けものみち、凶行・強行
こっちが前回投稿しようとした奴です。
まもなく日が一番高いところへ上るであろうその時、ようやくトトは目を覚ます。
リリはそのことに気が付いて、白銀の毛におおわれる頭から撫でていた手を離した。
「トト、おはようなの」
「あーリリ、おはよう」
挨拶をして二人は微笑みあう。思いっきり泣いてぐっすりと睡眠をとったおかげで、その顔は普段通りとまではいかないが、晴れやかなものであった。
しかし、すぐにトトは何かに気が付いたように鼻をすんすんと鳴らす。それを見たリリは顔が青ざめている。
「花を摘むならもっと離れるか、風下にしたらよかったのに」
「うっ、だってギリギリまで我慢してたから……」
リリは一度降りた木の上に戻ってから匂いが届いていることに気が付いていたが、土を少し欠けた程度では防げなかったので、尿意に焦って判断を間違った自分を責めつつも、トトが気づかなかったら良いなぁと考えていたのだ。
「そもそも、わざわざ指摘しなくていいの! トトはもっとデリカシーを持つの!」
「ごめんよリリ。漏らしたのかと思って焦ってたからつい……」
「も、ももももぉお!?」
「ち、ちがっ。僕が寝てる間にしちゃったのかと思ったって意味で……」
「ハッ!? そういうことだったの」
リリは恥ずかしさに、今度は顔を真っ赤に染める。
「って、そうじゃないの。獣道なの!」
「へ?」
トトには唐突過ぎてリリが何を言っているのか理解できない。
「えーっと、水を確保するために川に行きたいの、でも川の位置は分からないから、獣道を探して辿るの」
「なるほどね。それはいいアイディアだと思うよ」
「そ、それじゃあ出発するの!」
トトは呆れた気分でテンション高めに木から飛び降りるリリを見つめた。
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「リリ、止まって。前から誰かが近づいてくるよ」
「はいなの」
リリは自分が気付かなかった獲物に母親や父親が先に気づいて止められることは多々あったので、素直に止まっていた。
「僕たちと同じ道を歩いてるみたい、隠れてやり過ごそう」
「分かったの」
二人は獣道から外れて、少し離れたところにある大きめの木の裏に姿を隠す。
「話し声……?」
「リリにも聞こえるの」
聞こえてくるのは男たちの声と二人分の足音だ。
「はぁ~。ホント最悪だ」
「その気持ちはわかるが、何回目だよそれ言うの」
「だってこれでもう三か所目だぞ。一つ減った時点で俺たちの食料も危なくなるってのに」
「なぁシロンさん。ふと思ったんだが、まだ二つはあるしそっちから食料調達すりゃあいいじゃねぇっすか?」
「お前はバカだな。そんなことしたら、近いうちにその二つもつぶれっちまうよ。そうなったら終わりじゃねぇか」
「そうなんすかねぇ、まぁシロンさんがそう言うならそうなんすよね」
「にしても、まさか、ロリ三姉妹のいる村が先に襲われちまうなんてなぁ。西から順に襲われてたし、次は川の村かと思ってたんだがな」
村が襲われたと聞いて、リリは思わず声を出しそうになったが、トトが咄嗟に塞いだおかげで事なきを得た。
「シロンさんってほんとロリコンっすよね。さっきは一つ減ったから落ち込んでるみたいな言い方してたけど、本当はそのロリ三姉妹がいなくなったのがショックなだけなんじゃないっすか?」
「……お前はバカのくせに、変なところで頭が回るな。しかし『だけ』ってことはねぇよ。食料がやばいのも事実だ」
「やっぱり、あの盗賊団をつぶしに行きましょうよ」
「無理に決まってんだろ。なぜこの前しっぽ巻いて逃げ出すことになったかわかってんのか?」
「たしか、ギフトがどうのって」
「ああ、奴らは魔法みたいな力が使える。迂闊には近づけば、返り討ちに合うに決まってる」
「本当に人間なんすか? 魔法だなんて、ばかばかしい」
「バカはお前だ。腹痛いとか言って、隠れてたからお前は知らんのだ」
「いや、だってうまそうな果物が落ちてたら、シロンさんだってほかのやつに取られる前に食べるでしょう?」
「お前……それマジかよ……」
「……そんな目で見ないでほしいっす」
そんなやり取りをしながら、男たちはリリたちが来た道を戻って行った。
「トト、あの二人に助けを求めるの」
「え?」
「シロンて人はロリコンらしいから、きっと何とかなるの」
リリは確信していた。シロンとやらが言っていたロリ三姉妹がリリとマーシーとトトを指しているということを。
「ちょっと待ってよリリ。話を聞く限り、あの二人はマーシーが言ってた山賊じゃないか」
「でも、村をめちゃくちゃにした盗賊とは別なの。それに盗賊のせいで困ってるって――」
「困ってるなら尚更だよ。食料がないって言ってたし、行っても何もしてもらえないじゃないか」
「お肉なら、私たちがとってあげられるの」
「……山賊のために狩りをするってこと? マーシーたちをいじめてた人たちだよ?」
「トトにいい言葉を教えてあげるの。敵の敵は味方なの」
トトには、ここまで結審したリリに話が通じないことが分かっていた。それでも、危ない人たちだと聞いていた山賊に会いに行くなんてことは到底許容出来ない内容だった。
しかし、出せる言葉がなかった。リリを止められる言葉が見つからなくて。
「それじゃあ行くの」
「いや、ダメだってリリ。あーっもう」
立ち上がって歩き始めてしまったリリを追いかけ、トトも歩き始める。
「大丈夫なの、一歩間違えればもともとこっちに向かってたの」
「それ大丈夫な理由になってないから」