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第1話

「あー・・・なんで一限目に講義入れちゃったんだろうな」

朝8時、通っている西光学院大学へと続く道の途上でぼそっと口にする。朝日が新緑の街路樹に反射し

顔を照らしてくる。少し陰鬱な気分だったのでその光がまぶしく顔を少ししかめながら、誰かに聞かせるつもりもなく放った呟きだったが、求めていなかったレスポンスは俺のすぐ後ろから返ってきた。


「そりゃ、みんなで同じ講義取ろうって話をしたからでしょ?賢人。」

「・・・独り言のつもりだったんだが。いつからいたんだ?南海。」

「さあ?別に何時からでもいいじゃない。だってどうせ同じ講義に出るんだからね♪」


そう言ってウィンクをしてきたのは、同級生の沢井南海だ。朝日を反射させ、キラキラと輝く

うっすら茶色がかったロングヘアを持つ女の子で、傍から見れば文句なしの美少女といえるだろう。

大学生なのに美少女と表現したのは、本人は気にしているがやや幼い顔つきだからである。

実際、顔つきは中学生のころから変わっていない。7年も一緒に居るんだな、そういえば。


「とりあえず、おはよ。随分眠そうね?」

「昨日レポート仕上げてたからな。それに、バイトも決まってその準備もしてたんだよ。」

「あー・・・たしか個人塾だっけ?もう1年もたったんだよね。」

「ああ、まあ・・・親戚の運営している塾だけどな。でもやるからにはしっかり準備しないと失礼だと思って。」

「相変わらず根が真面目なのよね。もうちょっと気楽にやればもっと楽になるのに。」

余計なお世話だ、とはいえ面と向かって否定する内容でもないのでぷいっと前を向いた。


「南海はレポート完成させたのか?」

「あたりまえじゃない、私ってこつこつやるタイプだからね!」

「こつこつ・・・ねえ・・・?」

絶対嘘だ。中学・高校の頃はテスト勉強もろくにせず、直前になって泣きついてきてたぞ。

去年も何回手助けしたことか。


「な、なによぅ・・・あ、私もう大学生2年生だからね!去年までとは違うのよ?」

「じゃあ、今年は教える必要もないな。ちゃんとこつこつやるんだもんな?」

「酷い!賢斗の意地悪!鬼畜!私に(勉強を教えるのに)飽きたのね・・・」

嘘泣きを始めた南海の声に反応した周囲の男の視線が四方八方から突き刺さる。

勘違いも甚だしい。だって南海とは長く一緒に居るだけで、別に彼氏彼女という関係ではないのだから。

・・・まあ、見た目がいいから邪推してこんな視線を送ってくるのも分からなくはないが。


「紛らわしい発言をするな。本当に教えないぞ。」

「・・・ほんとドライだよね。揶揄い甲斐がないなぁ・・・」

演技をやめて、ムスっとした表情で見つめてくる南海を見つめ返しつつ

「お前が悪い。俺の性格はもう熟知しているだろうに。」

「まあね。今年で8年目だよね?中学で初めて一緒になったし。」

そこでなぜか不満そうな表情を垣間見せながら

「賢斗って、女の子に興味ないの?」

とんでもない発言が飛んできた。


「・・・・・・・・・・お前は一体何を言っているんだ?」

理解ができず、数秒間が空いてしまった。

おい、さっきまで嫉妬の視線を投げかけていた男共。なんでこっそり離れた。

そしてちょうど近くに居た女子はポッと頬を染め始めた。なんでだ、どこに染める要素があった。

「だって、中学高校と彼女居たって話一回も聞いたことなかったんだけど?それに、あんまり仲いい女の子もいなかったじゃない?」

「・・・それは・・・」

そう、実際俺は誰かと付き合った経験なんてない。というより、その価値観を見いだせなかった・・・と

いったところだろうか。・・・なんかすごく言い訳臭いなこれ。


「長く一緒に居て私ともそんな雰囲気になったことないじゃない?そうなると、枯れてるんじゃないかなーとか思っちゃうわけですよ。健全な女子としてはね?」

