第3話
なけなしの金銭でこの迷宮都市に来たわ。
悪魔は魔素を吸収し成長する。
成長すればより私が強くなる。
強くならなければいけない。
憑依型の悪魔は取り憑いている為、直接魔素を浴びる事ができず、他の悪魔に比べ成長が遅い部類。
魔素は自然界にも存在するが、人に影響が及ばない程の微々たる量だ。
時間経過で成長するのは難しい。
魔物を倒すと膨大な量の魔素を生み出す。
そして、この迷宮都市は神が試練として作った大迷宮がある。
一説には神は魔物を滅ぼしたが、人が弱るのを防ぐ為に、5つの試練を残したという。
その1つがこの、魔物の大半が封じ込められた大迷宮だ。
魔素は大量に浴びれば人体に影響を及ぼす。
そもそも、魔素とは魔力の素となるもので、その許容量を越えれば魔素は毒と化す。
しかし、私は体質により、魔素の許容量が人一倍大きい。
さらに悪魔が取り憑いているのだ。
魔素の許容量を超える前に悪魔が吸収し、無害化する。
つまり、魔物を倒せば倒すほど、私は強くなる。
ふふ、単純な仕掛けだ。
既に迷宮に入る為の手続きは済ませた。
首にかかっている冒険者組合で受け取った木製のタグに触れる。
最初のDランクの証。
半人前の象徴。
嫌なタグだ。
すぐに白金に登りつめよう。
あいつらに復讐するにはそれぐらいの地位が無ければ話にならない。
ランクを上げるには強い奴を沢山倒して討伐の証となる素材を冒険者組合に持っていけばいいようだ。
しかし、今はこの肩掛けカバンしか入れるような物はない。
早急に稼いで大きめのカバンを買わなければ。
しかし、今回は初回。
シャドーゲイザーの能力も治癒能力が高まる以外は未だ不明。
今夜の泊まれる宿賃を稼がねばならない。
冒険者組合の者に聞いた道を進むと武装した人が増えた。
人が多いな。
聞き耳を立てれば冒険者とポーターなる者たちが大半のようだ。
ポーター、話を聞く限りでは迷宮内で荷物を運ぶ職業であるようだ。
なるほど、魔物を討伐しても持ち帰らなければ意味がない。
ふむ、稼げるようになればポーターを利用するのも1つの手か。
…いや、シャドーゲイザーの事を知られる訳にはいかない。
すると奴隷だな。
借りるのではなく、買えるほどの資金、今は現実的ではない。
迷宮へは荒くれ者が並んでいた。
どれも小汚いケダモノだ。
あぁ、私自身も身を清めていないか。
こいつらと同類にまで堕とした恨み、絶対にはらす。
近付きたくもないが、これも復讐の為、耐えてみせよう。
迷宮は小さな祠のような場所だった。
冒険者達はどんどんと入り階段を降りていく。
シャドーゲイザーの能力は少し奥に入った場所で確認した方がいいだろう。
行き来が多そうだ。
「あぁん?
嬢ちゃん、ここは迷宮の入り口だぞ?」
なんだこの節穴は?
首に掛けているタグが見えないのか?
もしや、その目は濁り汚れた宝石か?
こんな輩に構っている暇はない、少しでも早く強くならなければ…
「 …ふん」
「おい、嬢ちゃん!
そんな軽装で迷宮に入れば死ぬぞ!
おい!」
愚か者の声を背中に受けながら私は迷宮の階段を降りて行った。