1話 プロローグ
背中の柔らかいシーツが心地良い。
けれど正直に言うと、それについてはものすごく慣れないでいる。
高さのある天井も、大きすぎるしっかりとした作りのベッドもそうだ。寝室だというのに広々としていて、静かな室内には、深まった秋のひんやりとした朝の空気が満ちている。ふんわりとした仄かな甘さと、清潔で良い匂いがする。
暑苦しい。
ベッドが上質で最高の寝心地だとか、今は関係ない。というか、無駄に面積を取っているベッドの上が広々としているにもかかわらず、それが起こっている現状を解決するため、ティナは身をよじった。しかし、半分ほどこちらに乗っかるようにして、背中から抱き締めている男の腕が邪魔だった。
すると、彼が「んぅ」と寝惚けた声を上げた。少し身動ぎしたかと思ったら、肩と腹を更にぎゅっと抱き寄せられて熱がこもった。頭の上にある彼の口許が、シーツの上に広がる自分の漆黒の髪に触れるのを感じる。
もしや起きてくれるのかと期待して、ティナは彼の呼吸音に耳を傾けた。けれど体温の高い腕がガッチリと固定された後、目覚めないまま静かな寝息に戻ったのを聞いて落胆した。
重いし、暑苦しい。
もう一度その言葉を思い浮かべていたら、まるで子供がぬいぐるみを抱き締めるみたいに、ぎゅぅっとされて死にそうになった。苦しくて思わず身をよじると、逃げようとしていた足を挟まれて引き戻されていた。
彼は今や手足も長くて、身体も大きい。この寂しがり屋みたいな癖は、どうにかならないものだろうか、と困ってしまう。
この生活が始まったのは、一週間と少し前からだ。
ティナとしては、どうしてこんな事になっているのか、今でも実感が湧かないでいる。同じベッドで、なんだか幼い表情で幸せそうに眠っている美麗な男は、彼女の幼馴染で――
そして、正式に婚姻届も出されて『夫』になった人だった。