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ふぁんふあん


 山賊たちが寝床にしている洞窟から少し離れた場所、鬱蒼とした森の中に小さな広場が出来上がっていた。

 作ったのは勿論、白銀の美しい毛並みを持つ双子の獣人。


 その双子は狩りの時間の前に毎日ここに来て、トレーニングをしていた。双子の片割れであるリリの記憶にある準備運動とストレッチをして、その後に筋トレ。そして最後に座禅での精神統一。


 効率的な運動のお陰で効果は出ている。しかしそれは、当面の目標である<獣化>を行えるようになったと言う事ではなく、身体能力の向上が見て取れたというだけの事である。



 そうこうしているうちに時はあっと言う間に流れ、二人がやってきてから一月が経とうとしていた。


 双子はいつも通り狩を終えて、解体部屋に狩った獲物を持っていく。


「おっちゃん! 今日はイノシシなの!」


「おおー、すげーじゃねぇか」


 そう言って一人の山賊が作業の手を止めこちらに寄ってきた。

 解体のおっちゃんは器用なため色々な手作業をしている。

 今は以前までに狩ってきた皮を使って防具を作っているようだった。


「重っ! よく二人で運べたな」


「このくらいよゆーなの」


「そうかい」


 解体のおっちゃんは返事をしながらイノシシを運んでいく。


「よろしくお願いします」


「お願いするの」


「あいよ」


 トトの挨拶に合わせてリリも挨拶すると、解体のおっちゃんはにこやかに手を振り返した。


「お帰り、リリちゃん、トト君」


「また出たの!」


 声を掛けてきたのはロリコンで有名なシロン。その性癖を除けば、山賊の中では頭のいい重要な人間なのだが。


「そんな、人を虫けらか何かみたいに言わないでくださいよ」


「ゴキブリ未満!」


「うぐっ。ああ、少女からの罵倒と言うのも中々に心地いい」


「ほらリリ、次あった時は無視するって決めたでしょ?」


「そうだったの。見た瞬間に危険を感じて反射的に叫んじゃったの」


「はぁ~。もうさっさと行くよ」


「わかったの」


 トトがリリの手を引いて、トリップしているシロンからこっそり逃げ出そうとする。


「あ、ちょっと待ってくださいよ。お頭が話があるって言ってたから伝えに来たんですよ」


 逃げ切る前にこちらに気が付いて、シロンは早歩きに追いかけてきた。


「嘘なの! お頭はシロンにリリたちにかかわるなって言ってるの!」


「無視だって言ってるでしょ……」


「確かに、私が頼まれた事ではありませんとも。しかし、他の人に頼んでいたことを勝手に伝えに来たまでの事。事実に相違はありません」


「だったら、お頭のところに行って確かめるの」


「うわっ、急に引っ張らないでリリ」


 そう言って、リリはトトの手を握り返し道を変え、走り出す。


「いいでしょうとも、嘘は言っていないのだから何も問題はありません」


「ついてくるな変態!」


「おお、何とも甘美なる響き!」


 身を悶えさせながらもその変態は付いてくる。


「おい、シロンさんが暴走してんぞ!」


「誰か止めろ!」


 そんな声が少し離れたところから聞こえて、シロンの後を数人の山賊が追いかけ始める。

 もとよりそんなに早く走っていなかったので、全力で追いかけてきた山賊にシロンはすぐにつかまった。


「待ってくれぇええ!」


 そんな声を後ろに聞きながら、リリたちは走るのをやめて歩く。


「リリ、今度会った時こそ無視するんだからね」


「前向きに検討するの」



------------


「おかしら、よんだの?」


「ん? ああ呼んだぞ。……あの野郎ちゃんと伝えなかったのか?」


「違うの。シロンが盗み聞きして会う口実にしてきたの」


「分かった。あいつは後でぶん殴っておく」


「ありがとうなの」


 お頭は満面の笑みで褒められて、少し照れたように頭をかいた。


「それで要件なんだがな。どうも例の盗賊がこっちにまで目を付け始めたらしんだよ」


「えっ、それって大変な事なんじゃ?」


 不意にトトが声を上げた。


「ああ、まだ具体的な行動は起こしてねぇが、いつこっちに来るか分かんねぇ。お前らを助けるって言った手前、危険なのに狩りに行かせるわけにもいかねぇんだわ」


「……僕らはここで隠れてろってことですか?」


「そうだ」


 お頭は何も言わないリリを不審に思ってそちらを見る。


「おいリリ、大丈夫か?」


「……」


 トトも心配になってリリを見る。


「リリ?」


「……っ」


 その問いにも、リリはトトの方を向いて言葉にならない声を出すのみだった。


「重症みてぇだな。そんなら話は早ぇ、しばらくは大人しくしてくれ」


「前会ったときは逃げ帰ったって聞きましたけど。今回は何か作戦でも?」


「なんだ、知ってたのか。あいつら、村を襲ってるうちに少しずつ頭数が減って弱ってんだ。ガキ共が心配する程のことじゃねぇよ」


「でもギフトがどうのって――」


「――大丈夫だっつってんだろ? 安心して引っ込んでろ」


「……はい。リリ、行こう?」


「……」


 リリは何か言いたげだったが、諦めたような顔をすると、ただ頷いてトトに従った。


 双子が出て行くのを見届けて、お頭は頭をかく。


「ガキ共だけは助けにゃいかんな……」


 双子の悲しそうな顔を再び思い出して、お頭はただ一人そう呟いた。



------------



 自分たちの部屋である倉庫に戻ったトトはただ何も言わずリリを抱きしめた。

 リリは何も言わずにそれを受け入れ、ぎゅっと抱きしめ返す。


 リリがなぜこうなっているのか、双子のトトでも完全には分からない。

 ただ、不安なのはわかったから、ただ優しく、温かく、抱きしめる。


 お頭は大丈夫だと言った。

 その時浮かべていた作り笑いからトトが思い出したのは、別れる前に見せた両親の顔。

 違うのは、両親と違ってお頭の顔に自信がなかったことだろうか。


 トトはリリを抱きしめているようで、いつの間にかリリにも抱きしめられていた。

 そう思いついて、何だか心が温かい気持ちになりながら、やって来る眠気に誘われるがまま深い眠りへと落ちていった。



投稿が遅れていたのに評価下さって、ありがとうございます。大変励みとなっております。

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