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第2話

さて、状況を少し整理してみよう。


今、俺は少なくとも見覚えのない場所に居て

目の前には懐かしさは感じるけど見覚えのない美少女が居て

その子に人間界の住人が神界にいるって言われたんだよな?

・・・うん、まるで意味が分からんぞ。


「待ってくれ、まずはこっちの質問にいろいろ答えてほしい。」

とにかく、まずは情報収集だ。塾で授業をするときもきっちり下調べをしてから臨むものだからな。


「え・・・あ、はい。分かりました。私に答えられることなら何でも答えます!」

おお・・・素直な子だなこの子。でも、その分なんか危うさも感じるんだよなあ・・・

万が一下着の色を聞いてみたら答えてくれたんだろうか。絶対聞かないけど。

何故か、そんなこと聞いちゃいけないって第六感が囁いたんだ。


「そもそも、ここはどこなんだ。俺は一体どこにいるんだ?」

「はい、ここは神隠しの森といって、人間界と神界の境界がもっとも近い場所なんです。」


おかしい、質問をしたはずなのに疑問が増えたぞ・・・


「・・・・つまりここは日本じゃない?」

「日本・・・ああ、人間界の先進国ですね!」

「・・・日本を知っているのか!?」

おお、これはあくまで海外なだけ・・・いや、ちょっと待て。今おかしな言葉が聞こえたぞ?


「人間界・・・?ここは人間界じゃない?」

「はい、そうですよ。あなたは人間界から…私たちの住む、神界へと神隠しにあって転移してきたんだと思います。」

「・・・・し、神界?つまり、神々が住む世界?」

「・・・すごいですね。普通の人だったらそんなに冷静に考察できないと思いますけど・・・」

そんな驚きと感心の入り混じった目で見ないでくれ。冷静になってるふりをすることで落ち着こうとしてるんだから…


「えっと、整理すると・・・俺は人間界から神界に呼び出されたんだな?」

「おそらく、そういうことだと思います。」

「その理由は・・・なんでだろう。全く心当たりがないんだが…」

だって、俺は普通の大学生で・・・今まで普通に生きていただけだ。そんな神々の住む世界に呼び出されるに値する能力だってないはずだ。


「なあ・・・俺はどうやったら人間界へと帰れるんだ?」

とにかく、大事なのはここだ。この世界にも興味はあるけど、バイトだってあるし、南海や会長だって急に消えて心配しているかもしれないんだ。

それになにより、母さんに余計な心配は掛けたくない。親父が蒸発してから、過保護になりがちだった母さんがどんな状況なのか・・・すごく心配だ。

「・・・ごめんなさい。今すぐ人間界へと帰るのは・・・不可能だと思います。」

そんな俺に突き付けられたのは、残酷な現実だった。いや、現実とは思えないことが次から次へと起こっているんだけど・・・


「えっと、あなたのお名前は?」

「・・・南野賢斗」

「その、賢斗さんがなぜ神界へとやってきたのかはわかりませんが…神界から人間界へ行くには、神様の資格を取るために人間界へと現地実習に行くか、神様が降臨するしかないんです。」

「マジかよ・・・・ん?」

いま、常識を覆すような発言があったような。


「神様ってのは、資格をとればなれるものなのか?何かを成し遂げて、その対価に信仰を得るのが神の在り方だって俺は思ってたんだが・・・」

「ええっと・・・神様になるには2つの方法があるんです。」


「一つ目は賢斗さんのおっしゃる通り、人間界の人達から一定数の信仰を集める方法です。そのためには人間界に降臨して自ら布教する必要があるんです。これは資格を取るために必要なことになりますが、信仰を多く集めることでそのまま新しい神様へなることもできるんです。」