一転して揶揄いをまぜた物言いになった。そんなに俺のことを揶揄いたいのか。そうか、なら・・・

「南海はかわいいとは思うけど、な。」

あえてストレートに返してやった。

「そ、そう・・・そっか・・・///」

おい、なんで顔を赤くするんだ。狼狽えるかと思っていたのだが。しかもちょっとうれしそうだし。

・・・そして周りからの視線がさらに痛くなった。もう、なんなんだ一体。


「・・・先に講義室いってるぞ。席は前の方を取りたいからな」

こういうときは離れるに限る。一人になればこんな視線は飛んでこまい。

「(よかった、かわいいとは思っててくれた・・・これワンチャンまだあるよね・・?)」

何を考えているのかわからないが、返事がないし先に行っておこう。席、取っとかないとな。


・・・このあと、追いかけてきた南海の顔は滅茶苦茶不機嫌そうだった。ころころ表情が変わるな、ほんとに。そういったところも彼女らしいといえば彼女らしいんだけど。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お、おはよう二人とも。今日も前の方に座るだろ?取っといたよ。」

「はやいな、会長。ありがとうな。」

「おっはよー会長。今日もかっこいいよー♪」

「いい加減その呼び方変えようぜ。他の奴らもそう呼び始めたよ・・・あと、ありがとな沢井さん。」

そう、少しげんなりした声を出したのは森崎時貞。同じ高校出身で、高校時代は生徒会長をやっていて、男女から絶大な支持を受けてたんだよな。誰とでも気さくに話しかけられて、俺とは勉強を通じて仲良くなった。高校時代では一番仲のよかった男で、当時はみんなから会長と呼ばれていたから、俺も会長って呼ぶようになったんだ。

ところでなんで南海はちらちらこっちを見てくるんだ。あ、ため息をついて目をそらした。本当に訳が分からない。


「悪い。でも会長は会長だからな。どうも染みついちゃって抜けないんだ。」

「今は無職だぞ。大学には生徒会なんてないしな。会長をやる気もあんまりないよ?」

「そういって、なんだかんだでサークルの会長になるんだろう。どうあっても会長ポジは変わらないぞ?」

「あー、なんかやりそう。むしろ自分でサークル作って会長やりそうな感じ。」

「やらないやらない。今のところやりたいこともないしな。」

つまり、やりたいことがあればやる可能性大ってことか。何に興味を持つか少し興味があるな。


「そういえば、二人は今日は一緒に来たんだな。ついにか?」

一転して楽しそうな表情だな、会長。

「・・・何とかなると思う、会長?一緒に来ただけで。」

余計に不満そうな顔になったな、南海。

「ま、そうだろうな。賢斗だしな。」

それはどういう意味だ、会長。

「賢斗は勉強はできるけど、何か致命的なものが欠けてる気がするんだよね。」

さらっととんでもなく失礼じゃないか?南海・・・

「賢斗が可哀想だから、この話はここまでにしよう。そろそろ講義も始まるし。」

「おい」

我慢できずに、思わず声に出てしまった。二人してあまりに失礼じゃないか・・・?

俺が悪いのか。でも何が悪いのかまるで分らないんだよな…

ふぅっとため息を一つつき、講義に備えて準備を始めるのだった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「えー・・・であるからして、神とは人間の救済欲求が生み出した空想であり、科学が発展した今、

かつて理解不能であった事象は神の仕業とされていましたが、現在神の仕業と呼ばれる現象はほとんどなくなったわけです。」

「しかし、人の精神的な支えであり続けており、苦しい時の神頼みなど、様々な場面で神に関わる諺がみられます。これはこれから先の未来でも、おそらく変わることがないでしょう。」

