。
私に自滅する趣味は持っていない。
その時が来るまで楽しみにしているとしよう。
あぁ、悪魔と契約すればこんなにも世界は変わるものなのか。
全てが良い方向に変わった。
本当に素晴らしい。
…小鬼が現れたか。
1体だけ武器が違うな。
1番遠い場所に現れた小鬼はボロボロの弓矢を持っていた。
あれは、小鬼弓兵か。
確か矢には麻痺毒が塗られていて、当たれば体が思うように動かなくなるだったか。
流石に動きが鈍れば小鬼の集団に嬲られるだろう。
矢には細心の注意をして避けねば。
他の小鬼からの攻撃を覚悟して小鬼弓兵を真っ先に潰すか。
…私も魔法が撃てれば怖くないのに。
私は駆け出した。
小鬼弓兵は私に向かって矢を放ち、小鬼は私に殺到する。
矢を棍棒で叩き落とす。
1体目を出した足で蹴り飛ばす。
2体目が1体目とぶつかって怯んだ隙に棍棒で殴る。
3体目を振りきった棍棒を返す形で殴る。
4体目の顎に向かって蹴り上げて矢の肉壁として利用する。
小鬼弓兵が次の矢を構える前に私は棍棒を振りかざし殴った。
小鬼弓兵が魔素となり弾けた瞬間、私の体が光った。
もしや、シャドーゲイザーが成長したのか。
ふふ、良いぞ…
もっとだ…もっと強くなろう。
私は背後で倒れていた小鬼を仕留め小鬼と小鬼弓兵の魔石を拾うと迷宮の奥へと進んだ。
さぁ、次の獲物はどこだ?