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シャドーゲイザー   作者: かんからかん
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第1話

その日はなんでもない朝だった。


いつも通りの時間に起きて。

寝惚けながら昨日の残ったご飯を温めて。

最近、ハマってるスマホゲームを片手にダラダラと時間を潰し。

時間が少し過ぎている事に気が付いて慌てて家を出た。


お隣のお爺ちゃんに挨拶をして。

毎日通ってる、コンビニに寄り道して。

ほぼ、毎日会う、おばさん店員に缶コーヒーと菓子パンを手渡して。

すぐ近くのいつもの横断歩道を渡っていた。


あぁ、いつも通り、変わらぬ日常。

そう、あの瞬間までは。


青信号だった。

左右の確認し、車が止まった事も確認した。

温かい缶コーヒーを飲みながら数歩進んだ。


音が聞こえてそっちを向いたら…


衝撃、浮遊感…衝撃。


気が付いたら俺は…倒れていた。

妙に音が遠く聞こえて、目はかすんで。

大切な何かが抜けていく感触だけが嫌にはっきりと理解できてしまった。


何が起こった?

俺は…缶コーヒーを開けて…

横断を歩いて…

音が…


………あぁ、車に轢かれたのか。


現実を理解した途端に眠くなった。

瞼が重い、体が沈むようだ。

なんだか…良い夢が見れそうな気がする。


▽▽▽▽▽


「………召喚されよ、悪魔!」


………え?


「続けて契約を結べ、我が願いを叶えよ!」


………はい?


「我が血、我が肉、我が魂を喰らえ!

我が願いの為に!」


どうしよう、目の前で凄い形相で瘦せぎすな女の子が叫んでるよ。

ボサボサの銀髪を振り乱し、クマが目立つ紫の瞳を血走らせ爛々と輝かせてこっちを見てる。


どうしよ、不気味過ぎて動けない。

まるでホラー映画に出演できそうな人だよ。

思わず腰が抜けちゃった。


…やつれてはいるけれど、見た事ないくらい美人だと分かるけど、雰囲気が怖いよ。

なんか、短剣持ってるし。

え?

何この状況?

うわ、手首を切っちゃった。

血が、血が、え、どうしよ!?


「っ!

我と、契約、せよぉぉお!」


契約!?

訳分かんない!?

血、血を止めないと…

あぁ、どんどん顔が蒼ざめてるってば!


《選択をして下さい》


何を!?

え、契約するかどうかって事!?

するする、何でもするから早く血を止めてあげて!


《選択をして下さい》


違うの!?

ちょっと彼女ふらつき始めたよ?

やばいって、血を流し過ぎたんだ、命の危機だよ!!


《選択をして下さい》


〜っ!

何でも、良いから、彼女を"治して"!


《選択を確認》

衛生兵(メディック)ツリー解放】


何を思ったのか、彼女は再び短剣を振りかざし、傷を増やそうとした。

俺は思わず、手を伸ばした。

でも手の感覚はなくて…

俺の目に見えたのは…


黒い影のような物が彼女の手首に触れた所だった。


っ!?

