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クラス転移された最弱勇者の異世界英雄譚  作者: 長田英治
~第一章~呪われし王女
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第六話~神代のステータス~

ステータスの確認を終えたベルガント王国の四人の異世界サイドと神代達勇者サイドの両者は王城の廊下を歩いていた。

成金趣味、とまではいかないものの、それなりにきらびやかな廊下だった。

歩く順番は王国サイドの面々に勇者サイド達が後ろに付いてくる形となっていた。

このように廊下を歩く羽目になったのは宰相であるマルクがあのあとこう言い出したためだった。


『皆様には訓練場に来ていただきます。国民達の前で御披露目、といきたいところですが、その前に勇者としてある程度強くなって頂かなくてはなりません』


なんでも、国民の中には鑑定のスキル持ちもいる可能性があり、今の勇者達のステータスではまだ魔族には敵わないため、それを広められてしまえば国民の不安を反って増大させてしまうのだそうだ。

いくらチートな能力を持った勇者とはいえレベル一、召喚されて間もない神代達ではまだ戦力にはならない。

これはスポーツ等でも同じことが言えるだろう。

例えば、素人ながらオリンピック選手になれるほどの才能を持つ者がいたとする。対してオリンピック選手ではないにしろ、何年何十年も続けてきた熟練者がいたとする。さて、この二人を勝負させるとどちらが勝つか。

答えは後者。

どれだけ卓越した才能を秘めていたとしても、素人では熟達した技や勘、経験の前では意味を成さない。

素人か玄人か。ただそれだけのこと。

マルクが言っていることはそういうことなのだ。

勇者達も後半のマルク説明には納得するしかなかった。

マルクの説明を聞いている間に訓練場に着いたようだった。闘技場のような場所というのが神代の第一印象だった。クラスメイト達も同じような印象を受けているだろう。円の形をした地面の端の上に観客席のような場所が設けられていた。闘技場の『ような』ではなく、実際に闘技場としても機能しているのだろう。

闘技場に着いたと同時に、騎士団長であるギルバートが後ろを向き、勇者達を視界に入れる。


「さて、訓練場に着いたわけだが、戦いに参加する者はいるか?いたら手を上げてくれ」


「僕はやります」

ギルバートの質問に最初に手を上げた者がいた。クラスのリーダー的な存在であり、困っている人間を見ると放っておけない性格をしている少年、浅間勇だった。

動揺するクラスメイト達を横目に捉えながらも、浅間は続ける。


「僕も戦うのは怖いけど、困っている人がいるんだ。それに助けるだけの力もあるんだったら僕はやるよ」


そう言った少年の瞳には恐怖が見える。しかしそれと同時に決意の炎が宿っていた。

お人好しと言っても命あっての物だ。それでもその恐怖に抗おうとする。何が彼を突き動かすのだろうか。

他のクラスメイト達はまだ迷っていた。

命のやり取りをするのだ、辞退しても文句は言えない。

しばらくしてまた一人、手を上げる者が現れた。

それに釣られるかのように一人、また一人と手を上げる。

手を上げた理由は様々だろう。たった一人に命のやり取りをさせることへの罪悪感、浅間と同じようなお人好しの者、もしかしたらチートで主人公のような活躍をしたいという願望を持った者もいるかもしれない。

命のやり取りを覚悟する者、まだそれを理解していない者、まだ夢だと思い込む者。

理由は本人にしか分からない。しかしそれでも戦うことを決めた者達が集う。

反対に、戦いに怯えた者や危険を理解している者達は手を上げなかった。

参加者一九人、辞退者一二人。合計三一人がこの先を決めた。

それを見たギルバートは、神代達に告げる。


「それではこれから参加者と不参加者に別れて訓練をしていただきます。みなさんは騎士団長である私と宮廷魔道師団団長のマリアが指導を担当します。今日はステータスの再度の確認をして訓練方式を考えます」


ここでなくてもそれはできたのでは?とも思ったが、まあ何か理由があるのだろうと神代は自己完結する。

神代が自分の世界に入っていると、唐突にギルバートの声が聞こえた。


「そこのレベル〇だった神代殿、といいましたか、あなたは少しイレギュラーなのでこの後残っていただきます」


神代だけでなく、クラスメイト全員が目を剥く。


(ええ・・・残ってろってどういうことだよ)


困惑する神代の心境を表情で読み取ったのか、ギルバートは詳細を伝える。


「カミシロ殿のレベル、ステータスははっきり言って異常です。レベル〇なんてあり得ませんし、ステータスの値が一というのもおかしい。赤子以下のステータスですよ。そのため、慎重に考えなければなりません。ご容赦ください」


理由は分かったがギルバートの説明が所々酷い。『異常』とか『赤子以下』の単語が特に、後者が一番酷い。


(え、何俺赤ん坊以下なのステータス?結構傷付くんですが)


赤ん坊以下というのは結構応える。しかも言いづらそうにしているところを見るとなんか傷付く。ギルバートの表情を見ると微妙顔をしている。

もしステータスがもっと酷かったら一生立ち直れない気がする。


「いえ、虫でもここまで低くはないですね」


宮廷魔道師団団長のマリア様から衝撃的な発言が出た。

クラスメイト達もなんとも言えない顔をしている。

かみしろ の えむぴー(せいしん) は ぜろ に なった !

神代の目から汗が伝う。これは涙じゃない、汗である、絶対に!!