「そして神様になるための資格を持っている候補生の中から、すでに存在している神の後継者を選ぶんです。いわゆる代替わりというやつですね。」

初めて聞いたぞ、神の代替わりって・・・教授が聞いたら

「代替わり・・・そういうのもあるのか!」

とか言いそうだな・・・


「代替わり?・・・え、神って不老じゃないのか?」

「いえ、神様も任期制なんです。長期間務めていると神として司る権能と、神様自身の性質が乖離してしまう恐れがあるとのことで。」

「どういうことだ?」

「かつて、ヘラ様という神様がいらっしゃいました。人間界ですと、ギリシャ神話に登場する結婚と母性、貞節を司る神なのはご存知ですか?」

「あ、ああ・・・主神ゼウスの正妻・・・だよな?」

「はい、当時のゼウス様は浮気がちなこともあり、ヘラ様は精神をすり減らしてしまわれたそうで…」


「初代のヘラ様は心労から精神面で問題を抱えてしまったそうです。ヒッポリュテ様とヘラクレス様のこともご存知ですか?」

「専門ではないが・・・一応。アレースの帯をめぐって、ヘラクレスがヘラの策略にはまりヒッポリュテを殺してしまったってやつだろう。」

元々神話とか歴史が好きで、時間があるときにはそういった本を良く読んでいたからな。


「はい、そのような事件を起こしてしまったということで、初代のヘラ様はここで神の資格を剥奪されたそうです。」

「その一件ののち、神々にも任期が設けられ・・・一定の期間ごとに代替わりされるようになったんです。」

「また、それ以来神界では私たちのような神様の候補生を産み落とすようになったそうです。」

なんだろう、向こうで発表したら大笑いして一蹴されそうな内容だ…

でも、きっと本当のことなんだろう。目の前の女の子は嘘はついていなさそうだし。・・・いや、なんでだ?初対面のはずなのに、なんでこんなに信用しようと思えるんだろう・・・



「はぁ・・・なんというか、人間界での神話は神界で実際に起こった出来事だったというのか・・・大抵は大昔の人が生み出した妄想か何かだと思っていたよ。」

「おそらく、人間界に伝わっている神話は私たちのような候補生が降臨した際に人間界の方々にお話したんだと思います。」

「なるほど、それならまあ・・・ある程度人間界の知識が通じることに納得がいくよ。」


「しかし、どうしたもんか・・・俺は神界のことをまったくといっていいほど知らないし・・・人間界へと帰る方法もそれしかないんじゃ、野垂れ死ぬしかないのか・・・?」

あ、口に出すとマジでへこむ。ほんと、どうすればいいんだ・・・


そうして途方に暮れていると、目の前の女の子は意を決したように頷くと

「・・・もしよければ、私が人間界へと何とか帰れるまで面倒をみましょうか?」

「本当か!?」

もしかしたら裏があるのかもしれない。けれども今の俺にはこの世界・・・神界に詳しい人の助けが必要だ。

そう考えていたら、食いつくように返事をしてしまった・・・彼女が少しびくっとするくらいに。

正直申し訳なかったが、それどころじゃなかった。生きるためにはなんでもするしかないからな。


「で、でも・・・代わりにお願いしたいことがあるんです」

「何だ?何でもするぞ!」

流石にこのチャンスを逃すわけにはいかず、思わず何でもすると口に出してしまった。

彼女はそれを聞いて安心したのか、すっと深呼吸をしてから

「私を神様にしてください!」

・・・・・

・・・・

・・・

・・

「・・・・え?」

とんでもないお願いがとんできたのだった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「神様にしてくださいというのは・・・」

「えっと、具体的には、神様になる為のお手伝いをしてほしいんです。」

「・・・神様になる為の手伝いをしろっていうのは、どれかの神様の後継者になれるように手伝ってほしいということでいいんだな?えっと・・・」

「あ、申し遅れました・・・私はミーニャと言います。」

「ミーニャね。ミーニャはどの神様の後継者になろうとしているのか決まっているのか?」

ミーニャっていうのか、うん。覚えやすいし、いいな。・・・そういえば、言葉が通じる理由なんかは気にしなくていいのかな。神界では、人間界の言葉は通じるってことでいいのかな。


「えっと・・・実はまだ、決めてなくて・・・その、まずは候補生になる為の1次試験を突破するためにいろいろ教えてほしいんです。」

「そうか・・・いや、受験先を決めてなくて塾に来る受験生も結構いるしな・・・それはまあいいか。で、1次試験ってなんだ?」

「1次試験は、神様の資格を得るに足る者であるかどうかをいくつかの試験科目を通じて検査するんです。」

なるほど、大学入試のセンター試験みたいなもんか?