驚いて身を引こうとした。

けれど、何かに遮られるかのようにぶつかり下がる事はできなかった。

そして、彼女の、触れた手首へと僕は吸い込まれていった。


▽▽▽▽▽


これ以上、逃げるには体が持たない。

まだそんなに離れてもいないのに。

ろくに体を鍛えなかったツケが私を苦しめる。


『使えない』

『呪われた子』

『流石は悪魔公の娘だ』


嫌な言葉が脳裏をかすめ思わず違うと叫びたかった。

だが、ここは下劣なケダモノの巣窟。

私の正体を、いや性別を知れば間違いなく襲ってくるだろう。

今は叫ぶ力さえ惜しい。

ふと鉄の匂いがした。

無意識に食いしばっていたらしい。

これからの事を考えると血の一滴さえも貴重な資源、気を付けねば。


今頃、私は犯罪者として捜索されているだろう。

見つからない内に済ませて仕舞わないと幽閉か病死扱いだ。

それでは駄目だ、あってはならない。

あいつらに復讐するまでは私は化け物になってでも…


せめて、都市を抜けてからやりたかったが仕方ない。


家から唯一持ち出せたこれを使える場所を探さなければ。

人気(ひとけ)が無い場所。

誰にも邪魔されない場所。

この辺りの路地裏で良いか。

手早く済ませよう。


我が血筋の家宝にして悪魔公と呼ばれる所以の物。


『悪魔の書』


この世界の裏に潜む怪物、悪魔を召喚し使役する禁書。

まだ、悪魔の王、魔王が存在し人間と同盟を結んでいた時代に製作された本だ。


悪魔を召喚すれば、発見され次第、殺されるだろう。

だが、これで私はあいつらに復讐する手段が得られるのだ。

例え、人の裏切り者と呼ばれても構わない。

だから…


周りに人が居ない事を確認し『悪魔の書』を開き魔力を込めながら詠唱を開始する。

幼い頃から教えられた詠唱はスルスルと口から出ていく。


召喚した悪魔を逃さないように『悪魔の書』を中心とした結界が張られる。

これで外からの妨害は難しくなる。

もちろん、私は結界の中心にいる。


次に世界の表と裏の境目を薄くする。

空気が変わっていくのを感じる。

表と裏の世界が繋がり出したのだ。

どんどん空気が冷える。

息が苦しい。

何もかもが裏の世界に流れ出した。


これで悪魔を召喚する準備は整った。

最後の言葉を唱えた時、『悪魔の書』が輝き思わず目を瞑った。

瞬きをした次の瞬間にはそれは現れた。


黒い。

まるで光を通さぬ闇が人の形をしたかのような影のような悪魔。

全体的に枯れ木のような細長い体型の人型の悪魔。

目と口の部分だけが穴が空いたように白く、まるで幼子が描いた絵のようだ。


私は使役する為の詠唱を唱えながら血を捧げる為、手首を護身用のダガーで搔き切る。


噴き出る血と鋭い痛みに怯みそうになるが、必死に押し殺し、悪魔を睨む。


悪魔は微動だにしない。

血が足りないのか、血だけでは駄目なのか。

くらりと意識が遠のいた。

駄目だ、今倒れれば目の前の悪魔に喰い殺される。


足りないなら足せばいい。

血だけでは足りないならば指はどうだ、目は、臓腑か?

私はダガーを振り上げた時、悪魔は動いた。


その黒く細い腕はダガーを持っていた方の手に触れ、まるで悪魔は居なかったと言わんばかりに姿を消した。


変化はすぐに起きた。

ダガーで搔き切ったはずの手首の痛みだけでなく、体の全ての痛みがない。

血や泥などの汚れも見当たらない。

さっきまで血を流し過ぎて倒れそうだったのに今は何ともない。


それ以前に逃げる際にボロボロになった衣服では無く、足元まである長めの白いロングコートに肩からは大きな肩掛けカバン、そして、持っていたはずのダガーは何処かに消えていた。


…文献で様々な悪魔を見たけど、この悪魔は憑依型のようだ。

このタイプの悪魔は確か、契約した相手の身体能力を強化したり、異形へと変えたりする者が多い。

傷が治ったのは私の治癒能力を高めた結果だろう。

取り憑いた相手の服装を変える悪魔は聞いた事は無いが。


「…やった、成功した」


思わず声が漏れる。


悪魔を召喚し、戦ってきた事を生業とする家系と悪魔が好む処女の血を捧げたお陰か何の抵抗もなく契約する事ができたようだ。


私はただ成功したという事実に少し惚けてしまった。

我に返った時には結界は消滅し『悪魔の書』は召喚に成功した際にその能力を失い、ただの白紙の本へと変わっていた。


「…ふふ」


急いでここを離れよう。

見つかれば殺されてもおかしくはない。

悪魔を召喚すればその場に悪魔の残滓が色濃く残るからだ。

私は大声で笑いたいのを堪え、その場から歩き出した。


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