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あの日


 時は流れて、双子は四歳になった。しかし、今まで程には成長しておらず、身長は数センチ伸びた程度だった。


 双子によるマーシーとの密会はその後も時々行われており、マーシーの知る限りでの村や村の外の話を聞くことが出来た。


 今日も三人はこそこそと茂みの中に集まり、密会を開いていた。


「この前来た旅人さんに話を聞いたんだけどね、魔法使いの友人がいるって言ってたんだ」


「「魔法使い?」」


 リリとトトでとらえ方は違うが、同じ言葉でハモる。


「そうなの。なんでも、口から火を噴いたり、空っぽのはずのポケットからコインを一杯取り出したり、遠くの壺を動かしたり、ほんの少しの間くらいだけど空も飛べたんだって」


 トトはそんな情景を想像して目を輝かせているが、対照的にリリのテンションは少し下がった。


「ほんと!? すごいなぁ」


「……耳がおっきくなったりもしたの?」


「え? うーん、それは聞いてないけど出来るんじゃないかな?」


「いいなぁ。僕も魔法を使ってみたいな」


「そうよね、できたらいいのにねー」


 トトとマーシーは無邪気にそう言っている。

 そんな二人を見てリリは溜息を吐くと、


「リリも簡単な魔法使えるの」


 ドヤ顔でそんな事を宣言した。


「あー、ほんとに?」


 マーシーは一応返事をしているが、全く信用していない。


「見てると良いの」


 そして、リリは有名な指の切断マジックを披露する。真っ白な毛におおわれているので、普通にやるよりもタネが分かりにくい。



「もう一度くっつけてー。むむむむー。はい、元に戻ったのー」


「「おおおおお!」」


 だからこそ、二人とも無駄に感激してくれたようだ。


 それから同じマジックを二回見せた後、暫くして落ち着いてきた二人は、


「リリが、リリが魔法を使えるなんて……」


「有り得ないわ……」


 などと呟いた。


「二人とも、失礼なの」


 リリも文句を言った。


「実はこれ、意外と大したことないの。二人でも簡単にできるの」


 そう言って今度はネタ晴らしを始める。



「えー、指を曲げていただけなんて……。騙されたよ」


「こんな簡単なことなのに、なんでわからなかったのかしら」


 リリのマジックの真似をして、指を曲げたり伸ばしたりしている二人。


「マーシーの言ってた魔法使いも、こんな簡単じゃないけど何かタネがあるんだと思うの」


「そうなのかしら?」


「きっとそうなの」


 そこまで言って溜息を吐くと、


(がっかりなの。魔法なんて存在しないの)


 リリは悲しそうにそう呟いた。




 その日の午後、両親に言われ双子は家の前の広場に集まっていた。


「おかーさん。今日は狩りしないの?」


 リリは先にやってきた母親に尋ねる。


「そうよ。二人とも立派に狩りが出来るようになったから、今日は新しいことを教えてあげるわね」


「「新しいこと?」」


 双子が同時に首をかしげるのを見て母親はフフッと笑う。

 すぐに父親が簡素な貫頭衣を着た姿で一メートル程の丸太を抱え、小走りにやって来る。丸太を傍に立てると、すぐに詫びを入れた。


「悪い、少し遅れた。えーっとだな。これからお前たちにある技を教える」


「「技?」」


「ああそうだ。これは俺ら白狼族で代々語り継がれてきた秘密の技だ。秘密なんだから、二人がこっそりと会っているあの娘にも教えてはいかんぞ」


「「!?」」


 双子の目が驚愕に見開かれる。

 二人はいつも、細心の注意を払って会いに行ってるつもりだったから当然だ。


「本当は何が起こるか分からんからあまり会ってほしくはない。だが、俺たちが外の世界について教えられることなんて、殆ど無いからな。これからも続けるつもりなら、村の外の人間にはしっかり注意して行くんだぞ」


「「はい(なの)!」」


「それと、絶対に今から教える技を話したりしないと約束できるな?」


「「はい(なの)!」」


「それじゃあまずは実際に見せてやろう」


 父親はそう言うと、腰を深く落とし、腕を曲げ、大きく深呼吸をする。暫くすると、体の周りが陽炎かげろうのように揺らめき、だんだんとそれが大きくなっていく。次第に、景色が揺らめく毎に光を放つようになってきた。すると、だんだん体中から白銀の毛が生えて来て全身を覆っていき、手の爪は固く大きく伸び、口からは鋭い牙が現れ、筋肉も大きく膨張する。



 その姿はまさに獣。二本の足で立つ、白銀の狼だった。



「お、お父さんが魔法使いだったのか……」


 トトは驚いたように呟く。

 リリは何も言葉を離さないが、大きく目を見開いて、プレゼントをもらった子供のような顔をする。


 そんな二人を一瞥した後、丸太の方を向くと素早く手を動かす。双子には何をしたかわからなかったが、次の瞬間、丸太はバラバラになって崩れ落ちた。


「「おお!!!」」


 双子は歓声を上げる。

 何か言われる前に父親は双子の方に向き直ると、少しこもったような声で言う。


「これが白狼族秘伝の技<獣化>だ。この状態になると身体能力が飛躍的にアップするが、とても疲れる。俺でも持って五分ほどだ」


 そこまで言うと、父親はもう一度大きく深呼吸をする。それだけで、体はだんだん元に戻っていき、普段の見慣れた姿になった。


「すごいの!! すごいの! すごいの! 魔法は無いけど、すごいのがあったの!」


 そこまで見届けたリリは立ち上がり、飛び跳ねながら声を上げる。

 はしゃぎすぎて、飛び散った木のかけらを分で転びかける。


「ほら、リリ。少し落ち着いて」


 余りに興奮しているリリを見かねた母親がリリに抱き着いてあやすように揺すった。


「おかーさん、ありがとうなの。ちょっと興奮しすぎちゃったの」


 母親が離してくれたのでリリは言葉を続ける。


「それにしても、おとーさん凄いの」


「ほんと、お父さんってば凄い」


 二人の賛辞を受け、父親は嬉しそうな顔をした。


「このくらいなら、あと五年もすればお前たちにもできるようになる。ただ、練習は必要だがな。それと、トト。さっき魔法使いって俺の事を言ったが、これは魔法なんてもんじゃない。下手をすれば呪いのようなものだ。子供のうちに<獣化>に慣れて置かないと、大人になってから暴走することもあるからな。」


「暴走?」


 トトが尋ねる。


「ああ、自我を失って暴れまわるんだ。……そうなったら周りに、迷惑をかけることになるからな」


 父親は言葉を選んで話しているようだった。


「リリ頑張るの! がんばっておとーさんみたいに強くなるの!」


「僕も負けないよ。リリが先に<獣化>出来るようになったら大変そうだもん」


「あー、確かにリリは何をするか分からんからなぁ」


「……トトもおとーさんもひどいの」


 母親だけは黙ってリリの頭を撫でていた。




 その日はずっと<獣化>の練習を続けた。二人とも微塵もできそうには無かったが、必死になって練習した。


 練習が始まったのは今日でよかったのかもしれない。でも、もしかしたら、もっと早くに練習をしていたらこの先――


――あんなことにはならずに済んだのかもしれない。



書いてる途中に矛盾があったり、訂正したい部分が出たので、土曜日にでもぼちぼち修正していきます。


今後も後になってまとめて修正する(予定)

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