「その試験科目は?」

「えっと、まずは神界史と人間界史がメインになります。それから神界の一般教養ですね。」

「人間界史はともかく、神界史と一般教養は・・・流石に厳しいな。」

「あとは、運動能力と戦闘術、それから神通力の能力試験ですね」

「えっ」

「神様によっては、戦いを司ることもありますから…とはいっても、実践的なものではなくあくまで基礎の確認だそうです。」


・・・・どうしよう、これかなり前途多難だぞ・・・・?


「えっと・・・今の中だと、人間界史しか教えられそうにないんだが・・・」

「それだけでも助かります。むしろ現地の人からなら、教科書と違ってリアリティがありそうですしね?」

うっ、その笑顔はずるい。安心させようと思ってやってくれているんだろうけど、なんか余計に緊張しそうだ。

普通に考えたら、ここではいと答えるのはよくない。だって、満足に教えられる保証もないし

中途半端はミーニャにとっても失礼で、悪影響を及ぼしかねない。

塾講師としてのプライドがそれを良しとしない・・・でも。


「・・・今は人間界の知識しか教えることはできないだろうけど、出来る限り協力させてもらう。」

「・・・・・!」

・・・・笑うとこんなにかわいいのか。神界で生まれた人は、こんな神々しくも親しみ深い笑みを浮かべられるもんなのかな。断じてこの笑顔に釣られたわけじゃないが。

「ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」

「いや、こちらこそ、これからお世話になります。」

互いに深々と礼をする。本当に礼儀正しい・・・そういえば


「ミーニャはなんで神になりたいんだ?」

素朴な疑問。神の数は多くても、きっと候補生はそれ以上に居るはずだ。でなければ試験をする意味がない。

でも、どんな神になりたいのかも決まってないってことは、確固たる理由はないんじゃないかと思ったんだ。

もし、動機があるなら知っておきたい。ミーニャのモチベーションを維持するのには間違いなく役に立つはずだから。


「・・・昔、約束したんです。立派な神様になるって。本当に小さいころの約束で・・・だれとしたのかもおぼえてないんですけど。」

「でも、それ以来私の中で神様を目指すっていう目標が生まれたんです。最も、どんな神様になるのかも考えていかないといけないですよね。」

そういって、懐かしそうな顔をした。よっぽど大切な思い出らしい。詳しい内容は、これから信頼関係を深めていけたら改めて聞いてみることにしよう。


「それに、私が神様の候補生になれれば、賢斗先生を人間界に連れていけますから♪」

「…そういわれると、何が何でも合格させないとな」

勿論、俺が生きるためという理由もある。人間界に帰りたいとも強く思っている。

ただ、それとは別に・・・幼いころの約束を律儀に守ろうとしているミーニャの力になりたいと。

そう思うようになっていた。


こうして、俺は神界でも講師・・・先生をすることになったのだった。

教える科目は人間界史という今まで得たすべての知識を活用しなければいけない科目と

神界史や神界教養、神通力と戦闘術という今まで無縁だった科目だ。


・・・これ、本当に合格まで導けるのか?

いや、やるしかないな・・・ベストを尽くそう。

今はこれしか人間界へと帰る方法がない。

・・・でも、自分でも探さないとな。


異世界の神界の空の下、俺、南野賢斗は予想もしていなかった新たな生活の第一歩を

踏み出すことになった。


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