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村の少女


 とある小さな村の片隅で、二人の少女(幼女)が茂み越しに向かい合っていた。一方は村の方からやってきた茶髪を後ろに縛ている、素朴な顔の少女。こちらの方が少しだけ身長が高い。

 彼女は言った。


「あなた、とてもかわいいのね!」


 もう一方は獣のような白銀の耳と尻尾を有した可愛らしい少女。その後ろの木の陰には同じような容姿の少年もいる。彼らは双子で、少女の名をリリ、少年の名をトトと言った。


 リリは返事をする。


「そう、可愛いは正義なの」


 トトは村の少女が好意的であることを確信し安心した。だが、今度は隠れていたところから急に出て行くわけにもいかず、何と話しかけていいかもわからないので再び縮こまってしまった。


「せいぎ? あなた難しい言葉を知ってるのね」


 村の少女がリリの言葉を理解できず、遠回しに意味を尋ねた。


「あなたじゃないの。リリなの」


 リリは少しむっとしたように言う。

 村の少女は少し慌てたようにして返事をする。


「ああ、ごめんなさいね、リリちゃん。私はマーシーって言うの」


「マーシー! ……いい名前なの」


 変な間があった事にマーシーは疑問を感じつつも、名前を褒められてはにかむと小声で、


「ありがとね……」


 と呟く。


「そうだ、もう一人いるの!」


 そう言い終わらないうちに、リリは木の陰からトトの腕をつかんで立たせると、マーシーに見えるように連れて行く。


「うわぁ、急に引っ張らないでー」

「こっちはトトなの。可愛いけど一応男なの」

「って、それどういう意味!?」


 トトの言葉を無視して、マーシーに紹介する。


「もう一人いたんだ!? 全然気が付かなかったわ。あなたの名前は?」


「え、ええと」


 リリはそんなトトを見かねて、ぐいぐいと腕を引っ張る。


「ほら、挨拶するの」


「あ、あの。トトって言います」


 何とか、マーシーの真似をして自己紹介をするトト。

 これは、トトがコミュニケーションが苦手というわけではなく、閉鎖された環境下で育ってきたが故に、初対面の人との話し方を知らないだけだ。言わば直る方の人見知りである。


「リリとトトは双子なの!」


「双子……? あ! そうだ、聞いたことがある。一度に二人子供が生まれてくることよね。すごいわ」


「そうなの」


「ところでリリ、さっき気になったのだけど……。失礼だったらごめんなさい。少し、手を見せてくれないかしら?」


「うん? それくらいお安いごようなの」


 白銀の毛におおわれた右手をリリは差し出す。左手は居心地が悪そうに黙っているトトを掴んだままだ。

 マーシーは恐る恐ると言ったようにリリの手に触れる。


「すごい、毛がサラサラしてて気持ちいい」


 そう言うと今度は、毛の表面をサーっとなぞるように触る。


「フ、フフ。くすぐったいの」


 リリも最初は我慢していたが、何回かマーシーの指が往復してたえられなかったようだ。


「ごめんなさい。つい気持ちよくて」


 マーシーがそう言って手を離すと、リリは自慢げな顔をして手をグーパーする。


「ほんとは手も肉球みたいにぷにぷにだったの。でも、狩りの練習してたら固くなってきちゃったの」


「へぇー」


「本当は一人でも狩りは出来るの。でも、まだおとーさんかおかーさんが付きっきりなの」


(リリにはまだ無理だと思うけ――いたっ)


 リリの左手がトトをひっぱたいた。

 そんな双子を見て、マーシーはクスッと笑う。


「私だって、去年からお母さんの仕事手伝ってるわよ。けど、あと三年たって十歳になるまでは一人で仕事はさせないって言われたもん」


 マーシーは少し頬を膨らませている。


「マーシーは今七歳なの? ならリリよりもおねーさんなの」


 トトは隣で不思議そうな顔をする。


「よく分かったわね、それならリリは六歳くらい?」


「違うの。まだ三歳なの」


「ええ!?」


 マーシーは心底驚いたような顔をする。


「驚くのも無理はないの。獣人は成長が早いみたいなの」


「え? ちょっと、リリ。なんでそんなこと知ってるの? 僕も初めて聞いたんだけど」


 トトが言葉を挟んだ。

 先ほども言ったようにトトは外の世界のことを知らない。当然、自分たちの成長スピードの速さなど、疑問に思う余地も無かった。


「リリも人間だったことがあるの。その時はこんなに早く大きくならなかったの」


 マーシーは小首をかしげている。


「リリは獣人でしょ?」


「そうなの。でもそんな記憶があるの」


 マーシーはさらに訳が分からないといった顔をする。

 対してトトは、リリのいつもの事だと思い直して、話半分に聞き流す。そして、ついでにマーシーにも助言する。


「リリが訳の分からない事を言うのはいつもの事だから、気にしなくていいよ」


「え、ええと……」


 マーシーは何を行ったら良いかわからず、言いよどむ。


「そんなことはどうでもいいの。トトはすぐに上げ足を取るんだから」

 

 話を振ったのはリリなのに……、とトトは思ったが、口には出さない。

 喧嘩になりそうな不穏な気配を感じ取ったマーシーは慌てて話し出す。


「あ、えーと。そうだ、リリは私より年下なのよね。私妹が欲しかったのよねー……なんて」


 マーシーの声は尻すぼみであったが、双子の耳にはしっかりと聞こえた。


「ほんとなの? リリもおねーさんが欲しかったの! きょにゅーで甘やかしてくれるおねーさん!」


「きょにゅ!? えーと、あはは。ごめんね」


 マーシーは第二次性徴もまだな幼女ともいえる年だ。そんなものは無い。

 というか、さらっと前世の欲望が無邪気に垂れ流されている。


「いいの、マーシーはまだまだこれからなの。その代わりに甘やかしてほしいの」


「甘やかす?」


「おねがい、マーシーお姉ちゃん♪」


 リリはキラキラした目でリリはマーシーを見つめた。


「……うっ。し、仕方ないわね」


 妹が欲しかったのは本当と見えて、まんざらでもないマーシー。

 ごくりと唾を飲み込んで、マーシーは両手を広げる。


「おいでー、リリ」


 マーシーは何とか出した小さな声でリリを呼ぶ。


 呼ばれたリリは茂みを飛び越えて、マーシーに抱き着いた。


「おねーちゃん!」


 マーシーはリリを片手で抱き返し、もう片方の手で頭を撫でた。



 取り残されたトトは何とも言えない顔をして、独り呆然と立ち尽くした。



マーシーは化粧で簡単に化けるタイプの娘です

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