「人類の進歩に反比例するかのように、神々は衰退していったともいえます。神格は現状、どれだけの

信仰心を集められるか・・・つまり、精神的なよりどころになれるかが重要視されているのですね。故に、時代に即したご利益をもたらせるかが、これから信仰を集めていけるかどうかに直結するわけですね。人が生み出したものであるゆえに、人の現在の環境が反映されているわけです。現代は変化の時代ですからね。技術の発達により、神が不要になったら今度は人も不要になりつつあるわけです。」

1時限目の信仰論の講義は、他の講義とは違い一風変わったテーマを取り上げているので面白い。

天原教授は時々講義から逸脱することもあるが、それが抽象的な講義に

こういったものは小ネタとして利用出来たりもするからな。


「なんというか、神様の世界も世知辛いよね・・・」

「そうだな、現代的にいえば斜陽業界なのかもしれないな。」

「確かに、あんまりやることはなさそうだよね。でも、受験の時とかは神頼みしたし・・・都合のいい時だけ神様に頼ってる人って多いような気がする。」

講義の最中、こっそりと3人で講義の内容について話し合う。

普段は神の存在について考えていなさそうな人でも、なにか重要なことがあるときは神頼みするなど

確かに都合よく頼る人は多そうだよな。

かくいう俺もそんな多くの人の一人だけどさ。どうしてもあと一歩が欲しい時には神頼みしてしまう。


「一方で一部の学者たちは、神々は実在しており密かに人間界に干渉しているという説を上げています。

時折現れる新興宗教の教祖たちは、そうした神々の悪戯であり、自らの存在を主張するために人間界に降臨されていると。そして、神になる為の実習を行っているとのことです。もちろん、具体的な証拠があるわけではありませんので理想論と切り捨てる人も多いのですが・・・私個人としては、神々が実在しており時折人間界に関わっているという説は、ロマンとしては非常に面白いなと思うわけです。神々があなたたちのすぐそばに居たら、面白いじゃありませんか。すぐそばで鑑賞されているかもしれない。そうなればこの世から悪行というのは多少減ったりするかもしれませんね。もしかしたら、神と仲良くなれるかもしれませんし。」


ふと、途中教授と視線が合った。その目はどこか遠くを眺めているようで、意識的に俺と視線を合わせたわけではないと思う。しかし、なぜか精神が泡立ったかのようにざわめいた。なにか、大事なことを忘れているような・・・そして、胸を締め付けるような感覚へと変わっていく。


これは何かおかしい、そう思った瞬間だった。

ふっと体が浮遊感に包まれ、視界がホワイトアウトした。

いや、そうとしか形容できない感覚に襲われたんだ。

声も出せず、どんどん落下していくような・・・

俺は心臓発作でもおこしてしまったんだろうか?

いや、実際に経験するのは初めてだけどさ。

・・・・それが、俺が最後に人間界で考えていたことだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・音が聞こえる。

風が吹き抜け、葉っぱを鳴らしているような、そんな自然の音。


「・・・・いや、俺講義室に居たんだからおかしいよな?」

体を起こせばそこは、人がぎっしり詰まり、暑ささえ感じた講義室ではなく

杉に似ているが見たこともない木々が立ち並ぶ場所で。

地面はコンクリートではなく、謎の陣がかかれた土で。

そして隣には南海や会長ではなく

透き通るような長い金髪と、エメラルドのような碧眼の10人に聞けば10人は美少女と答えるような

容貌をした、ローブのようなものを纏った女の子がいて


「・・・・・・」

俺は、その子に見惚れてしまった。その子はただ可愛いだけでなく、どこか

神々しさを湛えていたから。こんな人は今まで見たことがなかったんだ。

・・・いや、本当にそうか?だったらなぜ、今俺は懐かしさのようなものを感じているんだろう・・・?


戸惑いと混乱、そして見惚れてしまって無言で見つめる俺に、その子は

「・・・えっと、どうして神界にあなたのような人間界の住人が・・・?」

一瞬にして今抱いた女の子に対する感想を消し飛ばすほどの疑問が生じた。


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