魔道師のマリアは無自覚なのか、それとも態となのだろうか。どちらにせよマリアの発言には注意しようと神代は心に決めるのだった。


「このままではいつ死んでしまうか分かりませんからね。少し我慢してください。その前に他の勇者様のステータスの再度確認をしましょう。では勇者様方、一人ずつステータスを見せてください」


マリアがそう言うと、勇者達は縦一列に並び、ステータスの開示を始めた。

その間神代はそれが終わるまでずっと待っていた。


しばらくして神代以外の全員がステータス確認が終わったようだった。クラスメイト達は訓練場を後にする。

終わるまでずっと突っ立っていた神代にステータス確認と訓練方針を決めたギルバートから声がかかった。


「神代殿、お待たせ致しました。それではステータスの開示をお願いします」


神代は言われた通りにステータスの開示を行った。


神代刀弥 Lv〇 一五歳 無職

HP一 MP一

スキル:異世界言語、鑑定Lv一、刀術Lv一

固有スキル:○*&%

称号:異世界人、加護を打ち消す者


何回見返してもこのステータスだった。

ギルバートによると、レベルが〇というのはあり得ないそうだ。そのせいでステータスも低いのかもしれないと神代は予想をつける。


「通常スキルは違和感はありませんが、固有スキルの部分が不明ですね・・・」


マリアの言う通り、通常スキルはこれといった違和感を感じるものはひとつもなかった。しかし、固有スキルの欄に目がいく。スキル名が文字化けしていた。レベルも書かれていないのも少し疑問を持つが、通常スキルの異世界言語もレベルがないため、気にはしなかった。やはり文字化けしたところが気になる。

ただ今のところはこのスキルについては全てが不明なため、保留ということが決まった。


「固有スキルについては私達が文献にそのようなものがないか調べてみます」


宰相のマルクがそう言った後、五人は他のステータスの内容を見る。

神代達は称号の部分を見た。


「勇者の称号がない?」


そう。

神代もたった今気づいたが、称号の欄に勇者という単語がなかった。

これは神代が勇者でないことを明確に告げていた。

他の四人にも動揺が走るが、次の称号が四人をさらに驚愕させることになる。


加護を打ち消す者。


神代も気になっていた称号。勇者達は善神アストルから加護を受けることによって勇者としての力を目覚めさせるのだが、神代にはその覚醒を促す加護がない。ないだけなら加護を受けることが出来なかったと納得することができる。しかし神代の場合はそれではなかった。

前述した通り、加護を『打ち消す』者、つまりは加護を受けていたという事実があるのだ。

しかし神代はそれを打ち消した。

加護を打ち消す者は二種類ほど存在する。

一つは加護を授けた者より格が同等、もしくはそれ以上の者。

しかし加護を与えたのはこの世界の唯一神、善神アストルである。神代が神よりも格が大きいという可能性は限りなくゼロに近い。よって一つ目の可能性はなし。

となると最後の可能性、それは────


「悪神の使徒・・・・・・」


マリアが思わず口にする。

悪神ヴィシス。

神代は知らないが、この世界で善神アストルと対を成す存在、全ての悪の根源とも言われるほど邪悪な存在。

対を成す存在同士の加護は、先に受けた加護が優先されるという法則がある。その為、受ける善神の加護は打ち消されてしまう。


「いや、神代殿が悪神の使徒ならステータスに加護として現れるはず、神代殿にはそれがない。つまり、神代殿は悪神の使徒ではありません。それより、神代殿の訓練方針を決めるのが今回の目的ではありませんでしたか?」


ギルバートはマリアの憶測を否定し、本来の目的へと軌道修正する。


「称号はまずおいておくとして、このステータスはやはり厳しいのでは?」


「そうですね、スキルの中に刀術スキルがあります。神代殿のスタイルは近接型のようですね。」


マリアとギルバートが流れるように決めていくのを、神代はずっと見ていた。

見ているというより『悪神の使徒』から先が全く意味が分からず呆然としていただけなのだが。

ほとんど会話に参加していない神代に、ギルバート達から突然話を振られた。


「加護を受けていないということは適正があったということになりますが、神代様は剣をやっていたのですか?」


「え、いや、俺は剣なんて持ったことないよ、それどころか武道すらしたことないし」


神代は剣術なんてしたことがない。運動能力は人並みにはあるが、中学からずっと帰宅部であった。適正等とギルバートは言っていたが、そんなことができるとは思えない。

どうでもいいことだが、ギルバート達の口振りからこの世界にも刀は存在しているようだ。


「それも謎ですね、加護が与えられていない限りは、勝手にスキルが現れるはずはないのですが・・・」


「今考えても仕方がありません。それについてはまた後日調べましょう」


マリアが強引に話を終わらせた。

たしかに、神代のステータスはこの世界のルールを無視した物ばかりだ。ここにいる者だけでは真相は分かりかねる。


「訓練についてですが神代殿のステータスを考えると、結構厳しくなります。また、神代殿は成長の仕方も他とは違う可能性もあります。そこはこれから試行錯誤していくしかないでしょう。とりあえず、一般人のレベル一程度には上げることを目標としましょう。神代殿もそれでいいでしょうか?」


どうやら訓練方針が決まったようだ。神代はギルバートの問いに肯定する。


「ああ、いいよ。じゃあよろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いします。では、今日はこれでお開きとしましょう。神代殿も何かとお疲のようですし、ゆっくりとおやすみください」


「寝床は王城内の一部屋を用意してあります。これから案内します、付いてきてください」


ギルバートとマルクの神代を気遣う言葉とともに、話が終わった。

神代達は訓練場を後にする。


ギルバートとマリア以外殆ど話に参加してなかったな、とどうでもいいことを神代は最後に考えながらギルバートについていくのだった。




そうして一日目が終わる。

勇者達も、王国の者達も。そして、神代も。


やがて一夜が明けて行く。


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