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一年後


 三歳になり、体は七歳児ほどにまで成長した。そして、双子は両親の付き添いで一緒に林の中に入り、気配の探り方や移動の仕方などを教わるようになっていた。


 ある日の午後、リリと父、トトと母で別れて林の中を探索していた。


「あっちに豚がいるの」


 リリは教わった通りに匂い、音、痕跡などを調べてその結果を自らの父に報告する。


「これは豚じゃなくて猪だってこの前も言っただろ」


 豚とは王都近郊の森などで、他の家畜なんかと一緒に育てられている猪の亜種を指す言葉のため、この辺りには存在すらしていない。双子の父親はそれを偶然知っていたので、何とか言葉を返すことが出来ていた。


「そーだったの。豚の方がおいしいの。似てるのにぜんぜん違うの」


 父はリリが豚を食べたことがあるかのように喋っているので思わず呆れた顔をする。豚は王都に出荷するように作られているのでこの辺で食べようと思ったらとんでもない高級品だ。双子の両親はおろか、村の誰も食べたことのないであろう。


「仕留めてくるからちょっと待ってろ」


「えー、リリはー?」


 不満げな顔をするリリの頭に父は手を置く。


「お前に猪はまだ早いな。大人しく隠れてなさい」


「むー。わかったー、リリ隠れてるの」


「頼んだぞ」


 リリは人間の三歳児に比べて落ち着いている。ただ、七歳児程度の体に対して少々幼い印象を受けるのだが、父は気にしていないようだ。




 その日の夕方。


「すごいのー! トトはもう一人で捕まえられたのー?」


「あはは。ネズミを一匹だけどね」


 リリに褒められて、トトは赤くなった頬をかいている。


「おかーさん。明日はリリもネズミ捕まえていい?」


 リリとトトのお守りは父と母で交代して行っているのだ。


「うーん。リリは少し落ち着きないから、ネズミは逃げちゃうと思うのよね」


「えー、ネズミなら大丈夫なの。いっぱいトドメの練習したの。それに一緒に写真も取ったこともあるの」


 ※最後のそれ違うネズミです。


「じゃあねぇ、明日の狩りの時にリリがもう少し大人しくなってたら考えてあげるね」


「ぜんしょする?」


 母は困惑した。


「え、ええ」


「じゃあ期待せずに大人しくするの」


 そう言ってリリはその場に正座した。不貞腐れているのか、素直なのかはっきりしてほしいところだ。


 両親が対応に困る中、トトがいち早く対応する。


「ねぇリリ。それは家に戻ってからにしない?」


 リリは無言で立ち上がり、家の方へ向かって歩き出す。だが、右手と右足が一緒に出ていたりと、どこかぎこちない。


「あれは……ねぇ?」


「ああ」


「暫くはダメそうだね」


 三人は同意見だったようだ。




 数日が過ぎたが、未だ一人での狩りを許されずにいたリリは少し拗ねていた。だから、両親の潜って行った林の反対、つまり村の方へと茂みに隠れて向かうことにした――


「やっぱりやめた方がいいよ。お父さんたちに怒られるよ」


 ――トトを引き連れて。


「大丈夫なの。『バレなきゃ犯罪じゃない』の」


 ※使い方間違えてますよ。


「大丈夫じゃないよ。それに、村の人に見つかったら殺されちゃうかもしれないって言われてるでしょ」


「それも大丈夫なの。ケモミミ好きの人に悪い人はいないの」


「ケモミミって……、これが好きなら僕たちも村の中に住んでると思うんだけど」


 トトは両手で頭の上にある尖った耳を触る。


「好きじゃないなら布教すればいいの。触らせてあげればイチコロなの」


「さ、触られるのはくすぐったいから嫌なんだけど」


「今のうち慣れておくの」


 リリはトトの方を振り向き、耳に手を伸ばす。

 トトは両手で耳を抑えて隠し、防御する。すると、リリは咄嗟に手の進路をトトの脇腹へと変え、くすぐる。


「うひぃ、だめっリリ。声出ちゃうから。こんなに近くじゃ村の人に聞こえちゃうって」


 そう言いながら、トトはとっさに後ろに下がりリリの魔の手から逃げ出す。一年以上前からリリに受けた攻撃なので、対処法も確立してきている。

 しかし、既に手遅れであった。


「だれかいるの?」


 さっきまで誰も居なかったはず(と思い込んでいただけ)の茂みの向こうから幼い声が聞こえてくる。


 咄嗟にトトはかがんで近くの木の裏に隠れるが、


「リリがいるの」


 リリが返事をしてしまったので台無しだ。

 トトはリリにだけ聞こえるように声を潜めて言う。


(ちょっとリリ! 今からでもいいから早く別のところに隠れて!)


 トトからは顔が見えないが、リリが返事をしたとは言え姿を見せず尻尾もに茂みを隠れていて、尻尾にも動きが無い。だから、リリも怖がっているのではないかとトトは推測したのだ。


 リリの動きが無いまま、茂みの向こうから再び声がする。


「……リリ? それはあなたの名前?」


「そうなの」


 またもリリが返事をしてしまったことに呆れ、トトはいざとなったらリリを引っ張ってでも逃げようと心に決める。


「もしかして、村のはずれに住んでいる獣人ってあなたのこと?」


「そうなの!」


 リリは興奮しているのが揺れる尻尾からも見て取れる。

 トトは向こうにいる村人が好意的な様子であることを感じ取って、先ほどの決意が揺らぐ。そして、どう対応しようか思案してしまう。


「どこ? どこにいるの?」


 すると、リリは茂みから手を出しちょいちょいと手招きする。


(リリ!?)


 こうなると、もう逃げるしかない。だが、相手が好意的な声色なのと、自ずから湧き出る好奇心とが邪魔をして、トトは行動に移すことが出来なかった。


「そこにいるのね」


 そう声がして、ガサガサと草をかき分ける音がする。

 トトは出していた顔を木の裏に引っ込め、成り行きを見守る、もとい聞き守ることにした。


 近付いてきたのが分かったので、リリは手を引っ込めて耳をそばだてる。そして、周囲に人がいないことを確認すると、恐る恐る顔を出した。

 すると、同じくらいの背丈の女の子がきょろきょろと辺りを見回しているのが見えた。栗色の髪を後ろに一つで縛った、素朴な顔の少女だ。

 少女は、リリが顔を出していることに気が付くと、声をかけてきた。


「あ、あなたがリリ?」


 少女は少し驚いたような顔でそう言う。

 リリはニコッと笑う。


「そうなの」


 今度は少女もぱあっと笑顔になって、


「あなた、とてもかわいいのね!」


 と嬉しそうに言う。


「そう、可愛いは正義なの」


 リリは嬉しそうにしっぽを揺らしながら、照れ隠しで自慢げに言い放った。



それ、自分で言っちゃう?


ギャグ+シリアスなので急に話のテンションが変わります(予定)

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